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桃から生まれた桃子の鬼退治  作者: 双鶴


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8/20

8話 出発前夜

◆ 1


夕暮れの村は、いつもより静かだった。


普段なら子どもたちの笑い声が響く時間なのに、

今日は誰も外で遊んでいない。


(……なんか、空気が重い)


桃子は木刀を抱えながら、村の道を歩いていた。

犬は足元をついてきて、

猿は肩に乗り、

キジは後ろからとことこ歩いてくる。


「……あんたたち、明日ほんとに来る気ある?」


犬は「ワン」と返事し、

猿はキーッと鳴き、

キジは羽をふるわせた。


(……返事だけはいいんだよなぁ)


---


◆ 2


老人の家に戻ると、夕飯の支度ができていた。


「桃子や、たくさん食べておけ。

 明日は長い旅になるじゃろうて」


「……うん」


老人は笑っているが、その目はどこか不安げだった。


(そりゃそうだよね……

 鬼退治なんて、普通に考えて無理ゲーだし)


桃子は湯気の立つ汁物をすすりながら、

胸の奥がじんわりと重くなるのを感じていた。


(帰りたい……

 でも帰れない……

 どうすればいいの……)


老人がぽつりと言った。


「桃子や。

 怖いか?」


桃子は少しだけ考えてから、正直に答えた。


「……めっちゃ怖いよ」


老人は静かに頷いた。


「怖いのは、強い証じゃ。

 怖さを知っておる者ほど、よう戦える」


「……そういうもん?」


「そういうもんじゃ」


桃子は湯飲みを握りしめた。


(……強いとか弱いとかじゃなくて、

 ただ、逃げられないだけなんだけどな)


---


◆ 3


食事が終わると、老人が布団を敷いてくれた。


「明日は早い。

 ゆっくり休むんじゃぞ」


「……うん。ありがとう」


桃子は布団に横になった。

犬は足元に丸まり、

猿は窓の近くで寝そべり、

キジは桃子の枕元に座った。


(……なんか、修学旅行みたいだな)


少しだけ笑ってしまう。


でも、すぐに胸が締めつけられた。


(明日、鬼ヶ島に行くんだ……

 ほんとに、行くんだ……)


桃子は木刀を抱きしめた。


(……怖いよ)


---


◆ 4


そのとき。


ドン……

ドン……

ドン……


遠くの山から、太鼓の音が響いた。


昨日よりも、近い。


桃子は布団から起き上がった。


「……まただ」


犬が低く唸り、

猿は毛を逆立て、

キジは羽を震わせた。


老人が部屋に入ってきた。


「……鬼どもが、動いておる」


「……明日、行かなきゃダメ?」


老人は静かに頷いた。


「桃子や。

 おぬしが行かねば、村は……」


桃子は目を閉じた。


(……わかってるよ)


---


◆ 5


太鼓の音はしばらく続き、やがて止んだ。


桃子は布団に戻り、天井を見つめた。


(……明日、どうなるんだろう)


犬がそっと桃子の手に鼻を寄せた。


「……ありがと」


猿がキーッと小さく鳴き、

キジが桃子の髪をつついた。


(……この子たちがいるなら、

 なんとかなる……かもしれない)


桃子は深く息を吸った。


(……よし。

 明日、行こう)


目を閉じると、

太鼓の残響がまだ耳に残っていた。


こうして、桃子の“出発前夜”は静かに更けていった。


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