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桃から生まれた桃子の鬼退治  作者: 双鶴


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2/20

2話 桃子、村で暮らす事になる

◆ 1


老人の家は、昔話に出てくるような素朴な造りだった。

囲炉裏の煙の匂い、木の軋む音、外から聞こえる鳥の声。

すべてが“現代じゃない”と告げていた。


桃子は湯飲みを両手で持ちながら、必死に状況を整理していた。


(いやいやいや……どう考えてもおかしいでしょ。

 私、川で溺れて……気づいたら桃の中……?

 てかここどこ? 江戸? もっと前?)


老人はそんな桃子の混乱など気にも留めず、にこにこと笑っている。


「桃子や、腹は減っとらんか? 団子でも食うかの」


「だ、団子……?」


(まさか……黍団子……?

 いやいや、そんな都合よく……)


老人が差し出した皿には、見覚えのある丸い団子が三つ。


(出たよ……黍団子っぽいやつ……!

 てかこれ、何味? 栄養ある?)


桃子はそっと一つつまんで口に入れた。


「……あ、意外といける」


「ほっほ、よう食うのう」


老人は嬉しそうだが、桃子の頭の中は混乱の渦だった。


---


◆ 2


「ところで桃子や」


老人が急に真顔になった。


「最近、鬼が出るんじゃ」


「……は?」


(出た。出たよ。鬼。

 いやいやいや、待って。

 鬼って、あの鬼? 角生えてるやつ?

 それとも山賊的なやつ?

 てか私、普通の女子高生なんだけど?)


老人は続ける。


「村の若い衆では太刀打ちできん。

 わしらも年じゃしのう……」


「いや、だからって私に振られても困るんだけど!?」


「桃から生まれた子は、鬼を退治するもんじゃろ?」


「誰が決めたのそれ!?」


老人は完全に“桃太郎の物語”を信じているらしい。

桃子の言葉は一切届かない。


(やば……この流れ、絶対“鬼退治よろしく”ってやつじゃん……)


---


◆ 3


その日の夕方。

桃子は村を案内されることになった。


外に出ると、村人たちがざわざわと集まってくる。


「おお、桃から生まれた子か!」

「ほんとに女の子なんじゃなぁ」

「鬼を退治してくれるんじゃろ?」


「いやいやいや、しないし! できないし!」


桃子の否定は、村人たちの期待にかき消された。


(なんでこうなるの……?

 私、ただの女子高生だよ?

 剣道三段って言っても、鬼相手に勝てるわけないじゃん……)


村の子どもたちが目を輝かせて言う。


「桃子さま、犬とか猿とかキジを連れていくんじゃろ?」

「お供はどうするんじゃ?」


「いや、野生動物でしょ!? 無理無理無理!」


子どもたちは「すごーい!」と歓声を上げる。

桃子は頭を抱えた。


---


◆ 4


案内の途中、老人がぽつりと言った。


「桃子や。

 鬼はのう……ただの怪物ではないんじゃ」


「え……?」


老人の表情は、さっきまでの朗らかさとは違っていた。


「村の者をさらったり、家畜を奪ったり……

 夜になると、山の向こうから太鼓の音が聞こえる。

 あれは……鬼どもの合図じゃ」


(太鼓……昨日も聞こえたやつ……)


桃子の背筋に、ぞくりと冷たいものが走った。


「じゃが、桃から生まれた子なら……きっと……」


「いやいやいや、期待しないで!?

 私、桃から生まれてないし!

 てか普通に怖いんだけど!」


老人は困ったように笑った。


「それでも……村は、おぬしに希望を見てしまうんじゃよ」


桃子は言葉を失った。


(……そんなの、知らないよ)


---


◆ 5


その夜。

桃子は布団に横になりながら、天井を見つめていた。


(どうすんのこれ……

 帰りたいけど、帰り方わかんないし……

 鬼退治なんて無理だし……

 でも、村の人たち……めっちゃ期待してたし……)


胸の奥が、じわりと重くなる。


(……私、どうすればいいの?)


外では、遠くの山から太鼓の音が響いた。


ドン……ドン……ドン……


桃子は布団をぎゅっと握りしめた。


(……やっぱり、嫌な予感しかしない)


こうして、桃子の“桃太郎としての生活”は、

逃げ場のないまま本格的に始まってしまった。


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