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桃から生まれた桃子の鬼退治  作者: 双鶴


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20話 帰還

◆ 1 領主の屋敷


桃子は村の領主の屋敷の前に立っていた。


重い扉。

高い塀。

守衛の鋭い視線。


(……ここが、すべての始まり)


犬が低く唸り、

猿が肩にしがみつき、

キジが空を旋回した。


桃子は深く息を吸った。


「行こう。

 真実を伝えるために」


---


◆ 2 領主との対峙


領主は豪奢な部屋で桃子を迎えた。


「鬼の味方をしていると聞いたが?」


桃子はまっすぐに言った。


「鬼は……あなたに土地を奪われたんです。

 だから村を襲った。

 生きるために」


領主の顔が歪む。


「何を根拠にそんなことを——」


桃子は鬼の長から預かった巻物と鉄板を差し出した。


領主の紋章が刻まれた証拠。

奪われた土地の記録。

追放の命令書。


領主の顔色が変わった。


「……どこで、それを……」


桃子は静かに言った。


「鬼からです。

 あなたが奪った土地で、

 飢えながら生きてきた鬼たちから」


領主は言葉を失った。


(……これで、終わりにできる)


---


◆ 3 村と鬼の前で


村に戻ると、

鬼たちと村人たちが向かい合っていた。


緊張。

恐怖。

不安。


桃子はその間に立った。


「みんな、聞いて!

 鬼は悪くない!

 悪かったのは……領主だった!」


村人たちがざわつく。


桃子は証拠を掲げた。


「鬼は土地を奪われて、

 飢えて……

 子どもたちを守るために村へ降りただけ!」


鬼の長が前に出た。


「我らは争いを望まぬ。

 ただ……生きたかっただけだ」


若者たちは震えながら言った。


「……桃子さま……

 本当に……鬼は……?」


桃子は頷いた。


「うん。

 鬼は、私たちと同じ“人”だよ」


沈黙が落ちた。


そして——

村の長老が杖をつきながら前に出た。


「……桃子。

 おぬしの言葉を信じよう」


鬼の長も頷いた。


「娘よ。

 お前がいなければ……

我らは滅びていた」


桃子は胸が熱くなった。


(……よかった)


その瞬間——

空気が震えた。


---


◆ 4 光の裂け目


風が止まり、

海が静まり、

空に白い亀裂が走る。


(……来た)


桃子は胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。


犬が桃子の足元に寄り添い、

猿が腕にしがみつき、

キジが肩に止まった。


鬼の長が低くつぶやく。


「……娘よ。

 どうやら“時”が来たようだ」


桃子は唇を噛んだ。


(帰らなきゃいけないんだ……

 でも……)


胸の奥に、

言葉にならない痛みが広がっていく。


---


◆ 5 別れ


光が桃子の体を包み始める。


「ま、待って……!

 まだ……!」


犬が吠え、

猿が泣き叫び、

キジが羽をばたつかせる。


桃子は三匹を抱きしめた。


「……ありがとう。

 みんながいたから、ここまで来れたんだよ」


犬は桃子の手を舐め、

猿は桃子の胸に顔を埋め、

キジは桃子の髪をそっとついばんだ。


(帰りたくない……

 でも、帰らなきゃいけない)


鬼の長が歩み寄り、

桃子の前に立った。


「娘よ。

 お前は我らを救った。

 その心は……決して消えぬ」


桃子の目に涙が溢れる。


「私……もっとみんなといたかった……

 もっと話したかった……

 もっと……」


鬼の長は静かに首を振った。


「別れは終わりではない。

 心に残るものこそ、真の絆だ」


桃子は涙をこらえきれず、

鬼の長に抱きついた。


「ありがとう……

 本当に……ありがとう……!」


鬼の長は桃子の背に手を置いた。


「娘よ。

 お前の未来に……光があらんことを」


---


◆ 6 帰還


光が強くなり、

桃子の視界が白に染まる。


犬の鳴き声。

猿の叫び。

キジの羽音。

鬼たちの声。


すべてが遠ざかっていく。


(……さよなら)


最後に聞こえたのは、

鬼の子どもの声だった。


「ももこ……ありがとう……!」


涙が頬を伝う。


そして——

世界が反転した。


---


◆ 7 川辺


気がつくと、

桃子は川のほとりに倒れていた。


制服のまま。

木刀はない。

犬も猿もキジもいない。


ただ、

手の中に——

小さな石が握られていた。


鬼の印石。


桃子はそれを胸に抱きしめた。


(……夢じゃない)


風が吹き、

川面がきらめく。


桃子は空を見上げた。


雲の切れ間から差し込む光が、

どこか鬼ヶ島の空に似ていた。


(帰ってきたんだ……

 でも、あの世界は確かにあった)


胸の奥がじんわりと熱くなる。


---


◆ 8 歩き出す


桃子はゆっくりと立ち上がった。


制服の袖をまくり、

涙を拭い、

印石をポケットにしまう。


(私、変わったんだ)


鬼の長の言葉。

犬・猿・キジの温もり。

村人たちの笑顔。

鬼の子どもの小さな手。


すべてが胸の奥で光っている。


桃子は川沿いの道を歩き出した。


風が吹き、

木々が揺れ、

どこか遠くで鳥が鳴いた。


その音が、

キジの声に少しだけ似ていた。


桃子は微笑んだ。


「……行こう。

 新しい日常へ」


そして、

静かに歩き出した。


あの世界で得たものを胸に抱いて。


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