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本鈴が鳴ってから、なんとか立ち上がることができた私は、その足で保健室に向かった。



養護の高橋先生に左肩を見てもらったら、付け根辺りからかなり腫れているらしかった。



もともと線が細いせいか、小さい頃からちょっとぶつけただけであざができてしまう。

かなり強く壁にぶつかったから、こうなっても仕方ないだろうな。

もうちょっと踏ん張れるぐらい足腰が強かったら、全体重で壁に突進することもなかったのにな。

今更運動系の体格にはなれないけど。




ずくずくと鈍く強く骨に響く痛みで、腕全体に力が入らない。


「う~ん…これはちゃんとお医者さんに診てもらった方がいいわ。

 ここ、痛いでしょ?」


先生が軽くぷに、と押しただけで、鈍い痛みが激痛に変わった。

私は歯を食いしばり、涙をこらえた。



「ん~、ほっぺがピンク色になってきてるし…ちょっと熱っぽいかも?

 このまま早退して、病院に行きなさい。

 お母さん、今日おうちにいる?」

「あ、いえ。今日はちょっと用事で家にいなくて…」

「じゃあ、かかりつけのお医者さんは?」

「近所の笠原整形外科にいつも行ってます」

「それじゃ、これから先生に荷物持ってきてもらうし、あなたは早退届けを書いて。

 学校からも近いし、私が病院までついていくから」



先生が内線すると、10分も立たないうちに副担任の先生が荷物を持ってきてくれた。

…よかった、副担任が女の先生で。

先生とはいえ、男の人に荷物を触られたくないし。


それより、更紗心配してるよね?

心の中でごめん、と謝った。




帰りの準備を整え、私は高橋先生と共に学校を出た。

歩くたびに肩がずきずきずきずきとリズミカルに痛む。

いつもの病院が、妙に遠い。



幸い病院は空いていたので、すぐに診てもらうことができた。


診断結果は、打撲による捻挫。

1~2週間はシップと包帯による腕の固定が必要らしい。


ふぅ、と安堵のため息をついた。

お医者さんに診てもらうだけで、なんだかましになったような気がするのはなぜだろう?





家が近いということもあり、先生が家まで送ってきてくれた。

部屋でいつものTシャツとクロップドパンツに履き替え、枕とクッションを背中に当てて

ベッドの上で足を伸ばすと、天井に向かって大きなため息をつく。


思考は、全部お昼の出来事に向かっていく。



それにしても仲良くしようとしたり、いじわるしようとしたり、お姉さまたちの行動は理解不能だ。

ただわかったことは、先輩たちは巧くんのことが好きで好きでたまらないってこと。


私だったらどうしただろう?

巧くんと全然顔見知りなんかじゃなくて、どうにかして知り合いになりたいって思ってるのに手段がなくて。

遠くから見てることが苦しくなって、自分の想いを伝えたくて。



…それでも、巧くんのことを知ってる子をあんなふうに取り囲んで脅すような行為は絶対にしない。

だったら呼び出して、正面からきちんと好きだと伝えたい。

それでだめだったら…だめだったら、どうだろ?

諦められる…?



私はぶるり、と震えた。

忘れるなんて、諦めるなんて、できるわけがない。

だって、小さい頃から私には巧くんしかいなかったんだもん。



…ん~、これじゃ幼馴染的発想だ。




”幼馴染の立場利用してさ!”


”幼馴染にしてはちょっと図に乗りすぎてんのよね!”


”ちょっとは自分の立場考えたら?

 ふつー、おこがましいって思うでしょ”




胸が肩以上にずきずき痛む。



私、そうなのかなぁ?

…そう、だよね。


いつもいつも巧くんや更紗、友達に頼ってばっかり。

一生懸命しているつもりでも何かしら失敗して、それをフォローしてくれるのはみんな彼ら。

私は迷惑かけるばっかりで、友達のために何をしてきただろう?

たいしたこともできないで、それで友達面して…



「それって…さいてー、かも」


底なし沼に落ちたみたいに、どんどん気分が落ち込んでいった。



大人になりたい、何でも1人でできるようになりたい。


そう言いながら、どんな努力をしただろう?

結局努力も結果も中途半端で、その度に「いいんだよ、風花はそのままで」なんて微笑みかけて

もらうだけで満足して。


ホントは、もっともっと努力すべきだった。

でも私は弱いから、つい巧くんや更紗に甘えて頼ってしまう。


この際、二人と距離を置いてみたほうが良いんじゃないかなぁ?

頼る相手がいなければ、自分で解決しようともっともっとがんばれるだろう。

それにきっと私がいなければ、巧くんも更紗も私に煩わされることはない。


幼馴染だって図に乗ってた私を、優しい二人はいつも許してくれてる。

だから今度は私が頼られる人間になれば、二人ももっと気持ちが楽になるはず。




私は痛む肩をするりと撫でた。

腫れとシップと包帯で、いつもの倍ぐらいの厚みがある。



このことも、ちゃんと1人で解決してみせる。

先輩方の誤解を解くぐらい、私にだってできるんだから。


それに、勉強だってなんだって。

今回のテストだって苦手な数学も物理も、自分の力で克服するんだ。

教えてもらったりしないで、きちんと自分で調べて。



できるだけ1人で行動するようにしよう。

勉強だって、部屋で自力でがんばろう。

先輩たちのことは更紗に気づかれないように注意しなくちゃ。




誰にも頼らない。

自分ひとりでがんばる。



私は決意を新たにした。







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