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二人の冒険

『新世62年11月 アマビエ討伐後 シャーウッドの森にて』


二人はサバトキングダムを目指して歩きだした。アマビエ戦でノアが負ったダメージは大きかったが、異常な自然治癒のおかげで、彼はすぐに歩けるぐらいには回復した。


本人は気がついていなかったが、彼はアマビエの力の一部を継承していた。




[解説]No.4『アマビエの逆鱗』

あらゆる病気に対して免疫を持ち、無効化する。さらに能力保有者の自然治癒力を大幅に高める。ただし欠損部位などを蘇生する能力はない。




そして猫の因子を持つメネスも生存力は高く、二人の旅路は案外快適なものだった。


ウルタールを出発する時、二人はあまり荷物を持っていかなかった。食料や水は道中確保しようという考えであった。


シャーウッドの森を歩くこと半日、彼らは幅15m程もある大きな道に出た。道路はアスファルトで舗装されているが、管理はまったくされておらず荒れ果てている。


その道沿いには看板や馬車の残骸など人の営みが放置されている。現代的な道路と中世的なオブジェクトの残骸、双方の文化レベルには差があった。


まだ古くない人工物がいくつも残っていたが、実際に生きている人間はどこにも見当たらなかった。


それでもノアとメネスにとっては初めて見るものばかりで、二人は興味津々な様子で色々と道草を食っていた。

 

何度も立ち止まって動物を観察したり、廃墟の中を散策したり、まるで博物館にでも来たかのように、はしゃぎながら二人は旅を続ける。


セルシオ老人の言いつけ通りに東へ東へ歩く歩く。何個もの廃村や森を通り抜けるうちに、彼らの旅は昼夜逆転していた。


夜行性の夜真人が日の高い間に襲ってくることはあまりないので、二人はその辺で拾った寝袋で昼間に眠った。そして夜になるとひたすら歩いた。


夜になると何度も夜真人が襲ってきたが、メネスの能力のおかげで全て戦わずに倒すことができた。


彼女の能力は殺意を向けた相手のSAN値を減少させて、異形の眷属にするというもの。対象が夜真人の場合、SAN値が0になった瞬間、夜真人の体が爆ぜて死ぬようだ。


知能の低い個体はそんなことも知らずに彼女を襲うので、なにもせずに倒すことができた。相手が賢くない場合において、メネスの能力は無敵と言える。


ウルタールを出てから4日目の夜、歩き疲れた二人は森のなかで焚き火をしながら休んでいた。メネスが川から採ってきた魚を焼きながら、彼らは談笑している。宛はなかったが二人は気楽だった。


こんなに楽しい旅ならどれだけ続いても良いと、どちらも内心は思っていた。


「ほんとに色々なものがあるにゃ。毎日が発見!」


「歩くのって楽しいな」


確かに旅は楽しかった。体の痛みも全部治っていたノアだが、一つだけ心配なことがある。これだけ色々な物を見て、色々な刺激を受けてもまったく記憶を思い出せそうな気配はなかった。


「なぁメネス、俺全然何も思い出せそうにないんだよ。何か分かることない?」


「うーん、私もまだまだノアのこと知らないし、あまり言えることはないかもしれないけど……」


悩みながらメネスはノアの顔をまじまじと見つめる。彼女は外見的特徴から彼の記憶について考察をしてみることにした。


「顔つきはウルタールの人とずいぶん違う。たぶん異国の人にゃ」


「異国か。たしかに俺とメネスの顔はぜんぜん違うな」


メネスの典型的な白人顔に対して、ノアの顔だちはアジア系だった。しかし彼の目の色は青色、アジア系には珍しい色だ。


「この世界にはどんな国がある?」


「カミが世界の9割を滅ぼした後、四つの国だけ残った。その内のひとつ、ここは帝英っていう国にゃ。あとは帝星と華皇、大印っていうのがあるらしい。他の国の人に会ったことないから、どんなのか分かんにゃいけど」


「そっかー。いつか全部の国に行ってみたいな」


「きっと自分がどこから来たか思い出すにゃ!」


「そうだな、ありがと!」


希望はまだまだ沢山あった。メネスに励まされたノアは再びやる気に溢れ、ちょうど焼けたイワナを勢いよく食べた。


数匹の魚を食べ終えた二人は焚き火を消して夜の森を再び歩きだした。この日は太陽がてっぺんに昇るまで歩く予定だった。


手作りの松明だけが頼りの夜道。ノアは数歩先しか見えないので、夜目に優れたメネスが先頭を行った。


彼女は昼でも夜でも関係なく周りがよく見えたので、彼女を先頭に歩けば崖から滑落したりする心配もなかった。


朝焼けと共に視界が開けてくる。木漏れ日が森を照らす中で、ついにシャーウッドの森の出口が見える。


「もうすぐ出口にゃ!」


「けっこう登ったな」


二人の歩んだ道のりは全体的に登りが多く、森の出口は丘の上だった。


そして彼らの目に飛び込んできた圧巻の光景、そこには探し求めていたものがあった。


四方にそびえ立つ巨大な防壁と沢山の家々、昇る煙と農場、その全部が丘の上からよく見えた。それは生きた人々の営みであり、生命の証明。


「やった! きっとあそこには人がいる!」


「すごく大きい村にゃ。私こんなの始めて」


「村って言うより街だな。きっとあの防壁が夜真人の攻撃を防いでるんだ」


二人は丘を駆け降りて、笑顔で街に向かった。丘の下には10m程の石の防壁が築かれており、その前まで来ると壁に大量の鈴がついているのが分かった。


一番上から足元まで、壁にびっしり並んだ鈴は見ていて気持ちの良いものではなかった。遠くから見ていた時はあんなに壮大で素晴らしい物に見えたのに、近くで見ると気味が悪かった。


希望に満ちた旅路に暗雲が立ち込める。


「この街大丈夫か?」


二人の笑顔が崩れ、不安な表情で顔を見合わせる。その時、彼らの前に"奴"が現れる……


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