15話 支えてくれるもの
◆ 1
村を飛び出した桃子は、
鬼ヶ島へ向かう途中の森で立ち止まった。
息が荒い。
胸が痛い。
涙がこぼれそうになる。
(……なんで、こんなことになってるの)
村は鬼を恐れ、
鬼は村を恨み、
桃子はその間に挟まれて——
誰からも信じてもらえない。
「……私、間違ってるのかな」
犬がそっと桃子の手に鼻を寄せた。
猿は肩にしがみつき、
キジは桃子の頭にそっと羽を触れさせた。
「……みんな……」
桃子はしゃがみ込み、
三匹を抱き寄せた。
「私、怖いよ……
村の人たちにも信じてもらえないし……
鬼のことも全部わかったわけじゃないし……
どうすればいいのか、わかんないよ……」
犬は桃子の頬を舐め、
猿は桃子の髪を引っ張り、
キジは胸元に顔をうずめた。
(……この子たちは、私を信じてくれてる)
桃子は涙を拭いた。
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◆ 2
そのとき——
森の奥から、かすかな声が聞こえた。
「……たすけ……て……」
桃子は顔を上げた。
「今の……?」
犬が吠え、
猿が木の上へ飛び、
キジが空へ舞い上がる。
三匹が同じ方向を示していた。
「……行こう!」
桃子は木刀を握り、声のする方へ走った。
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◆ 3
森の奥で見つけたのは——
村の若者だった。
足を怪我し、
倒れ込んでいる。
「えっ……! 大丈夫!?」
桃子が駆け寄ると、
若者は怯えた目で桃子を見た。
「も、桃子さま……!
鬼が……鬼が出たんだ……!」
「鬼に襲われたの!?」
若者は震えながら首を振った。
「ち、違う……
鬼の影を見て……逃げようとしたら……
足を滑らせて……」
(……鬼に襲われたわけじゃない)
桃子は胸をなでおろした。
「立てる? 村まで運ぶよ」
若者は桃子の手を掴んだ。
「桃子さま……
村では……あなたが鬼の味方だって……
でも……俺は……」
桃子は静かに言った。
「私は、村も鬼も守りたいだけだよ」
若者は目を見開いた。
「……そんなこと、できるのか……?」
桃子は一瞬だけ迷ったが、
すぐに答えた。
「できるかどうかじゃなくて……
やるしかないんだよ」
犬が若者の足元に寄り添い、
猿が荷物を引き寄せ、
キジが周囲を警戒する。
若者は呆然とつぶやいた。
「……すげぇ……
本当に……桃太郎みたいだ……」
桃子は苦笑した。
「桃太郎じゃないよ。
私は……桃子だから」
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◆ 4
若者を村の近くまで送り届けたあと、
桃子は再び鬼ヶ島へ向かう道に立った。
(……私を信じてくれる人も、いる)
胸の奥に、
小さな光が灯った気がした。
「よし……行こう」
犬が吠え、
猿が肩に飛び乗り、
キジが空へ舞い上がる。
桃子は木刀を握りしめた。
(村も鬼も、どっちも守る。
そのために……私は動く)
孤立しても、
怖くても、
迷っても——
支えてくれる仲間がいる。
桃子は前を向いた。




