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桃から生まれた桃子の鬼退治  作者: 双鶴


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1/20

1話 桃から生まれた女子高生?

◆ 1


葛城桃子は、可愛い。

鏡を見れば自分でもそう思うし、友達にもよく言われる。

ただし——剣道三段の肩書きと、鍛え上げられた体つきのせいで、男子からは微妙に距離を置かれがちだった。


「桃子ってさ、強いよね」

「いや褒めてるのかそれ」


そんな日常。

恋愛に興味がないわけじゃないけど、別に急いでるわけでもない。

普通の女子高生として、普通に学校生活を送っていた。


今日は剣道部の夏合宿。

山間の道場には、竹刀のぶつかる乾いた音がまだ残っているようだった。


「はぁ……今日のメニュー、マジでしんどかったんだけど」


汗で道着が肌に張りつく。

でも、嫌いじゃない。

剣道は桃子の“日常”そのものだ。


「桃子、自由時間どうする?」

「川で足だけ冷やしてくる。泳ぐ元気はもうゼロ」


スマホは圏外。

SNSも通知もない世界。

それが逆に心地よかった。


---


◆ 2


山の水は驚くほど澄んでいて、足を入れた瞬間、ひやりとした感覚が全身に広がる。


「うわ、冷た……最高じゃん」


深くはない。

膝下くらいの水位。

流れも穏やかで、危険なんて感じなかった。


——その一歩までは。


「え、ちょっ……!」


足裏の石が、思った以上に滑った。

体が傾き、反射的に踏ん張ろうとした瞬間、流れが太ももをさらう。


「待って待って待って——!」


冷たい水が肺に刺さる。

耳の中で水音が反響する。

息を吸おうとして、水を飲んだ。


視界が揺れ、暗くなっていく。


(やば……ほんとに……)


——暗闇が、すべてを包んだ。


---


◆ 3


どれくらい沈んでいたのか分からない。

ただ、暗闇の奥で、何かが脈打っていた。


ドクン。

ドクン。


温かいような、重いような、不思議な感覚。


次の瞬間——

眩い光が、世界を裂いた。


「ま、眩しっ……!」


身体が押し出される。

狭い空間から、外へ。

ぬるりとした果肉が肌を滑り、冷たい空気が触れた。


甘い桃の香りがした。


……桃?


---


◆ 4


「おおっ、でっけぇ桃じゃのう!」


「えっ……?」


桃子の視界に飛び込んできたのは、見知らぬ老人の顔だった。

どうやら桃子は——巨大な桃の中から転がり出たらしい。


老人は川辺で洗濯をしていたらしく、流れてきた桃を家に持ち帰り、

「なんか美味そうじゃ」

と包丁で割ったところ、中から桃子が出てきた、という流れらしい。


「女の子じゃ……桃から生まれた子じゃ……!」


「いやいやいや、違う違う! 私、人間で、川で溺れて……!」


必死に説明しようとするが、老人は聞いていない。

むしろ感動で震えている。


「桃から生まれた女の子……桃子じゃな」


「勝手に決めた!?」


「よい名じゃ。桃子や、わしが育ててやるからのう」


「いやいやいやいや、ちょっと待って!?」


反射的に中段の構えを取ってしまい、

老人が「おお、強そうじゃのう」と感心しているのが余計に腹立つ。


状況が理解できない。

川で溺れたはずなのに、なぜ桃から生まれているのか。

ここはどこなのか。

この老人は誰なのか。


頭の中は疑問でいっぱいなのに、老人は完全に“桃太郎のノリ”で話を進めてくる。


「さあ、家に入るぞい。桃子や」


「いや、入らないし! ていうか私、桃から生まれてないってば!」


抗議は虚しく家の中に吸い込まれた。


桃子は、桃から生まれた“ことにされた”のだった。


---


◆ 5


老人の家は、昔話に出てくるような素朴な造りだった。

桃子は座布団に座らされ、湯飲みを渡され、完全に“歓迎ムード”である。


(これ……まさか……)


桃。

老人。

“桃子”という名前。


(……桃太郎?)


そんな馬鹿な、と思う。

でも、目の前の光景はどう見ても“昔話の世界”だった。


「桃子や、最近は鬼が……いや、なんでもない」


老人が一瞬だけ表情を曇らせた。

その“なんでもない”が、妙に引っかかる。


外では、遠くの山から太鼓のような音が響いた気がした。


(……なんか嫌な予感しかしないんだけど)


こうして——

葛城桃子の、桃太郎世界での生活が始まった。


もちろん、本人の意思とはまったく関係なく。


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