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見知らぬ男に抱きしめられ、まるでぬいぐるみのように扱われて。

もうわけがわからないっ!



あまりに強烈な体験で、涙すら出ない。

私は心の中で必死になって巧くんの名前を呼んだ。

いつだってピンチになったら、絶対に来てくれる私の王子様だもん!

きっと来てくれる…はず。





「はぁ~…ったく。…お前…いい加減にしろよな~…」



恐怖に震えているところに降ってきた声。

まるで子守唄のように、聞くだけで気持ちが柔らかくなってしまうこの声は…



「巧くんっ!!」




思いっきり体を捩ってこの変態男の腕から脱出すると、一目散に巧くんの胸に飛び込んだ。


やっぱり来てくれた!

いつだって巧くんは、私のヒーローなんだもんっ!


巧くんの腕が背中に回り、いつもみたいに私を優しく包み込んでくれた。



「…風花、大丈夫だよ?」

「ふぇ…っ、こ、怖かったよぉ~っ…!」



「泣かないで?」という囁きとともに、額に巧くんの唇が落ちた。

安心できる温もりに、ふと体中の力が抜ける。

小さい頃から私が泣いていると、巧くんは必ずおでこにキスを一つくれる。




これは”大丈夫だよ”のおまじない。


このおまじないさえあればどんなに悲しい時も辛い時も、”大丈夫!なんとかなるよ!”って思うことが出来るの。

だからほら、あれだけ怖かったのに、恐怖心はちょっとずつ小さくなっていってる。



「…なんだよ巧、お前、相変わらずべたべただなぁ~」

「虎之助、やりすぎだ、完全に」




巧くんと男の会話に驚いて、男の子をちらりと振り返った。

どうやらこいつは巧くんの知り合いみたい…?

あれ…この顔…どこかで見たこと…



う~ん、と考えて記憶の糸を辿り、たどり着いた先にあった答えに「あ!」と声を上げた。


「幼稚園の頃からずっと風花を追い掛け回していた…東郷虎之助」


私より一歩早く答えにたどり着いた更紗が、事務的にいった。

…やっぱり。



「ご名答」


にやりと意地悪く笑った顔、確かにあのにっくき虎野郎のものだ。




嫌な思い出が瞬時に蘇ってきた。





小さい頃から体が小さくてドンくさかった私は、近所の徒党を組んだ悪ガキたちにおもしろ半分に追い掛け回されていた。 

いつも巧くんや更紗が助けてくれたけど、その頃から男の子の集団と遊ぶのは苦手だった。



そしてそんな私に追い討ちをかけたのが、この虎之助だった。




同じ幼稚園に通っていた縁で、やつは巧くんと大の仲良し。

そんなある日、巧くんが幼稚園で一番仲のいい友達だから紹介したいと、虎之助をうちに連れてきたのだ。


男の子が苦手な私だったけど巧くんの親友だから無条件に気を許し、4人で一緒におやつを食べて遊ぼうということになった。



ちょっとだけ砂遊びをした後、お母さんが用意してくれたお菓子とジュースを三時のおやつに食べた。

一人一人に十分な量を準備してくれていたのよ?

それなのにアイツは、自分の分をものすごい勢いで食べた後、食べるのが遅くて半分以上残っていた私のおやつを皿ごと掴んで、自分の口に一気に流し込んでしまったのだ。

呆然とその様子を見ている私を無視して、さらに私の飲みかけのジュースをごくごくと一気飲みしたあと、それはそれは意地悪そうな顔でにやり、と笑った。



もちろん、その後手が付けられないぐらい泣いたわよ。

その時の悔しさと悲しさ…それが私の人生で一番古い記憶の一つとなって残っている。



その日から、小学校も巧くんと一緒だった虎之助は、何だかんだ理由をつけて毎日のようにうちに遊びに来るようになった。

その度に虎之助に追い回され、奇想天外なイタズラに泣かされ続けたのだ。


ヤツのお陰で、私はすっかり”同年代男性恐怖症”になった。


小学校卒業と同時に父親の転勤でヤツが転校した時、どれほどうれしかったことか!




「何でこんなとこにいるのっ!?九州に引っ越したじゃないっ!」

「あぁ。オヤジが本社に呼び戻されたから、中途半端な時期だったけど

 こっちに帰って来たんだ」

「何も会いに来ることないじゃないっ!!あっ…アンタの顔なんて、

 見たくないんだからっ!!」

「あぁ?俺にそんな口聞くわけ?ミニマムが?」



こいつはちびっ子だった私を”ミニマム”と呼んで蔑んでいた。

人気のRPGに出てくる小人になる魔法だと知った時、私の心はあまりの口惜しさに泣いた。

当時から、私に”小さい”は禁句だったのに。



腹が立つから言い返したいのに、条件反射とは恐ろしい。

虎之助の地面を這うように低く恐ろしげに響く声を聞いて、びくびくっと体が震えた。

巧くんの胸に顔を埋めたまま、ぶるぶると震えていた。



「お前ねぇ…風花に会いたいって言うから連れて来たのに、怖がらせるんだったら

もう家に呼ばないよ?」


呆れたようにため息をついた巧くんが言った。

くくっと笑ったバカ虎は反省の欠片もない声で「わりぃわりぃ」と謝った。



「二人とも、驚いただろ?」


巧くんがニコニコ笑いながら言った。


「虎之助、うちのそばのマンションに引っ越してきたんだよ。

 今日からうちの学校に転校してきて、クラスも一緒なんだ」



虎之助は「どうぞよろしく~」なんていって敬礼してる。

誰がよろしくなんてしてやるもんかっ!



若干和やかになった雰囲気の中、虎の視線が私たち二人をじろじろと観察している。

…嫌な感じ。


「…まぁそうなってんだろうなーって思ったけど、やっぱお前達、くっついたのな~。

 なに?そのお子ちゃま相手にキスぐらいは済ませてんの?」



なんですとっ!?

私と巧くんが…そんなっ…!

そっ…そんなこと、あるわけないじゃない!


驚いた私は反射的に叫んだ。



「つっ…付き合ってなんかないわよっ!

私たち、ふつーに幼馴染で兄妹みたいなものだもん…っ!!」



なんて事言うのかしら?

人の気も知らないで、デリカシーのかけらもない男っ!!



「…はぁ?」


目の前には、目どころか口までかっぱりと開けた、お間抜けな虎之助の顔。

虎はびっくり顔のままぎしぎしと壊れたロボットみたいに首を動かして、巧くんを見た。



「巧……おま…っ……マジ?」

「まぁ…マジ、だね」

「…この状況でもか?」

「……この状況でも、だね」



未だに巧くんの腕の中にいる私を指差す虎之助の指がふるふると震えている。


「巧…お前って…お前って………っぷ!」



がはははははっ!と虎の豪快な笑い声が響いた。

あまりの大音響と突然の出来事に、虎を見つめたまま呆然としてしまった。


ひーひーと苦しそうにお腹を押さえる虎が一頻り笑い終え、にやりと不適な笑みを浮かべて顔を上げた。



「お前、ほんっと、昔から押しの弱いやつだな~!

 …ってことは、なに?俺にもまだチャンスがあるんだ?」

「…へ?なっ…なんのこと?」



何を言い出したんだ、この男は?

意味が分からなくて助けを求めるように巧くんを見ると、いつも優しい笑みを浮かべているブルーグレイの瞳が冷たく、鋭く光った。


私の背中に回されている巧くんの腕に、ぎゅっと力が入る。



「巧、俺ガキのままじゃねーから。今回は本気で行くからな?覚悟しろよ?」

「……心しておくよ」



二人の間で火花が散ったように見えたのは、気のせいだろうか?

大人しく見守っていた更紗は、面白そうに目を細めている。



どういう状態に陥っているのかわかってないのは、どうやら私だけみたい。




「…ってことで、絶対に風花を俺の女にするからな!覚悟しとけよ?」





………

………


はぃ?




言いたいことだけ言って、虎之助は「じゃあな!」とのしのしと帰っていった。


「面白くなってきたじゃないの、巧?」

「うるさいよ、更紗」


ニヤニヤと笑う更紗に、心底嫌そうに顔をゆがめた巧くん。




私だけワケが分からず蚊帳の外だ。

俺の女って…なに?







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