14
何度も唇を優しくこすり付け、食み、軽く歯を立てられるたびに、心拍がありえないビートを刻む。
そしてようやくさっき私の演説をさえぎったのは、巧くんのキスだったんだと気づいた。
そのうち舌先で唇をなぞられ、力が抜けたところに巧くんの舌が入ってきて、私の舌に絡み付いてきた。
驚き、戸惑ったあと、体の深い部分がきゅううと締め付けられる。
口の中をなめられる度に呼吸が乱れ、体のあちこちがうずき、力が抜けていく。
いったいどれぐらいの時間そうしていたのかわからない。
時間とか空間とかそういう感覚の全てが消え去って、今はただ巧くんという存在しか感知できない。
不思議な感覚。
まるで世界には二人しかいないみたいだ。
唇が離れた時、はたと気づいたら私は仰向きに寝転んでいた。
巧くんが私に覆いかぶさるようにして見下ろしている。
瞳が濡れて鋭くって、なんだかくらくらする。
唇がてらてら濡れ光ってるのは、きっとさっきの名残。
こんな、男の色気ムンムンの巧くん、見たことない。
怖いような、でも目が離せなくなる。
恥ずかしくて、照れくさくて、でも自分の中に全て取り込んでしまいたくなる。
巧くんはもう一度私の唇に優しい、触れるだけのキスを落とした。
まるで誓いのような、キス。
それから私の目をまっすぐに見つめて、言った。
「愛してる、風花。
これまでも、これからも、お前ひとりだけ」
信じられない告白に、目を見開いた。
私の全身、きっとまっかっかだ。
そんな私を見てくすりと笑った巧くんは、そっと額を私の額と合わせた。
この夜から、巧くんは正真正銘私の彼になり、私は正真正銘巧くんの彼女になった。
「長かったわよね~、こうなるまでが」
テラスでジュースを飲みながら、更紗が言った。
もどかしくて、歯軋りしすぎて奥歯磨り減りそうだったって。
巧くんの胸倉をつかんでゆすったこともあったらしい。
いつもクールな更紗がそんなことするなんて、思いもしなかった。
「だいたい、風花たちはお互いに想いあってるのばればれなのに、
お互いだけが気づいてなかったのよね!
おかげですっごい迷惑蒙ったのは私ってわけ。
お父さんたちだってしょっちゅう”進展あったか?どうだ?”なんて
聞いてくるし…」
「えっ!お父さんたちぃっ!?何でっ!?」
「…だから、バレバレなんだって。
巧なんて中学ぐらいの時、パパに絶対に風花の部屋入っても
自分の部屋に風花入れてもいけないって釘刺されてたし」
「何でダメなの?」
更紗はジトっと睨んできた。
…呆れてる?
はぁ~、と大きなため息をこれ見よがしについて、また一口ジュースをすすってから言った。
「馬鹿ね~。
巧だって男なんだから、うっかり間違いが起こったら困るでしょ?」
「間違いって?」
「…ほんっと、信じられないほどにぶっ!!
辛抱効かなくなって、風花押し倒したら困るって言ってんのっ!
中高校生で妊娠なんて嫌でしょ?」
私は一瞬きょとんとして、あまりにもあからさまな表現に顔が真っ赤になった。
でも…
「ないない!絶対にないっ!
巧くんがそんなことするわけないよ~!!」
やさしくて紳士な巧くんだもん。
そんなことするなんて、考えられないし。
この間だってあんな状況になったのに、そんな…赤ちゃんが出来るようなこと、しなかったしっ!
それなのに、更紗は「とんだ甘ちゃんね~」なんてせせら笑ってる。
「いいわよ。私の言うこと話半分に聞いてたら。
その時が来て慌てるの、風花だし。
こんな自己防衛できてない相手と一緒にいるのに何もできないって、
巧も可哀想だし」
「そ、そんなことっ!」
「風花が巧の頭の中覗いたら、絶対に怯えて逃げ出すわよ。
でもま、いいんじゃないの?
出来ちゃった結婚でも、無責任だって怒りこそすれ、
絶対に反対する人なんていないもの」
がーーっ!
やめてぇ~っ!!
絶対に、ぜぇーったいにっ!ないもんっ!!!
あまりの言い草に絶句してると、「……出来ちゃった結婚って」って呟きながら巧くんが後ろから抱き付いてきた。
ぎゃぁっ!とありえないほどひどい悲鳴を上げて、椅子から数センチ飛び上がってしまった。
ぎぎぎ…とぎこちなく振り向くと、巧くんが頬にキスした。
ぼんっ!と顔が爆発したかと思った。
「だから、風花がここまで世間知らずだったら、気づいたら出来ちゃった結婚だって
言っただけ。
どうせ片棒担ぐのあんただろうし、この件は巧がしっかりしてくれないと
おじさんに殴られるわよ?」
「…大丈夫。うまくやるから。ね、風花?」
「へ?あ、う、うん!」
「やっぱり全然安心できないっ!!」
叫ぶ更紗の一言で、巧くんは肩を揺らして笑った。
何がなんだかわからないけれど、二人に遊ばれたみたいで、私はぷっと膨れた。
巧くんがさらに胸に私を引き付ける。
低く響く笑い声が、背中越しに響いてくる。
私の胸がきゅうんと絞られる。
「風花、ずっとずっと、死ぬまで大切にするからね?」
唇の端っこに大きな音がするキスを落とした巧くんを見て、更紗は目をくるりと回した。
私は恥ずかしくて、照れくさくて、とってもとっても幸せな気持ちになった。