打ち解ける二人
その次の夜、ノアはまた彼女のもとへやって来た。
「ほんとに来るなんて、あなた物好きね」
ぶっきらぼうに言う少女であったが、その心中には
彼と話したいという思いがあった。何より、昨日『間違っている』と言われたことが気になっていた。
「それで私のなにが間違ってるの?」
「そんなに焦らなくてもいいだろ? 夜はまだ長いんだ」
昨日は押され気味だったノアだが徐々に調子が出てきたようで、会話のペースを掴み始めていた。元来の彼はもしかしたら会話上手なのかもしれない。
「まずは君の名前を教えてよ」
「メネス=ブバスティス それが私の名前。こんなこと聞いて何が嬉しいんだか」
──ようやく名前を教えてくれた。これで少しは距離が縮まったかな?
「それで、私の何が間違っているの?」
なおも少女はそれが気になるようで、ひたすらにノアを問い詰める。
「メネスはさ、なにも努力してないよな」
「え?」
まさか努力不足をとがめられるとは、メネスは微塵も考えていなかった。ノアの言葉はさらに続く。
「ただ運命に身を任せるばっかりで、それを変えようなんて考えてもいない」
「だって! そのために生まれきたって、ずっと言われてきたんだよ。私に何ができるって言うの!」
メネスの語気が荒くなる。ノアの理不尽な言い分が受け入れられず、いらだっていた。メネスにとって怒りという感情は初めて感じるものだった。
ノアは淡々と続ける。メネスの怒りに対して、彼はまったく動じていなかった。
「この小屋から出る方法を考えるとか、誰かに助けを求めるとか? 色々できそうだけど」
「そんなことできるわけない! それがどういう結果を招くかノアは分かってないんだよ!」
「どんな結果だろうと、それでも必ず道はあるよ」
「意味わからにゃい。なんでアナタにそんなこと言われにゃきゃダメなの!?」
「誰かのために命を投げ出す時は俺にもある。やれること全部やって、それでも駄目なら死ねばいいと思うんだ」
「なにそれ……」
「俺はメネスにもっと楽しく生きて欲しいと思ったんだ」
思いの丈をぶつけたノアは立ち上がる。お互いの姿が見えていなくとも、ちょっとした物音でメネスは彼の動きを察知していた。
「だから俺を頼ってよ。これからも話し相手ぐらいにはなれると思うよ」
「帰らないで」
「えっ?」
「今日はここにいて欲しい」
メネスは生まれて初めて誰かに寄り添われ、生まれて初めて"寂しい"という感情を感じていた。そして壁越しの男に初めて"頼った"のだ。
初めての連続に少女は紅潮していた。月夜が深まる中で二人の間に会話はなく、ただ沈黙が続くばかりだった。しかしそれで良かった。
静の中、ノアはいつの間にか眠っていた。午前6時頃、朝焼けに照らされて彼はようやく目を覚ます。
「寝てた……じゃあ俺は戻るよ」
外の気温は低く、足先が冷たくなっているのを感じながらもノアは起き上がる。
「まって、明日も来るの?」
「嬉しいな。メネスからそう聞いてくれるなんて」
ノアが帰った後、メネスは彼に言われた言葉の一つ一つを噛みしめながら夜を待っていた。
──やれることか……確かに考えたこともなかったな。もしかしたら私、まだ生きていて良いのかも。




