4話 お供たち、意外と役にたつ…気がする
◆ 1
翌朝。
桃子は昨日の疲れを引きずりながら、老人の家の前で伸びをした。
「はぁ……犬は団子泥棒、猿は髪飾り泥棒、キジは団子食べ逃げ……
ほんとどうすんのこれ……」
老人はのんきに笑っている。
「まあまあ、動物というのは気まぐれなものじゃ。
そのうち役に立つ日も来るじゃろ」
「来ないよ! 絶対来ないって!」
そう言いながらも、桃子は昨日奪われた髪飾りのことが気になっていた。
(あれ、気に入ってたのに……返してほしい……)
老人が言った。
「猿はこの辺りの木をよく渡り歩いとる。
探せば見つかるかもしれんぞ」
「……行く」
桃子は即答した。
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◆ 2
林の中は朝露でしっとりしていた。
桃子は木々を見上げながら歩く。
「猿ー! 返してー! それ私の髪飾りなんだけどー!」
返事はない。
代わりに、木の上から“カサッ”と音がした。
「……いた」
昨日の猿が、枝の上で髪飾りをいじっていた。
「返してってば!」
桃子が手を伸ばした瞬間——
猿は髪飾りを持ったまま、別の木へ飛び移った。
「ちょっ……待てー!」
桃子は反射的に追いかけた。
剣道で鍛えた脚力がここで発揮される。
(逃がすか……!)
木の根を踏み越え、低い枝をくぐり、桃子は猿を追い詰めた。
「返して!」
猿はしばらく桃子を見つめ——
ぽい、と髪飾りを落とした。
「……え、返してくれるの?」
猿は満足げにキーッと鳴き、木の上へ戻っていった。
(……なんなのこの子)
髪飾りを拾い上げた瞬間、桃子は気づいた。
「……あれ?」
髪飾りの下に、何かが落ちている。
小さな、丸い石。
表面に奇妙な模様が刻まれている。
「なにこれ……?」
老人が後ろから声をかけた。
「おお、それは……鬼どもが使う“印石”じゃ」
「えっ」
老人は石を手に取り、眉をひそめた。
「鬼どもが仲間に合図を送るための石じゃ。
こんなものが落ちておるとは……」
桃子は息をのんだ。
(猿……これを拾ってきたの……?
偶然? いや、でも……)
昨日はただの泥棒猿だと思っていた。
でも、もしかして——
(……意外と、役に立つ?)
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◆ 3
村へ戻る途中、今度は犬が現れた。
「また団子狙い……?」
犬は桃子の前に座り、尻尾を振っている。
その口には、昨日奪った団子袋。
「返してくれるの……?」
犬は袋をぽとりと落とした。
中には団子が一つだけ残っていた。
「……食べてないの?」
犬は「ワン」と鳴いた。
(……この子も、悪い子じゃないのかも)
桃子が団子を差し出すと、犬は嬉しそうに食べた。
「……かわいいじゃん」
犬は桃子の足元にぴたりと寄り添った。
(え、懐いた……?)
老人が笑う。
「犬は忠義深い生き物じゃ。
昨日は腹が減っておっただけじゃろ」
「……そういうもん?」
桃子は犬の頭を撫でた。
(……この子も、意外と頼れるかも)
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◆ 4
村に戻ると、空から影が落ちた。
「えっ……」
キジだった。
昨日のキジが、桃子の前にふわりと降り立つ。
その足には——
布切れのようなものが引っかかっていた。
「なにこれ……?」
老人が目を見開いた。
「これは……鬼どもの衣じゃ!」
「えっ!?」
老人は震える声で続けた。
「キジは……鬼の居場所を探ってきたのかもしれん……!」
桃子はキジを見つめた。
(……まさかの偵察成功?
いやいや、そんな都合よく……
でも、これ……ガチで鬼の服っぽいんだけど……)
キジは誇らしげに胸を張った。
「……え、もしかして……
この子たち、ほんとに“お供”になれるの……?」
桃子は三匹を見渡した。
犬は尻尾を振り、
猿は木の上からキーッと鳴き、
キジは羽を広げている。
(……なんか、いける気がしてきた)
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◆ 5
その夜。
桃子は布団の中で考えていた。
(犬は懐いたし、猿は変な石拾ってくるし、
キジは鬼の服持ってくるし……
これって……もしかして……)
胸の奥が、少しだけ軽くなる。
(……私でも、なんとかなるのかな)
外では、また太鼓の音が響いた。
ドン……ドン……ドン……
でも今日は——
昨日ほど怖くなかった。
(……よし。
やるしかないなら、やるしかないよね)
桃子は小さく息を吐いた。
こうして、桃子と“お供たち”の奇妙な関係が、
ようやく始まりつつあった。




