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かちかちかちかち…

さっきから、時計の音ばっかりがうるさいぐらいに響いている。



晩御飯を食べにダイニングに下りたら、そこには巧くんの姿だけがなかった。

どうしたのって聞いても、ギルバートさんも由梨絵さんも笑ってごまかすだけ。

やっぱり早く話をしなきゃって、気持ちがどんどん焦ってきた。



ご飯を食べた後、更紗と一緒にお風呂に入って洗うのを手伝ってもらい、さっぱりして部屋に戻った。

更紗には巧くん宛てのメッセージを託した。

今晩何時になってもいいから来てって。

きちんと話がしたいって。


もし巧くんが私のこと少しでも許そうって気持ちがあるなら、きっと来てくれるはず。

小さい頃みたいに、私の部屋の外に植わっている、大きな柏の木に登って。




秋になると、よく柏の木の根元に落ちているたくさんのどんぐりを3人で拾って遊んだ。

大きなどんぐりの帽子を指先にかぶせて、「アフロヘア!」なんて。

あの頃は今よりももっとずっと簡単で、単純で。

年齢と共に複雑になっていく関係は難しいけれど、それでもやっぱりそういう形が一番欲しい。


妹みたいな幼馴染なんかじゃない、1人の女として見て欲しい。

彼女だって思って欲しい。

お父さんとお母さんみたいに、エドワードさんと由梨絵さんみたいになりたい。



思いを伝えることは難しい。

でも、伝えなければ理解しあえない。


うじうじ悩んで迷って、そのせいで相手にも気まずい思いをさせるなんて間違ってる。

何もなかったみたいに諦められなかったら、正面からぶつかってみよう。

ダメだったら、その時に二人にとって一番いい関係を築きなおせばいい。

全てが消えてなくなるような、そんな頼りない絆じゃないはずだもの。


時間と共に変わっていく関係が、全て悪いわけじゃない。

きっと今以上に素敵なことが待ってるはず。

だから勇気を持って巧くんと向き合おう。

きちんと話をして、話を聞いて、きちんと気持ちを伝えるんだ。



私の決意が固まった時、こんこん、と窓を叩く音が聞こえた。

振り返ると、ベランダに巧くんが俯きがちに立っていた。





「入って?」


私は窓を大きく開け放ち、巧くんを中に入れた。

久しぶりに部屋を訪れた彼はとても大きくなっていて、まるで部屋が狭くなっちゃったみたいに感じる。

私のプライベートな空間に彼の気配があることがくすぐったくて、恥ずかしかった。


そんな私の浮かれた気持ちとは正反対に、巧くんの表情は硬くて疲れきっていた。

目の下はうっすらと暗い色が刺していた。

クマが出るほど悩んでいたのかと思うと、胸が痛んだ。



私は部屋においてあるポータブル冷温庫からコーヒーと紙パックジュースを取り出した。

これは夏場でもチョコレートを部屋に持ち込んで食べたがる私のために、昔巧くんと更紗が誕生日プレゼントにって買ってくれたもの。

大好きなキャラクター柄の小さな小さなこいつは、季節を問わず大活躍だ。

巧くんが私の部屋に入らなくなってからも、実は、ずっと巧くんが好きな飲み物を用意していた。

いつかきっと、またここに来てくれようになるって願って。



部屋の真ん中においてある丸いテーブルに飲み物を置き、二人で向き合って座った。

お互いに気まずくなって飲み物を一口のみ、そして沈黙。



耐えられなくなって勢いよく顔を上げて口を開くと、正面に座る巧くんも同じようにしてた。

お互いに口をあけたまま見つめあうこと数秒。

二人ともぶはっ!と噴出した。



「なんか、私たち…」

「馬鹿みたいだな!」



しばらくはくすくすと笑い合い、自分たちの挙動不審っぷりをおかしがった。

そのことで、ずいぶんリラックスできた。

今まで漂っていた張り詰めた空気が霧散し、今ではおだやかな馴染み深い雰囲気の中にいる。


ようやく、帰るべきところに帰ってきたような気がした。




「巧くんも、何か話することがあったんだ?何?」


そう聞くと、巧くんの顔が真剣になった。

まっすぐに私を見ている瞳は、とても苦しくて辛そうだった。



「まずは…風花、ごめん。謝って済むことじゃないけど、どうか許して欲しい」

「え?なっ、何のこと?」



巧くんは目を閉じ、深呼吸をしてから話し始めた。



「俺、めちゃくちゃイライラしてて、風花に八つ当たりしてた。

 何で俺のこと信用してくれないんだって

 …でも、一番の原因は、虎之助への嫉妬だった。


 何で俺には何も言わないくせに、虎之助には相談できるんだ?

 俺はそんなに頼りないのか?

 …風花は、虎之助のことが好きなのか?って」


ありえない巧くんの推測に、私は驚いて首を横に振った。

それに、これほどまでに自信なさげにしてる巧くんって…小さい頃以来かも。


「ないない!絶っ対に!それはないっ!!」

「そうは言うけど、虎之助って結構もてるんだよ?

 女子にも騒がれてるし。

 それに、やっぱりアイツはいいやつで、自慢できる親友なんだ。

 だから、あれだけ嫌ってた風花があいつの事好きになっても、

 実は嫌いな振りしてるだけで本当は好きだったとしても

 おかしくないって悩んでた。


 そこに、今回の事件だろ?

 俺、更紗にめちゃくちゃ怒られたよ。

 ちゃんと警告したでしょ、って。

 俺が不甲斐ないから、風花が女の子から集中攻撃されるんだって。

 正直、まさかあんなことが起こるなんて予想もできなかった。

 風花が…あんな目に遭うってことも。

 

 だから、ごめん」



なんか、巧くんの言葉にぐっときちゃった。

感動したというか、そこまで私のこと考えてくれてたんだって。


ここまで大切にされてるんだから、きっと私の気持ちをぶつけても巧くんはきちんと受け止めてくれるはず。

たとえ妹だって思ってるとしても。



「私、うれしい。

 巧くんがそこまで私のことを考えてくれたんだって思ったら」

「風花…」

「私もね、悪かったってずっと後悔してたの。

 先輩たちのことは、私も悪かったの。

 私が1人で何とかできるって強がっちゃったせいで、結局

 彼女たちの行動もエスカレートすることになっちゃったし。

 1人だけ我慢すればそれでいいって考えてたけど、違うんだよね。

 私が傷ついたら、家族全員が傷つく。

 もし家族の誰かが傷ついたら、私も傷つくように。


 そんなことにも気づかないで…本当にごめんなさい。

 私…巧くんに辛い思いさせちゃってた」



俯いた私を巧くんがぎゅっと抱きしめてくれた。

私は巧くんの首に両腕を回し、抱きしめ返した。

巧くんが愛用しているボディソープと昔から変わらない巧くん自身の温かい香りがする。

馴染み深い安心感が、体中に広がる。



「…でもね、ほんとはね。

 がんばりたいっていう気持ちももちろん本物だけど……ほんとの理由はね、

 怖かったの。

 巧くんに嫌われたくない、お荷物だって思われたくないって」

「風花がお荷物なわけないだろう?嫌いになんて…なれるわけない」


巧くんの大きな手が、私の頭をやさしく撫でる。

心までとろけそうな心地よさに、言いたいことが消えてなくなってしまいそうだ。

すごく小さなことをうじうじ考えてたなぁ…って。



「先輩たちに私は巧くんのそばにいる資格はない、分不相応だ、おこがましいって

 言われて、自分って何だろう?人に頼ってばっかだって情けなくなったの。

 妹みたいに私のことかわいがってくれている巧くんを利用して、

 頼りない振りしてたんじゃないか、私って。

 自分で自分がわからなくなって…それで、辛くて」


「ばかだな、風花」



そういうと、巧くんは私の頬にそっとキスをしてくれた。

それだけで心臓がどきりとはねる。

きっとありえないほどのどきどきは、巧くんにばればれに違いない。

恥ずかしくて、でも素直になりたくて。

私は巧くんにしがみつく腕に力を入れた。



「だいたい、何でそんなことを本気にしたの?」


きた!

いまだ!

今なら伝えられる。

私の本当の気持ち。



「だって、私……あのね、私、巧くんのこと好き、だから…

 ふさわしい女の子になりたかったの!

 あの!家族とか、妹とか、そういうんじゃなくて!

 えと、巧くんの周りにいる女の子みたいにうんと大人っぽくて…っ!!」



焦りに焦りながらの大演説中に、突然唇を塞がれた。

一瞬何が起こったのかわからなかった。

呆然としていると、たまらなくセクシーな雰囲気をまとった巧くんが言った。



「風花、キスをする時は目を閉じて欲しいな」

「へ??」



反射的にぎゅむっと目を閉じる。

それを見てくすくす笑う巧くんの吐息が唇を掠めた後、さっきよりも強く巧くんの唇を感じた。









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