3話 お供たちが全然言う事を聞かない
◆ 1
翌朝。
桃子は老人に連れられて、村の外れにある林へ向かっていた。
「桃子や。鬼退治には、お供が必要じゃろ?」
「いや、必要じゃないし! てか行かないし!」
「犬、猿、キジを従えるのが桃太郎というものじゃ」
「いやいやいや、従えるって……野生動物だよ!?」
老人は桃子のツッコミを完全に無視して歩き続ける。
(ほんとこの人、話聞かないな……
てか、犬猿キジって、どうやって仲間にすんの?
黍団子あげたら“はい家来になります”って、そんな都合よく……)
桃子の不安をよそに、老人は林の前で立ち止まった。
「ここらに、よく動物が出るんじゃ」
(いや、出るって言われても……)
---
◆ 2
まず現れたのは——犬だった。
茶色い雑種の中型犬。
人懐っこい目をして、尻尾をぶんぶん振っている。
「あ、かわ……」
桃子が近づこうとした瞬間。
犬は老人の持っていた黍団子の袋に一直線に突っ込み、
袋ごとくわえて逃げた。
「ちょ、待って!? 団子!?」
老人は慌てて追いかけるが、犬は全力で逃走。
桃子は呆然と立ち尽くした。
(……これ、家来になるどころか、ただの泥棒犬じゃん)
---
◆ 3
次に現れたのは——猿だった。
木の上から、じーっと桃子を見下ろしている。
「えっと……こんにちは?」
猿は返事をしない。
代わりに、桃子の髪飾りを見つけた瞬間、
キュッと目を輝かせた。
「え、ちょっ……!」
猿は木から飛び降り、桃子の頭に飛びつく。
「痛っ痛っ痛っ! やめっ……髪引っ張らないで!」
猿は髪飾りを奪うと、満足げに木の上へ戻っていった。
「返してー!?」
猿は完全に無視。
(……これ、器用とか知恵とかじゃなくて、ただの泥棒猿じゃん)
---
◆ 4
最後に現れたのは——キジだった。
鮮やかな羽を広げ、堂々とした姿。
桃子は思わず見惚れた。
「わぁ……綺麗……」
キジは桃子を一瞥すると、
老人が持っていた団子の残りをついばみ——
そのまま飛び去った。
「え、ちょ……早っ!」
老人は空を見上げて言った。
「……あれは、偵察に向かったのじゃ」
「いやいやいや、絶対違うでしょ!?
ただ団子食べて飛んでっただけだよね!?」
---
◆ 5
桃子は地面に座り込んだ。
「……無理じゃん。
犬は団子泥棒だし、猿は髪飾り泥棒だし、
キジは団子食べて飛んでっただけだし……」
老人は困ったように笑った。
「まあまあ、気長にいけばよい。
そのうち懐くじゃろ」
「懐かないよ! 絶対無理だよ!」
桃子は頭を抱えた。
(どうすんのこれ……
鬼退治どころか、お供すら揃わないんだけど……
てか私、なんでこんな苦労してんの……?
普通の女子高生なのに……)
そのとき——
遠くの山から、昨日と同じ太鼓の音が響いた。
ドン……ドン……ドン……
桃子は顔を上げた。
(……まただ)
老人が小さくつぶやく。
「鬼どもが……動き始めたかもしれんのう」
桃子の背筋に、冷たいものが走った。
(……やばい。
ほんとに、やばい世界に来ちゃったんじゃないの……?)
こうして、桃子の“お供集め”は、
開始早々、絶望的なスタートを切ったのだった。




