愛と笑ひの夜
〈どつち取る?お天道さんと冬將軍 涙次〉
【ⅰ】
冥府でのお隣さん同士、と云ふ事で、八重樫火鳥と木場惠都巳は双方の戀人を誘つて、さゝやかなクリスマス・パーティを開く事になつた。* 永田が** 翔吉誕生を見届けたい、と云ふので、イヴの夜には間に合はなかつたのだが。枝垂・永田同道で男性陣は現れた。枝垂も實を云へば、*** ヤマハEC-06の予約受け付けで、多忙の折(輕2輪マニアが、ボーナス時の「自分へのご褒美」としたり、結構客はゐたのである)だつた。枝垂は、明治ものゝ印判手の大繪皿を(惠都巳は可愛いもの・綺麗なものが好きなのだ。もぐら國王の内妻・朱那のやうに貴金属類は慾しがらない)、永田は『小學館ロベール佛和大辞典』(火鳥はランボオの『地獄の季節』、サルトルの『嘔吐』等を原語で讀みたいとかねがね云つてゐた)を、それぞれの彼女へのプレゼントとして用意してゐた。
* 前シリーズ第182話參照。
** 前シリーズ第167話參照。
*** 前シリーズ第166話參照。
【ⅱ】
双方のカップルは、都内「知る人ぞ知る」名パティシエの作つたブッシュ・ド・ノエル、某有名ワイナリー嚴撰のチリワイン、そして、はるばる冥府まで宅配に來た(検問有り。あのスクーター、そしてバイトの姉ちやん、2026年の道交法改正以降はだうなつちやふんだらう、と枝垂は職業柄、思つた)ピザ屋のピザで、クリスマスを祝つた。火鳥「で、翔吉くん、だうだつた?」-永田「それが... 思つてゐた以上に不思議な子でさ」-4人は翔吉の話題で盛り上がつた。「天上天下唯我獨尊」の件、日替はりで男女どちらにでもなる件、そして過知能の件... 永田の話は不可思議な要素に滿ち滿ちてゐた。惠都巳(過知能と云つたら、*「シュー・シャイン」ちやんはもうゐないのね。淋しいわ。生きてゐれば、今頃ケーキの食べかすを貰ひに、こゝにゐる筈。)
* 前シリーズ第173話參照。
【ⅲ】
で、翔吉の男女日替はり現象について-「赤ん坊の内はいゝ。でも女の子としての生理が始まつて、胸もお尻も膨らみ始めたら、一體だう對處したらいゝんだ」とカンテラ、すつかりパニック狀態である。だが悦美、「あら大丈夫よ。それ迄には何らかの方策が見付かるわよ」と澄ましたもの。これだから女はコワい・笑。
※※※※
〈俺が今考へてる事当てゝご覧額と額を寄せ合ふ二人 平手みき〉
【ⅳ】
そんなカンテラを尻目に、親ルシフェル派の【魔】逹は、ルシフェル奪還の為動いてゐた。牧野がカンテラ・じろさんを呼び出した。「お取り込み中濟みません。ルシフェルさんの墓に【魔】がたかつてゐます!」-カンテラ・じろさん(忙しい・笑)、じろさんのトヨタ・コロナ2000GTで、「開發センター」庭へ-
【ⅴ】
「ルシフェル様、お迎へに參りました」と親ルシフェル派の【魔】逹。ルシフェル「儂にもクリスマス休暇ぐらゐは取らせろ」笑。カンテラ、これは斬る迄もない、と思ひ、拔き掛けた傳・鉄燦を鞘に収めた。じろさんが投げ技を、【魔】逹の一匹に打つと、【魔】は散りぢりになつて、逃げ出した。ルシフェル「惡いの、カンテラ。息子誕生の折に」-カンテラ「まつたくだぜ、TPOと云ふものは考へんのか、あ奴らは」-だが、翔吉の誕生を血で穢さずに濟んだのは、もつけの倖ひと云ふものだつた。
【ⅵ】
翔吉のベッドサイドには、聖書の「東方の三博士」ならぬ、田咲光流・* 比良賀杜司・それに由香梨の3名がやつて來て、「あら赤ちやん、めんごい事」など打ち興じてゐたが、彼らには翔吉の眞實を話すのは、時期尚早と云へた。杜司はチャムを抱いてゐなかつた。赤ん坊が猫アレルギーだと困るからだ。
* 前シリーズ第101話參照。
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〈さあらばよさつと差す日にバイバイす 涙次〉
【ⅶ】
と云ふクリスマス直後のカンテラ一味・及び親しい係累逹の活動だつたが、さう云へば「シュー・シャイン」は死んで何処に行つたのだらう。ハイブラウな彼の趣味からすると、蟲用の冥府は肌に合はぬ筈だつた。杳として知れぬ彼の死後。去る者、新參者、入り乱れての聖夜過ぎだつた。お仕舞ひ。




