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桃から生まれた桃子の鬼退治  作者: 双鶴


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9/20

9話 鬼ヶ島へ出発

◆ 1


朝の空気は、やけに冷たかった。


桃子は木刀を背負い、村の外れにある小さな港へ向かっていた。

犬は足元を歩き、猿は肩に乗り、キジは後ろからついてくる。


(……ついに、この日が来ちゃったんだ)


村人たちはすでに集まっていた。

みんな不安そうな顔をしているのに、桃子を見ると無理に笑顔を作る。


「桃子さま、気をつけてな」

「必ず戻ってきてくれよ」

「鬼を退治して、村を救ってくれ」


「いや、そんな簡単に言われても……」


桃子は苦笑したが、胸の奥がぎゅっと痛んだ。


(……帰ってこられる保証なんて、どこにもないのに)


---


◆ 2


港には、古びた小さな漁船が一艘だけ浮かんでいた。


「これで行くんですか……?」


「これしかないんじゃ」


老人は胸を張って言ったが、

船はどう見ても“ギリギリ浮いてる”レベルだった。


(沈まないよね……?

 いや、沈んだら終わりなんだけど……)


桃子が乗り込むと、犬も続いて乗ろうとした。


「ちょ、犬は船酔いするんじゃないの?」


犬は「ワン!」と元気よく飛び乗った。


……そして五秒後。


「……うぇっ」


犬は船の端でぐったりした。


「ほら言ったじゃん!」


猿は船の柱にしがみつき、

キジは船の縁に止まってバランスを取っている。


(……このメンバーで海渡るの、普通に無理じゃない?)


---


◆ 3


船がゆっくりと岸を離れる。


村人たちが手を振っている。

桃子も思わず手を振り返した。


「桃子さまー!」

「気をつけてー!」

「鬼を倒してくれー!」


「いや、倒せるかどうかは……」


声は波にかき消された。


(……ほんとに行くんだな、私)


桃子は海風を受けながら、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。


(怖いけど……

 でも、やるしかないんだよね)


---


◆ 4


しばらく進むと、海が少し荒れ始めた。


船が揺れる。

犬は完全にダウン。

猿は「キーッ!」と叫びながら柱にしがみつき、

キジは羽を広げてバランスを取っている。


「みんな落ち着いて! 落ち着いてってば!」


桃子も必死に船縁をつかんだ。


(やば……これ、普通に死ぬやつじゃん……)


そのとき、老人が言った。


「桃子や。

 あの島が……鬼ヶ島じゃ」


桃子は顔を上げた。


霧の向こうに、黒い影が見えた。

岩肌がむき出しで、木々は荒れ、

どこか“人の気配”があるようで、ないようで。


(……あれが、鬼ヶ島)


胸が強く締めつけられた。


---


◆ 5


船が島に近づくにつれ、空気が変わった。


冷たい。

重い。

どこか、息が詰まるような感覚。


犬が唸り、

猿が毛を逆立て、

キジが低く鳴いた。


(……やっぱり、危ない場所なんだ)


老人が言った。


「桃子や。

 ここから先は……おぬしの力で切り開くしかない」


桃子は木刀を握りしめた。


「……うん。

 わかってる」


(怖い。

 でも、逃げない)


船が岩場にぶつかり、止まった。


桃子は深呼吸をして、足を踏み出した。


「よし……行こう」


犬が吠え、

猿が肩に飛び乗り、

キジが空へ舞い上がった。


こうして、桃子はついに鬼ヶ島へ足を踏み入れた。


その先に何が待っているのか——

まだ誰も知らない。


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