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桃から生まれた桃子の鬼退治  作者: 双鶴


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5/20

5話 桃子、逃げられない

◆ 1


翌朝。

桃子が外に出ると、村の空気が昨日と違っていた。


ざわざわ……

そわそわ……


村人たちが妙に落ち着かない。

子どもたちは走り回り、大人たちは何やら準備をしている。


「え、なにこれ……お祭り?」


桃子が老人に尋ねると、老人はにこにこしながら言った。


「桃子の出陣祝いじゃ」


「出陣!? いやいやいや、まだ行くって言ってないし!」


老人は聞いていない。

村人たちも聞いていない。


「桃子さまー! 旗できたよー!」

「桃子さまのために餅ついたぞー!」

「鬼退治、頼んだぞ!」


「いや頼まれても困るんだけど!?」


桃子の声は、村人たちの歓声にかき消された。


(なんでこうなるの……?

 私、ただの女子高生だよ?

 剣道三段って言っても、鬼相手に勝てるわけないじゃん……)


---


◆ 2


村の中央には、簡易の舞台が作られていた。

その上には——


「……ちょっと待って。

 これ、私の絵じゃない?」


桃子の似顔絵が描かれた旗が掲げられていた。

しかも妙に美化されている。


「桃から生まれし勇者・桃子さま!」

「鬼を討ち、村を救う!」


「いやいやいや、そんなキャッチコピーつけないで!?」


村人たちは完全に“桃太郎の英雄”として桃子を扱っている。


(やば……逃げられない空気になってる……)


---


◆ 3


そのとき、犬が桃子の足元に寄ってきた。


「……あんたは気楽でいいよね」


犬は尻尾を振っている。

猿は木の上からキーッと鳴き、

キジは桃子の肩に止まった。


村人たちはそれを見て、さらに盛り上がる。


「おおっ! 犬・猿・キジが揃ったぞ!」

「これはもう、鬼退治に行くしかないのう!」

「天の導きじゃ!」


「いやいやいや、勝手に決めないで!?

 この子たち、ただの野生動物だからね!?」


しかし村人たちは聞かない。

むしろ“お供が揃った”と大騒ぎだ。


(……ほんとに、どうすんのこれ)


---


◆ 4


村の長老が前に出てきた。


「桃子や」


「……はい」


「鬼どもは、今夜にも村を襲うかもしれん」


桃子は息をのんだ。


「……そんなに、危ないの?」


長老は静かに頷いた。


「村の若い衆では太刀打ちできん。

 わしらも年じゃ。

 頼れるのは……おぬしだけじゃ」


(……そんなの、知らないよ)


桃子は胸の奥がぎゅっと痛くなった。


(私、ただの女子高生なのに……

 なんでこんな大役背負わされてんの……)


でも、村人たちの顔を見ると——

不安、恐怖、期待、希望……

いろんな感情が入り混じっていた。


(……この人たち、本気で困ってるんだ)


---


◆ 5


長老が言った。


「桃子や。

 鬼ヶ島へ向かう準備をしてくれんか」


桃子は目を閉じた。


(……逃げたい。

 帰りたい。

 でも……)


犬が足元に寄り添い、

猿が肩に飛び乗り、

キジが羽を広げた。


(……この子たちがいるなら……

 もしかしたら……)


桃子はゆっくりと目を開けた。


「……わかった。

 行くよ。

 行けばいいんでしょ」


村人たちが歓声を上げた。


「おおっ、桃子さまー!」

「勇者じゃ!」

「村の誇りじゃ!」


桃子はため息をついた。


(……もう後戻りできないんだな)


こうして、桃子はついに“鬼退治に向かう”ことを決めてしまった。


もちろん、本人の意思とは半分くらいしか関係なく。


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