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オトゥームの特技

数秒の間を置いてオトゥームは答えた。


「それは素晴らしいぃぃ!! まさかその名を君の口から聞くことになるとはね。感激の極み☆」


突然大きな声で言うのでノアとメネスはビクッとしてしまった。 


──びっくりした! なんだかこの人と話してると調子が狂うなぁ……


「そんな君たちに朗報だよ。実はね二週間後にサバトキングダムの人たちがこの街に来るんだよ!」


「ほんとうに!」


それは予想外の答えであった。まさかそんなに都合の良いことがあるかと思いながらも、ノアは純粋に喜んでいた。 


──まさか、こんな簡単にサバトキングダムに繋がることができるなんて。運がよかった!


「彼らに着いていけば待望のサバトキングダムまでひとっとび!」


「よかったにゃノア!」


「うん、こんなにすぐ見つかるたは思ってなかった!」


二人が喜んだのも束の間……


「ただぁ!」


オトゥームの切れのあるツッコミが二人の喜びを遮る。


「ただ……?」


「こちらとしても君たちを見極める必要があるよね! もし君たちが"裏切り者"だったら紹介した私の首がパンッ!」


首に手を当ててジェスチャーしながら、オトゥームは大げさに言う。


──確かにそんな虫のいい話あるわけないよな。信用ないのはお互い様って訳か……


「それで、どうしたら俺たちを信用してくれる?」


サバトキングダムに行き着くためには、まずはオトゥーム信頼を勝ち取る必要があった。彼がどんな難題な要求をしてくるのかとノアは身構える。


「そうだねぇ……組織の連中が来るまで二週間、その間、この街に滞在してはどうかな?」


提示されたのは想定よりずっと甘い条件だった。これには乗るしかない。しかしなんだか怪しい気がして、ノアはさらに青年を問い詰める。


「その間になにかミッションがあったりするのか?」


「特にそういうのは考えてないけどねー。もしかしてなんか試練とか欲しいかんじ? 実はドM?」


「いやっそういう訳じゃなくて。なんというか、甘過ぎるなと思って……」


不安そうなノアに対して、オトゥームは相変わらずの明るさで向き合う。


「そもそもね、サバトって時点で君たちが味方だとは信じてるよ。二週間様子を見るのはあくまで最終確認のため! それにどうせ二週間後にしかサバキンの連中来ないしね☆」


オトゥームには二人を疑う気持ちはあまりなかった。どういう事情があったとしてもサバトは夜真人を倒す者。青年にはそういう信条があったからこそ、サバトである二人を最初から受け入れた。


青年の提示した寛容な条件下において、二人はむしろ安心して二週間過ごせそうだった。しかしノアの中にはそれでも一つだけ懸念が残る。


「その間、視力はずっとこのまま?」


「そうだね、私の能力は解除したくても街のなかではできないんだ。解除条件は街から離れるか、私が死ぬかだね」


「そうか……」


見えないまま過ごすことはかなり大変だろうと容易に予想できた。そのせいでほんの少しだけ迷いが残っている。


もしも戦いに巻き込まれた場合、命の保障はない。戦うどころか、逃げることさえ困難かもしれない。迷ってうつむくノアに青年は言葉をおくる。


「世話役をつけるから日常生活は安心してくれ☆ それになにも悪いことばかりじゃない。視覚に頼らず生活するのは良い訓練になるさ!」


強くなりたいノアにとってはその点も魅力だった。そんなオトゥームの後押しを受け、彼は遂に覚悟を決める。


──いまさらリスクを恐れてたら前に進めないよな。大事なのは決断と実行だ!


「分かったよ。それじゃオトゥーム、二週間いさせてもらってもいいかな? メネスもそれでいい?」


横にちょこんと座る少女に確認をとるが、彼女はなんの迷いもなく二つ返事で答える。


「私はノアについてくにゃ!」


「いいねー二人とも。その決断、チョベリグだ☆」


こうして二人はゲル=ホーの街に滞在することを決めた。そんな二人をニコニコしながら青年は眺めている。


「さてここでクイズです!」


オトゥームは突然、右手の中指をたて二人に向けた。それはどこの世界でも侮辱的な意味を持つジェスチャーだが、二人が見えていないのをいいことに青年はニヤニヤしながら問う。 


「いま私は何本の指を立ててるでしょう?」


突然投げ掛けられた意味不明なクイズ、ノアとメネスは頭の上に?を浮かべている。


「見えてないんだから、分かるわけないにゃ」


「どういう問題?」


首をかしげる二人を見て、青年は得意げな顔を浮かべる。


「じゃあ今度はノアとメネスよ。好きな本数、指を立ててみな☆」


二人は戸惑いながらも、言われた通りに指を立てる。ノアは両手合わせて9本、メネスは4本を立てた。


「これでいいにゃ?」


「まさか何本か分かるのか?」


「視力がなくとも、音や匂い、空気の振動や味

その全てが世界の姿を教えてくれる」


その言葉のとおり、オトゥームは見えずとも世界を感じていた。そんな彼にとって二人が立てた指の本数を当てることは造作もないことだった。


「答えはなんにゃ?」


「こたえは13だね☆ 二人とも何本立てたか言ってみて」


「俺は9」「私は4にゃ」


9+4で合計は13。オトゥームは見事にその答えを的中させた。 


「すごい! どうやったらできるようになる?」


ノアは驚きながら、好奇心旺盛な子供のようにオトゥームに聞いた。


「習うよりも慣れよ。二週間後にはきっと二人ともできるようになるかもねぇー」


SAN値の時と同じように、やはりオトゥームは明確な答えを教えてはくれなかった。


こうしてノアとメネスの盲目の二週間が始まった。何も見えない毎日は不便だと思われたが、新しい感覚が研ぎ澄まされていくのを二人は既に感じ始めていた。


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