19話 決断
◆ 1
鬼の長から真実を聞いた桃子は、
洞窟の外に出ると、深く息を吸った。
冷たい風が頬を撫でる。
空は曇り、海は荒れ、
島全体が緊張に包まれているようだった。
(……領主がすべての原因。
鬼も、村も、どっちも被害者なんだ)
犬が桃子の足元に寄り添い、
猿が肩にしがみつき、
キジが頭上を旋回した。
「……行こう。
領主に会って、真実を確かめる」
桃子は木刀を握りしめた。
(でも……このままじゃ、戦いが始まっちゃう)
鬼と村の若者たちは、
いまにも衝突しそうな状態だ。
(止めなきゃ。
私が止めなきゃ)
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◆ 2
桃子が集落へ戻ると、
鬼たちと若者たちが再びにらみ合っていた。
「来るな、人間!」
「鬼め、かかってこい!」
「子どもを守れ!」
「村を守れ!」
怒号と恐怖が渦巻く。
桃子は叫んだ。
「やめて!!」
全員の視線が桃子に向いた。
桃子は震える手で、
背中の木刀をゆっくりと抜いた。
若者たちが息を呑む。
「桃子さま……戦うのか……?」
「鬼を倒すのか……?」
鬼たちも身構える。
桃子は木刀を見つめた。
(この木刀は、私を守ってくれた。
でも……もう、戦うために持つんじゃない)
桃子は深く息を吸い——
地面に、木刀を置いた。
コトン。
その音は、
島全体に響いたように感じられた。
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◆ 3
若者たちがざわつく。
「な、何をしてるんだ……?」
「武器を……捨てた……?」
「桃子さま、どういうつもりだよ!」
鬼たちも困惑している。
桃子は前に出た。
「私は……戦わない。
鬼も、村も、どっちも守りたいから」
若者たちは戸惑い、
鬼たちは息を呑んだ。
桃子は続けた。
「鬼が村を襲ったのは、
生きるためだった。
土地を奪われて、飢えて……
子どもたちを守るために、仕方なく……」
若者たちの顔が青ざめる。
「……そんな……」
「嘘だろ……?」
「鬼が……被害者……?」
桃子は首を振った。
「嘘じゃない。
領主が、鬼の土地を奪ったの。
鬼は追い出されて……
生きるために、村へ降りるしかなかった」
鬼の長が静かに頷いた。
「真実だ」
若者たちは震えた。
「じゃあ……俺たちは……
ずっと……間違ってたのか……?」
桃子は優しく言った。
「間違ってたんじゃない。
知らなかっただけだよ」
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◆ 4
桃子は木刀の前に立ち、
両手を広げた。
「私は、戦わない。
鬼も、村も、誰も傷つけたくない。
だから……私が間に立つ」
若者たちは息を呑んだ。
鬼たちも動きを止めた。
桃子は続けた。
「領主に会いに行く。
真実を確かめて、
村にも鬼にも伝える。
そのために……私は剣を置く」
犬が吠え、
猿が肩にしがみつき、
キジが空へ舞い上がる。
桃子は涙をこらえながら言った。
「お願い……
戦わないで。
私を信じて」
沈黙が落ちた。
長い、長い沈黙。
そして——
鬼の長が静かに言った。
「……娘よ。
お前の心は、我らに届いた」
若者のリーダーも、震える声で言った。
「……桃子さまが……そこまで言うなら……
俺たちは……信じる」
桃子は胸が熱くなった。
(……よかった)
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◆ 5
鬼と若者たちが武器を下ろす中、
桃子は木刀を拾い上げた。
(戦うためじゃない。
真実を届けるために持っていく)
桃子は鬼の長に向き直った。
「行ってきます。
必ず……戻ってくるから」
鬼の長は深く頷いた。
「娘よ。
お前に……未来を託す」
桃子は犬・猿・キジと共に、
村へ向かう道へ歩き出した。
(次は……領主のところへ行く)
その背中には、
迷いも恐れもあった。
でも——
決意が勝っていた。




