6話 武器が無い
◆ 1
鬼退治に行くと決めた翌日。
桃子は村の広場に呼び出された。
「桃子さまー! 武器を用意したぞー!」
「え、武器……?」
村人たちが誇らしげに差し出してきたのは——
鍬。
鎌。
棒(ただの棒)。
あと、よく分からない木の板。
「……いやいやいや、これ農具じゃん!」
村人たちは胸を張っている。
「鬼退治といえば鍬じゃろ」
「鎌も切れ味がええぞ」
「この棒は丈夫じゃ!」
「いや、竹刀とか木刀とか……そういうのが欲しいんだけど!?」
村人たちは顔を見合わせた。
「たけ……とう?」
「きとう……?」
(あ、通じてない……)
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◆ 2
桃子は鍬を持ってみた。
「……重っ!」
剣道で鍛えているとはいえ、鍬は重心が悪くて扱いづらい。
振り回したら自分が怪我しそうだ。
鎌は軽いが、リーチが短すぎる。
棒は……ただの棒。
「……無理。これで鬼と戦うとか絶対無理」
桃子は頭を抱えた。
(竹刀があれば……いや、竹刀じゃ折れるか……
せめて木刀があれば……)
そのとき。
「木刀なら、作れるかもしれんぞ」
低い声が背後から聞こえた。
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◆ 3
振り向くと、腕の太い男が立っていた。
村の鍛冶屋らしい。
「木刀……作れるんですか!?」
「まあ、形だけならの。
鉄は扱えるが、木も削れんことはない」
桃子は思わず身を乗り出した。
「お願いします! 木刀がいいです!
私、剣道やってて……その、こういうのの方が戦いやすいんです!」
鍛冶屋は桃子の構えを見て、目を細めた。
「……なるほど。
その構え、ただ者ではないな」
「いや、ただの女子高生ですけど……」
「女子高生とはなんじゃ?」
「……説明すると長いので省略で」
鍛冶屋は笑った。
「よし。作ってやろう。
ただし、時間はかかるぞ」
「どれくらいですか?」
「今日の夕方にはできる」
「早っ!」
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◆ 4
鍛冶屋が木刀を作っている間、桃子は広場で農具を試していた。
犬は桃子の周りをぐるぐる回り、
猿は木の上から見物し、
キジは地面をつついている。
「……あんたたち、暇でいいよね」
鍬を振ってみる。
「重い……無理……」
鎌を構えてみる。
「リーチ短すぎ……無理……」
棒を振ってみる。
「……これはワンチャンあるけど……
いや、やっぱり木刀がいい」
犬が「ワン」と鳴いた。
「そうだよね。木刀が一番だよね」
猿がキーッと鳴き、
キジが羽を広げた。
(……なんか、励まされてる気がする)
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◆ 5
夕方。
鍛冶屋が木刀を持ってきた。
「できたぞ」
桃子は息をのんだ。
それは、少し太めで重さのある木刀だったが、
握った瞬間、手にしっくり馴染んだ。
「……すごい。
これ、めっちゃいい……!」
桃子は構えてみた。
中段。
上段。
素振り。
空気を切る音が、農具とはまったく違う。
(これなら……戦える……!)
鍛冶屋が言った。
「鬼は強い。
だが、おぬしなら……あるいは」
桃子は木刀を握りしめた。
「……やるしかないんですよね」
犬が足元に寄り添い、
猿が肩に飛び乗り、
キジが桃子の頭上を飛んだ。
(……この子たちと一緒なら……
なんとかなるかもしれない)
桃子は小さく息を吐いた。
こうして、桃子はついに“武器”を手に入れた。
鬼退治への準備は、着実に進んでいく。




