ドラゴンと王子
そのドラゴンは、小さいときからひとりぼっちでした。
それでもさみしくはありません。山のてっぺんにある彼の巣穴には、いつもたくさんの宝ものがあふれていたからです。彼のお母さんが、彼のためにたくさん残しておいてくれた宝ものです。たくさんのキラキラやピカピカに囲まれて、彼はいつも得意げでした。
「これだけたくさんのキラキラを持っているおれは、とてもえらいのだ」
金で出来た人形に自慢します。お供の犬は、色とりどりの宝石でできています。
「もっともっとキラキラを集めてやる。おれはえらいのだから!」
彼は大きくなってくると、人間たちのいる町へ飛んでいくことが増えました。キラキラやピカピカを見つければ、うばっていくのです。だって、彼はえらいのだから。
彼の巣穴はどんどん財宝が増えていきます。ですから、彼はなんども巣穴を掘って、巣穴を大きくしていきます。そして大きくすれば大きくした分、また宝ものを集めたくなるのです。
金銀財宝を奪われた町の人たちや、えらい王様たちは、すっかり困ってしまいましたが、ドラゴンを怒らせたら、人間なんてひとたまりもありません。そこで、年に一回、たくさんの宝ものをドラゴンにあげることにしました。その代わり、町を襲わないように約束したのです。
「ふん、まあいいだろう。おれが行かなくても持ってきてくれるなら、楽でいいや」
ドラゴンはそうして、何もしなくても年に一度キラキラが増えることになったので、ずっと巣穴の中で宝ものを眺めたり、宝もので遊んだりして暮らしていました。
そんなある日のこと。人間の町のほうが、なにやら騒がしいことに気づきました。
「どうしたんだろう? お祭りかしら」
どん、どん、と大きな音も聞こえます。人間はお祭りのときに、花火というものをすると知っていたので、きっとこの音はそれに違いないと思いました。
まあ、おれには関係ない。
ドラゴンは大きなあくびをして、丸まって眠りました。
それから何日か経ちました。すっかり町は静かになっていました。そうして、彼の巣穴の前にひとりの人間が現れました。
「あれ? 宝ものを持ってくる日だったかな。ちょっと早い気がするな」
ドラゴンは不思議に思いましたが、巣穴の前に出ていきました。そこには、まだ小さな男の子がひとりぼっちで立っていました。立派なマントを着ていますが、あちこちボロボロです。
「ドラゴンさん、こんにちは。ぼくは下の国の王子です。宝ものをもってきました」
「ふぅん? 王子がひとりでもってきてくれたのかい?」
「はい。実は、ぼくたちの国は滅んでしまいました。ぼくは王様の家族の最後のひとりです。ドラゴンさんに、最後の宝ものをもってきました」
「えっ。国が、なくなっちゃったの?」
「はい」
ドラゴンは、これは困ったと思いました。何もしなくてもキラキラやピカピカが増えていたのに、これからはそうはいかないようです。
「まあいいや。宝ものをちょうだい」
「はい、これです」
王子が差し出したのは、立派な王冠と、王様の持っていた杖でした。どちらも金色で、ピカピカ光って、宝石も大きいものがついています。
「うん、なかなかいいじゃないか。でもおまえ、その、首から下げている指輪、それもよこせ」
ドラゴンは、王子が細い銀の鎖を通して首から下げている、小さな指輪を目ざとく見つけました。しかし、王子はそれをぎゅっとにぎりしめて、首を横に振ります。
「ごめんなさい、これだけはだめです。お母さんがぼくに残してくれた、たったひとつのものなのです」
「ふぅん……」
ドラゴンは巣穴の宝ものを振り返りました。お母さんが残してくれたものです。
「じゃあ、いいや。そのかわり、おまえ、おれの家来になれ!」
「え?」
「おれはえらいからな! 家来がいてもいいと思うんだ!」
「わかりました。これからよろしくお願いします」
王子はきちんと頭を下げました。そうして、ドラゴンには家来が、王子には主人ができたのです。
ドラゴンの山には、きれいな川も、おいしい木の実も、食べられる野草もあります。ドラゴンが狩りを教えてやったので、王子は肉も食べられるようになりました。
「どうだ、これはとてもきれいだろう!」
「はい、色も美しいですね」
「ふふん!」
ドラゴンは、いつもは金でできた人形や宝石の犬に自慢していた宝ものを、王子に自慢するようになりました。王子はちゃんと応えてくれるので、ドラゴンはすっかり楽しくなりました。
寒い夜は、ドラゴンが火を吐いて、巣穴の中を暖かくしました。王子は、丸まったドラゴンにそっと寄りかかって眠ります。
暑い日は、王子が川で水を汲んできて、ドラゴンにかけてあげたり、濡らした布で体を拭いてあげたりしました。ドラゴンはうっとりと気持ちよさそうにしています。
雨の日は、巣穴の壁に、王子が上手にドラゴンの絵を描きました。ドラゴンも爪で、王子の描いた自分の横に、上手ではないですが、王子の姿を描きたしました。
晴れた日は、いっしょに木の実を集めたり、川で魚をとったりしました。宝ものの中に立派な槍があったので、王子は槍で魚をとるのが上手になりました。ドラゴンは、しっぽで王子に水をかけたりしてふざけました。
ドラゴンと王子はいつもいっしょに楽しく過ごしていたので、すっかり気持ちが満足したドラゴンは、町へ宝ものを奪いにいくこともなくなりました。王子といる時間を減らしてまで、ほしくないなと思ったのです。
それが何十年も続いたある日。
王子は、すっかりおじいさんになっていました。もう、身体もあまり動きません。ドラゴンが魚や肉をとってきてあげたり、木の実をつぶして食べやすくしてあげましたが、ほとんど食べられなくなってしまいました。
「どうしよう、どうしよう」
ドラゴンはおろおろしています。
「ドラゴンさん、ぼくはもうすぐ、空に昇ることになるでしょう。ですからドラゴンさん、この指輪を、もらってください」
王子は震える指で、首から下げたあの指輪を、ドラゴンに渡しました。
「でも、これはおまえの大事なものじゃないか」
「大事なものだから、あなたにあげるんです」
王子は、ほぅ、とひとつ息を吐きました。
「あなたに家来にしてもらえて、本当に楽しかった。あなたとともだちになれて、本当に、しあわせでした。ありがとう、ドラゴンさん」
王子はそういうと、静かに目をつむりました。
もう二度と、その目が開くことはありませんでした。
ドラゴンはわんわん泣きました。大事な大事なともだちが、いなくなってしまったのです。身体をすりよせても、しっぽの先でつついても、もう笑ってくれません。ドラゴンの目からポロポロこぼれる涙が、きらきらと光る宝石になりましたが、ドラゴンは見向きもしません。
ドラゴンは三日三晩泣きました。それから、宝ものの中にあった、大きな宝箱に、友だちと、その友だちがさみしくないように、たくさんのキラキラやピカピカを入れてあげました。その箱を、友だちが好きだった湖の底に沈めてあげました。
それからまた、永い永い月日が過ぎました。
ドラゴンはすっかり老い、ほとんど動けなくなりました。
「ああ、おれもそろそろ空へ昇るのだな」
ドラゴンは、友だちが眠る湖へ身体を引きずっていきました。友だちのくれた指輪をしっかり握って、湖に沈んでいきます。
湖の底の宝箱を見つけると、そっと身体で包み込みます。
「この指輪も、持っていくよ」
ドラゴンは目を閉じました。
ドラゴンは目を開きます。
青闇色の空を、彼は飛んでいました。とても身体が軽いのです。まるで若いころのようです。
「はて、これはいったい?」
きょろきょろと辺りを見回すと、上空からきらきらと光るものが見えました。
「あ!」
近づいていくと、それは宝箱に乗った王子でした。出会った頃の、小さな姿でした。
「こっちですよ、ドラゴンさん」
宝箱は船のように、空を進んでいきます。王子は、ドラゴンが見失わないように、中の宝ものをばらまいてくれているのです。
まるで天の川のようでした。
「王子! また会いたかった!」
ドラゴンは勢いよく飛んで追いかけます。追いつくと、王子も笑います。
「ぼくもです。さあ、いっしょにまいりましょう」
「うん! そうだ、これを返すよ」
ドラゴンはあの指輪を王子に渡しました。王子は嬉しそうにぎゅっと握って、遠いあのころのように、首から下げました。
「これからは、ずぅっといっしょですね」
「うん、ずぅっとずぅっといっしょだ」
ドラゴンと王子は天へ昇っていきました。
それ以来、空を見上げると、天の川を行くドラゴンと王子の姿といわれる星座が見られるようになりました。
ずっとずっと、いっしょに、きらきらと空に輝いているのです。
(END)




