表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/58

50.『芦屋山手お道具迎賓館』


高殿円さんの小説『芦屋山手お道具迎賓館』は、“お茶道具に宿る付喪神たち”をテーマにした、とても不思議で優しい物語です。


派手なバトルや大事件が起こる作品ではなく、静かな会話の中から歴史や人の想いが浮かび上がってくる、まるで古い道具たちの人生相談室みたいな作品でした。


この作品で特に印象的なのが、白い天目茶碗の付喪神・シロさんです。


普通なら、価値ある茶碗は桐箱に入れられて、大事に保管されるものですよね。


でも先生は、その茶碗の価値をまったく知らず、なんと普通のご飯茶碗として使っています。


高価な骨董品として扱われるのではなく、毎日の食卓で自然に使われている。


このズレがまず面白いんです。


しかもシロさん自身も、それを嫌がっていない。


「名品として飾られたい」とか、「大切に崇められたい」とかではなく、“道具としてちゃんと使われたい”と思っているんですね。


ここが、この作品のすごく好きなところでした。


茶道具って、どうしても「美術品」として語られがちです。

でも本来は、人が使うための道具だった。


シロさんは、その原点を大事にしている存在なんです。


さらに面白いのが、シロさんには四百年分の記憶が欠けていること。


だから現代のことが全然わからない。


先生との暮らしを通して、少しずつ今の時代を知っていくんです。


炊飯器やコンビニみたいな現代の日常を、昔の道具の視点から見ているのが新鮮で、時々ズレた反応をするのがかわいい。


でもこの作品、本当に魅力的なのはそこだけじゃありません。


登場するお茶道具の付喪神たちが、それぞれ長い歴史を背負っているんです。


戦国時代を見てきたもの。


茶人に愛されたもの。


持ち主を転々としてきたもの。


戦や火事を生き延びたもの。


そういう“道具の人生”が語られるたびに、まるで歴史の本を読んでいるような感覚になります。


しかも、それを難しい説明ではなく、付喪神たちのおしゃべりとして聞けるのが面白い。


「あの武将はこうだった」とか、「あの茶人は変わった人だった」とか、道具だからこそ知っている視点で歴史が語られるんですね。


歴史好きにはかなり刺さる作品だと思います。


ただ、この作品は知識をひけらかす感じではありません。


先生とシロさんの会話がとにかく穏やかで、空気が優しい。


高価なお茶道具が出てくるのに、ギラギラした骨董の世界ではなく、“日常の中で道具と一緒に暮らす温かさ”が描かれている。


だから読んでいると、不思議と落ち着くんです。


シロさんがご飯茶碗として普通に食卓にいる光景も、どこか微笑ましい。


名品なのに、肩肘張っていない。


「道具って、使われてこそ幸せなんじゃないか」


そんなことを自然に考えさせられる作品でした。


歴史小説が好きな人、付喪神や民俗学っぽい話が好きな人、

静かな会話劇が好きな人にはかなりおすすめです。


派手さよりも、“長い時間を生きてきた道具たちの記憶”をゆっくり味わうタイプの作品。


読後には、家にある古い道具まで少し特別に見えてくる、そんな優しい物語でした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ