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8話:捕虜を前に食う飯は美味い

 俺は思わず頭を抱えた。

 手にした情報は確かに貴重だが、このまま持ち帰ればさらなる任務が待ち受けていることは間違いない。


「ここで引き返しても、どうせ追い打ちをかけられるだけだしな……」


 迷いながらも、俺はため息をついて書類をきちんとまとめた。

 これで上層部に報告すれば、間違いなく次の行動を指示されるだろう。だが、少なくとも今は自分の仕事を果たしたと言える。


「仕方ない、これも仕事だ」


 そう自分に言い聞かせ、俺は気絶した敵兵をズルズルと引きずりながら、谷を引き上げることにした。

 だが、敵が何を企んでいるかは既に察しがついている。

 この情報を渡せば、王国側の対応も急を要するはずだ。すぐにでも次の任務が降りかかってくるだろう。


「団長もこれを知ったら、またややこしいことに首を突っ込むに違いない……」


 彼女の厳格で義務感の強い性格が、今回の件を放っておくはずがない。

 俺の望みは、ただ目立たずいることなのに、またその夢が遠のいていく気がしてならなかった。

 これも運命というヤツなのだろうか。


「まったく、ついてないな……」


 俺は再びため息をついて、谷を後にした。

 元々守備隊がいた哨所の一室に敵兵を投げ込み、俺は別室で寝ることにした。

 翌朝、まだ応援が来ないので、敵兵がいる部屋に様子を見に行く。


「良い朝だね」


 猿ぐつわをされ、フガフガと何かを言っている。大方、「殺せ!」とか言っているのだろう。まあ、貴重な情報源だ。殺すわけにはいかない。ここで殺しては、今後に関わる情報が引き出せない。

 俺には尋問の知識など皆無なので、下手に自害でもされたら困る。

 なので放置である。


「まあ、裏部隊の者らしいし、食事はなくていいよね」


 俺は二人の前で食事を始めた。何か言いたそうな視線が向けられるが、無視である。


「ん~、美味しい。一仕事した後の食事って美味しいよね。あ、君たちは喋れないんだったね」

「ん゛~!」

「何言ってるか分からないや。あははっ」


 窓から差し込む朝陽を眺めながら、優雅にお茶を嗜む。なんと優雅な一日だろうか。

 俺は暇なので反応を伺いながら、尋問みたいなことをする。


「君たちは、帝国の裏部隊だね?」

「ん゛ん゛!」

「うん? 違うって? 証拠はある程度揃っているから、否定しても遅いよ」


 沈黙する二人を見て、俺は続ける。


「国境守備隊が姿を消した理由は、帝国の「裏部隊」、つまり君たちが仕掛けた謀略だ。帝国は戦闘で守備隊を全滅させるのではなく、一部を捕らえ、帝国領へ連れ去った。これは国境付近の防衛をじわじわと崩し、次の帝国の侵攻を有利に進めるための戦略的な動きだ」


 その言葉に、二人の目が驚きで目を見開いた。俺はその反応だけで察する。

 なるほど、正解のようだ。


「一部を連れ去ったが、他は殺して死体を隠したか? 答えなくてもいい。その程度はわかる。連れ去った一部はまだ、国境を少し超えたところの砦にいる」


 敵兵は何も言わないが、俺は続ける。


「王都から応援が来るまであと早くて三日はかかる。この間に俺が砦を落とし、連れ去った王国兵を連れ戻せばいいだけだ。停戦協定を結んだとはいえ、先に戦争を仕掛けたのはそちらで、今回の謀略もそちら側だ。砦一つ消えたところで、今回の件を伝えれば、文句も出まい」

「……」

「まあ、あと二日だ。ゆっくり寝ていろ」


 俺は二人を気絶させたが、一瞬、笑っていたような気がした。気にせず立ち上がり、準備を済ませる。

 今から行く場所は帝国領だ。それも捕虜となった見方を助けに行かなければならない。

 ここから地図に記された砦の場所まで一日。


「ギリギリ間に合うかな」


 馬で行くと目立つので、今回は徒歩になる。身体強化を使えば、問題なく移動できるので、俺は哨所を出て、帝国領へと向かった。

 帝国側の国境には、帝国兵がおり監視の目を光らせていたが、俺は隙を突いて帝国領へと侵入を果たし、脳内の地図を頼りに砦へと駆ける。


 所々に、小さな哨所があり、人数は五人程度。応援を呼ばれたら厄介なので、魔力を斬撃のように飛ばして一瞬で仕留める。


 そのまま進んで行くこと半日と少し。日が少し傾き始めたところで遠方に砦が見えた。

 規模はそこまで大きくないようだな。日が沈み切る前に砦の近くに到着し、敵が寝静まる頃まで休憩しながら、砦を観察する。


「なんで俺はこんなことをしているのだろうか……」


 俺は麗な星空を見上げながら、そう呟くのだった。




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