12
夜、更紗が部屋に来てくれた。
もっと早くにきてくれると思っていたのにって言ったら、「休んでるところ邪魔しちゃ悪いから」だって。
私たちの間で遠慮なんて、なんか変だ。
そう伝えると、「そうだね」と更紗の肩の力が抜けた。
更紗の目を見たら、真っ赤に腫れ上がってた。
きっとずいぶん長い間泣いてたんだろう。
小さい頃の更紗は滅多に泣くことはないけど、泣き始めたらいつまでもぐずぐずしていた。
大きくなっても変わらないんだなぁと、なんだかうれしかった。
「…それにしても、驚いたわ。
風花が何か悩んでいるってことはわかってたけど、まさかこんなことに
巻き込まれてるなんて。
何で相談してくれなかったの?」
「そ…それは…」
「って、いいのいいの!
私だって風花と同じ立場だったら、きっと同じことしたから。
ちゃんとわかってる。
…ただ、風花が困ってるときに全然役に立たなかった自分に
腹立たしいだけ。
ごめんね…私…」
「更紗…」
どうしよう、私、更紗をとことんまで傷つけた。
後悔が次から次へと襲ってくる。
私1人だけで苦しめばいい、我慢していれば大丈夫って考えてた。
けれど、私が傷つけば周りにいる私を大切に思ってくれている人を深く傷つけてしまうのだということに、情けないけどたった今気づいた。
自分を犠牲にすることは、美しいことでもなんでもない。
自分勝手で自己満足で、大切な人を傷つける行為でもあるんだ。
私、きちんと更紗の気持ちを考えてなかったなと自分のばかさ加減が嫌になった。
こんなんじゃ、親友失格だ。
「ごめんなさい…私、更紗の気持ち、ちっとも考えなかった」
「風花、あのね、」
「いいの、聞いて?
私、ひとりでがんばらなきゃって、いつも迷惑かけてるからちゃんと一人で
できるようにならなきゃって、馬鹿みたいに意地張ってた。
もう自分で何とかできる時期を過ぎてたのに。
無理して自分を傷つけて自己満足に浸ることで、更紗も傷つけた。
私…恥ずかしい……本当にごめんなさい」
「……」
「これからはちゃんと相談するし、できないことはできないってちゃんというから、
手がかかると思うけど、そのときはアドバイスとかしてね?」
「あ、あったりまえじゃないっ!
わ、私…っ!ふうかっ!ごめんねっ!!
私も馬鹿みたいに”風花が何も話してくれない!”って、拗ねてたのっ!
だから、ごめんなさいっ!」
私たちはひしと抱き合った。
お互いのぬくもりが伝わり、深い友情や愛情が交感されているみたい。
私はやっぱりここに生まれてきてよかったって、心から思った。
「…風花、ホント、無事でよかった……」
「私は、大丈夫。私の責任でもあるもの。
だって、もし私がもっと早くにギブアップしてたら、先輩たちだって
ここまでエスカレートしなくて済んだもん。
私が逆らったり自分で何とかしようってやりすぎたから、普通だったら
やらないことまでやっちゃったんだと思うんだ」
「でも、それは!」
「うん、わかってる。
だからといってしていい行為じゃない。
けど、一方的に責めちゃいけない、自分の悪かったところも素直に
認めなきゃいけないって思うんだ。
今はまだあの時の事忘れられないし、傷もめちゃくちゃ痛いけど、
でもいつかはちゃんと向き合っていけると思うんだ~。
だから更紗、これからもずっと一緒にいてね?
私ががんばるとこ、見ててね?」
「当たり前じゃないっ!
私だって、巧も……」
不自然に更紗が口をつぐんだ。
そういえば…
「ねぇ、巧くんは?どこ?なんできてくれないの?」
更紗が戸惑ってる。
何があったんだろう?
「ねぇ、何があったの?教えて?」
「あのね、風花。巧が……ね、巧のこと、風花怒ってる?
顔も見たくないぐらい嫌いになった?」
あまりにも予想外の質問に、私は驚いて口をパクパクさせた。
どうやったら巧くんに腹を立てられるの?
嫌いになれるの?
そんなこと、あり得ないのに!
「そんなこと、あるわけないじゃんっ!」
「…そうよねぇ。そうなのよ、あり得ない。
私もそう言ったのに、巧みのヤツ…」
「巧くん、何か言ってたの?」
更紗は言いにくそうに、言葉を選び選び言った。
「アイツ、風花のところに行っても、きっと嫌な思いさせるからって。
ほら、先輩たち巧のことが好きで、それで風花に嫌がらせしたわけじゃない?
だから、自分が行くと風花が怖がるかもしれないって。
そんなことないって言ってるのに、全然聞く耳持たないの」
「そんなの、あり得ない!絶対にないもん!」
「…ここからは私の推測だけど。
それってカモフラージュで、実はもっと別のことで気に病んでるんじゃないかって
思ってるの。
ねぇ風花、最近巧と何か言い争いした?
だいたい最近の巧も様子おかしかったのよ。
不機嫌でとっつきにくくて、話しかけてもろくに返してこないし!」
私はあの公園の日のことを思い出した。
虎之助と一緒にいるところを見られて、すごく怒ってた巧くんの姿。
もしかしてあの時のこと…気にしてるの?
それともあの時キスしたこと…後悔、してる?
ちゃんと話しなきゃ。
このままだったら、幼馴染にも戻れないかもしれない。
私はそんなの絶対に嫌だ。
自分の思いが実らなくてもいい。
でもずっと家族で、大切な家族でいさせて欲しい。
だから…
「ねぇ、更紗お願い。巧くん、呼んできて?
……二人で話がしたいの」




