16話 暴走
◆ 1
桃子が鬼ヶ島へ戻ろうとしたそのとき——
背後から、怒号が響いた。
「見つけたぞ、桃子!」
振り返ると、
村の若者たちが十数人、武器を手に森へ踏み込んでくるところだった。
鍬、鎌、棒、石。
どれも即席の武器だが、
その目は“戦う覚悟”でぎらついていた。
(……嫌な予感しかしない)
桃子は一歩前に出た。
「みんな、どうしたの……?」
若者の一人が叫んだ。
「鬼を倒しに行くんだよ!」
「村の長老が言ったんだ! 鬼が今夜にも襲ってくるって!」
「桃子さまが頼りにならないなら、俺たちが行くしかない!」
桃子の胸が締めつけられた。
(……最悪だ)
---
◆ 2
桃子は必死に止めようとした。
「待って!
鬼は——」
「桃子さまは黙っててください!」
若者の一人が怒鳴った。
「鬼の味方なんだろ!?」
「鬼の子どもを助けたって聞いたぞ!」
「もう信用できない!」
桃子は言葉を失った。
(……そんなふうに伝わってるの?)
若者たちは続けた。
「鬼は悪だ!」
「村を襲うんだ!」
「俺たちがやらなきゃ、誰がやる!」
桃子は叫んだ。
「違う!
鬼は……鬼は、村を滅ぼすつもりなんて——」
「嘘だ!」
若者の一人が桃子を突き飛ばした。
桃子は地面に倒れ、木刀が転がる。
犬が吠え、
猿が怒って毛を逆立て、
キジが羽を広げた。
若者たちは一瞬ひるんだが、
すぐに顔を歪めた。
「……動物まで鬼の味方かよ」
(……違う。
この子たちは私を守ってるだけなのに)
---
◆ 3
桃子は立ち上がり、木刀を拾った。
「お願い……行かないで。
鬼と戦ったら、誰かが死ぬ。
村も鬼も、どっちも傷つく。
そんなの、絶対に嫌だよ……!」
若者たちは顔を見合わせた。
そして——
リーダー格の青年が、静かに言った。
「……桃子さま。
あなたは優しすぎるんだ」
桃子は息を呑んだ。
「優しさじゃ、村は守れない。
鬼を倒すしかないんだよ」
その言葉は、
桃子の胸に深く刺さった。
(……優しすぎる?
違う。
私はただ……誰も死んでほしくないだけなのに)
青年は背を向けた。
「行くぞ!」
若者たちは一斉に走り出した。
向かう先は——鬼ヶ島。
桃子は叫んだ。
「待って!!」
しかし、誰も振り返らなかった。
---
◆ 4
桃子はその場に立ち尽くした。
(……どうしよう)
村の若者たちが鬼ヶ島へ向かえば、
鬼は応戦する。
戦いになる。
血が流れる。
(そんなの……絶対に嫌だ)
犬が桃子の手を舐め、
猿が肩に飛び乗り、
キジが頭上を旋回した。
「……行くしかないよね」
桃子は木刀を握りしめた。
(止めなきゃ。
私が止めなきゃ。
誰も死なせないために)
桃子は走り出した。
鬼ヶ島へ。
若者たちを止めるために。
そして——
自分の選んだ道を貫くために。




