14話 板挟み
◆ 1
鬼の長との対話を終え、
桃子は鬼ヶ島の外れにある岩場で深呼吸をした。
(……鬼は悪じゃない。
でも、村の人たちは鬼を恐れてる。
どうすれば……)
犬が鼻を鳴らし、
猿が肩に乗り、
キジが桃子の頭上を飛んだ。
「……帰ろう。
一度、村に戻って話さなきゃ」
桃子は木刀を握りしめ、
船のある場所へ向かった。
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◆ 2
村に戻ると、
空気が明らかに変わっていた。
ざわ……
ざわ……
村人たちが桃子を見るなり、
一斉に集まってくる。
「桃子さま! 無事だったか!」
「鬼は倒したのか!?」
「鬼ヶ島はどうだった!?」
桃子は一瞬、言葉を失った。
(……倒した、なんて言えるわけない)
桃子は正直に言った。
「鬼は……
倒してない。
ていうか……倒すべきじゃないと思う」
村人たちの表情が、一瞬で凍りついた。
「……は?」
「何を言っておるんじゃ……?」
「鬼は悪じゃろうが!」
桃子は必死に説明しようとした。
「鬼はね、村を襲ってるけど……
それは生きるためで……
鬼にも子どもがいて、生活があって……
悪いのは、鬼じゃなくて——」
「黙れ!」
村の長老が怒鳴った。
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◆ 3
長老は桃子を睨みつけた。
「鬼に騙されたのじゃ!
鬼は狡猾な化け物じゃ!
人間を欺くためなら、どんな嘘でもつく!」
「嘘じゃない!
私、鬼の子どもに会ったの!
怖がってて……
私が返したおもちゃを大事に抱えてて……!」
「そんなもの、鬼の策略じゃ!」
村人たちの視線が、
桃子に向けて冷たく変わっていく。
「桃子さま……鬼の味方なのか?」
「まさか……鬼に心を奪われたんじゃ……」
「鬼と通じておるのでは……?」
「違う!
私は村を守りたいだけで……!」
桃子の声は震えていた。
(なんで……
なんで話を聞いてくれないの……?)
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◆ 4
そのとき、
村の若者たちが駆け込んできた。
「長老! 大変だ!」
「山の向こうで……鬼の影を見た!」
「今夜にも襲ってくるかもしれん!」
村人たちがざわつく。
「やはり鬼は悪じゃ!」
「桃子さま、鬼を倒してくれ!」
「鬼を倒さねば村は滅ぶ!」
桃子は胸が締めつけられた。
(違う……
鬼は襲うつもりなんて……
でも、今の村の空気じゃ……
何を言っても通じない)
長老が桃子に向き直った。
「桃子よ。
鬼を倒せ。
それが“桃から生まれた者”の役目じゃ」
桃子は唇を噛んだ。
「……私は、鬼を倒したくない」
村人たちが一斉に息を呑んだ。
「……なんじゃと?」
「桃子さま……?」
「鬼の味方か……?」
桃子は震える声で言った。
「鬼も……守りたいの」
村人たちの視線が、
完全に敵意へと変わった。
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◆ 5
桃子は逃げるように村の外へ出た。
犬が寄り添い、
猿が肩にしがみつき、
キジが頭上を飛ぶ。
桃子は涙をこらえながら呟いた。
「……どうすればいいの……
村も、鬼も守りたいのに……
どっちからも、信じてもらえない……」
胸が痛い。
息が苦しい。
(私……間違ってるのかな)
そのとき——
遠くの山から、太鼓の音が響いた。
ドン……
ドン……
ドン……
桃子は顔を上げた。
(……鬼は、動いてる)
村も鬼も、
もう後戻りできないところまで来ている。
桃子は木刀を握りしめた。
(……私が、止めなきゃ)
孤立したまま、
桃子は再び鬼ヶ島へ向かう決意を固めた。




