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実は、橘家と長谷家は親戚ではないのに同じ敷地内に住んでいる。

うちは代々この辺一体の地主で、自宅の敷地に所有の山がくっついているせいもあってとても広い。

広い庭と天然の小川と山に囲まれたこの土地の中に、戸建の家が3軒建っている状態だ。


ひとつは大きな昔ながらの民家である、おじいちゃんの家。

おじいちゃんが建てたという趣深い和風建築は、私の家。

そして、もう1軒が和風ながらもどこか西洋の雰囲気があるのが長谷家…つまり巧くんと更紗の家だ。



この立地条件もあって、言葉に違わず、私たちは一緒に育ってきたのだ。



なぜこうなったかというと、それは私たちが生まれる前の話。

ギルバートさんが今も現役の有名な大工であるおじいちゃんに弟子入りしたのが縁なのだそうだ。


イギリスの大学で建築を学んでいた若かりし頃のギルバートさんは、小さい頃から興味を持っていた日本建築を自分の目で見てみたいと一念発起し、日本にやってきた。

その時知り合いの紹介で出会ったおじいちゃんの仕事振りに惚れこみ、そのままうちの住み込み弟子となったそうだ。



もちろん、当時大学で建築を勉強していたお父さんとお父さんの弟である弘道おじさんともすぐに仲良くなった。

志も同じ3人は意気投合し、お互いの建築に対する情熱を語り合う、同志とであり親友となるにはさして時間がかからなかったそうだ。



弘道おじさんが大学3年生になったある日、おじさんは突然卒業制作代わりに家を建てたいと言い出したらしい。

普通なら止めそうな気がするのだけれど、根っから建築家であるギルバートさんとお父さんの心を刺激したらしく、いつの間にか3人でデザインした家を敷地の中に建築しよう!と決まっていたそうな。



そしてもうすぐみんなで建てた家が完成という頃に訪れた、運命の出会い。



当時お父さんと婚約していたお母さんが、大親友である由梨絵さんを連れて建築現場に遊びに来た。

由梨絵さんを見た瞬間、ギルバートさんはあっけないほどあっさりと恋に堕ちたそうだ。

そして、その場で速攻プロポーズ。

あまりの電光石火ぶりに呆れたみんなは断られるだろうと笑っていたのに、由梨絵さんの返事は「はい」の一言。

聞くと、由梨絵さんもギルバートさんに”瞬間一目惚れ”だったらしい。



回りも驚くほどのスピード結婚で、完成した家は二人へのプレゼントとなった。

今でも目のやり場に困るぐらいラブラブな2人の、大切なマイホームである。





陽だまりのように穏やかな空気を持つうちの両親や、いまだラブラブのギルバートさん・由梨絵さん夫妻を見て成長してきたせいか、私は小さい頃から素敵な結婚というものにひどく憧れていた。



私達が小さい頃から、由梨絵さんはよく「ギルはね、私の運命の人だったの」って幸せそうに話してくれた。

未だ恋する少女のように夫への愛を語る由梨絵さんを見て、巧くんは苦笑し、更紗は呆れた顔するけど。

私はうらやましくてたまらなかった。


だから幼い頃の私は、運命の人ってどんな人かな?早く運命の人に出会いたいなって、ずっとずっと考えていた。

その頃、一人っ子の私は巧くんと更紗のことを大切な本当の兄姉だと思っていたし、巧くんに対する気持ちが恋だなんて考えてもいなかったけれど。





それが中学3年生のある日。


偶然、巧くんが私と同じ中学校の女の子から告白されている場面に遭遇してしまった。

時々廊下ですれ違う、大人っぽくて華やかな美人だなぁと密かに憧れていた女の子だった。


夕暮れの公園でも分かるほどに顔を真っ赤にした女の子に優しく微笑みかける巧くんを見た時、胸にずきずきと得体の知れない痛みが走った。

女の子がゆっくりと巧くんの胸に飛び込んだ時には見ているのが我慢できなくて、私は脱兎のごとくその場を逃げ出していた。

気づいた時には私の部屋のベッドの上で、突然走り出したことで乱れた呼吸を整えることも出来ず、泣きながら痛む胸を押さえていた。



ご飯も食べずに部屋に篭って、一晩中泣いて、泣いて、泣きはらして。

気付いてしまった。

大切に育てすぎて、持て余すほどに大きく育ってしまった恋心に。

巧くんを想う度に苦しくて、苦しくて、たまらなくなる自分自身に。



その日から、私の秘められた片思い生活が始まったのだ。





巧くんに彼女がいるとか、過去にいたとか、そんなことは全然分からない。

確認するのが怖くて、聞いたことすらなかった。


ただ、わかっているのは。

巧くんにとって私は、今も昔も幼くて手のかかる、妹みたいな存在だってこと。



小さい頃から体が小さかった私は、更紗がそばにいない時には必ず近所の悪ガキ達にからかわれて泣かされていた。

そんな時、いつも巧くんがどこからともなく現れて、私のことを助けてくれた。

背中に私を庇って数人の男の子達に臆することなく立ち向かってくれた巧くんの背中は、私にとっては大きくて、世界一安心できる防護壁だった。



いつもどんな時もドジで泣き虫な私に手を差し伸べて、「心配で見てらんないよ」と優しく笑って助けてくれる。

いくつになってもお子ちゃまで手のかかる私のことを気に掛けてくれるのは、巧くんが優しすぎるせい。


そんな巧くんにお母さんと由梨絵さんがいつも「たっくん、過保護すぎ」笑ってる。

みんながいつまでも頼りない私に呆れてるような気がした。



それがもどかしくて、辛い。

巧くんとつり合う位の、大人の女になりたいのにな…努力しているんだけど、実る気がしないのはなぜだろう?

願いがかなうのはいつの日か?



これまでやってみては挫折したあれやこれやを思い返し、ため息をつくしかなかった。










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