13話 鬼の長との対話
◆ 1
洞窟の奥は、ひんやりとした空気に満ちていた。
焚き火の明かりが揺れ、壁に映る影がゆらゆらと揺れる。
鬼の長は、桃子をじっと見つめていた。
その目は鋭いのに、どこか深い悲しみを湛えている。
「……人間の娘よ。
お前は、なぜ“話をしよう”と思った?」
桃子は木刀を抱えながら、正直に答えた。
「……怖かったから。
戦っても勝てないし……
でも、村の人たちも守りたいし……
だから、話すしかないって思ったの」
鬼の長は目を細めた。
「恐れを知る者は、愚かではない。
恐れを知らぬ者こそ、争いを生む」
(……なんか、深い)
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◆ 2
鬼の長は、洞窟の奥へ桃子を案内した。
そこには——
干からびた食料、
破れた布、
小さな子どもたちが寄り添って眠る姿があった。
桃子は息を呑んだ。
(……こんなに、苦しい生活をしてたんだ)
鬼の長は静かに語り始めた。
「我らは、もとは人間と同じ土地に住んでおった。
だが、ある日——
人間の領主が“鬼は不吉”と言い、
我らを山へ追いやった」
桃子の胸が痛む。
「……そんな理由で?」
「理由など、後からついてくるものよ。
恐れ、偏見、欲……
それらが混ざり、人は“鬼”を作り上げた」
桃子は拳を握りしめた。
(……村の人たちも、知らないんだ)
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◆ 3
鬼の長は、桃子の目をまっすぐに見つめた。
「人間の娘よ。
お前は、我らをどう思う?」
桃子は言葉に詰まった。
(どう思う……?
怖い。
でも、悪いとは思えない。
むしろ……苦しんでる)
桃子はゆっくりと答えた。
「……わかんない。
まだ全部はわかんないけど……
“倒すべき敵”じゃないってことだけは、わかった」
鬼の長は静かに頷いた。
「それで十分だ」
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◆ 4
鬼の長は、焚き火の前に座り直した。
「人間の娘よ。
お前は、村を守りたいと言ったな」
「……うん」
「ならば、我らも守りたいものがある。
子らの命、仲間の誇り、
そして……この島でのささやかな暮らしだ」
桃子は胸が熱くなった。
(……同じだ)
鬼の長は続けた。
「争いを望んでおるのは、
人間の村の“領主”だけだ。
奴は、我らの土地を完全に奪うため、
村人に“鬼は悪”と吹き込んでおる」
桃子は息を呑んだ。
(……そんなの、村の人たち知らないよ)
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◆ 5
鬼の長は桃子に向き直った。
「人間の娘よ。
お前は……どうしたい?」
桃子は深く息を吸った。
(どうしたい……?
戦いたくない。
でも、村も鬼も守りたい。
そんなの、無理ゲーじゃん……
でも……)
桃子は木刀を握りしめた。
「……両方、守りたい。
村も、鬼も。
どっちも、誰も死なないでほしい」
鬼の長は、しばらく黙って桃子を見つめた。
そして——
ゆっくりと微笑んだ。
「……ならば、お前に賭けてみよう」
桃子は目を見開いた。
「え……?」
鬼の長は立ち上がり、
洞窟の奥へと歩き出した。
「来い。
お前に“鬼の真実”をすべて見せよう。
それを知ったうえで……
お前がどう動くか、見極めたい」
桃子は犬・猿・キジと目を合わせた。
(……逃げられない。
でも、逃げたくない)
桃子は一歩、前へ踏み出した。




