3話:高まる緊張
ルドル砦に到着すると、俺たちは速やかに防衛線の構築に取りかかった。
砦の周囲には兵士たちが次々と柵を設置し、弓兵が陣地内の配置を確認していく。
魔法士たちは川沿いで魔法陣を描き、罠の設置が進められている。
作戦を考えたのは俺なので、全体の進捗を見渡していた。指示を出しながらも、時折自ら手を動かしていると、メイリス団長に加え、第二、第四、第五の騎士団長や副団長たちがやってきた。
そこには今回の総司令であるアグラス将軍もいた。
「どうだ、状況は?」
「順調ですよ。ただし、魔術師たちの士気が少し不安定です。冒険者と義勇兵の混成部隊ですから、多少の混乱は仕方ないですね」
メイリス団長にそう答えると、少し考えてから俺を見て口を開いた。
「そうか。お前がまとめてやれ。お前なら何とかできるだろう?」
メイリス団長の言葉に俺は思わず苦笑した。結局、何でも俺に任せる。
できなくはないが、適任者がここにいる。
俺は「いや、俺は最前線なので」と断り「その代わり」と言って第五騎士団長の顔を見た。
「ダリオン団長にお任せしたいです」
「僕かい?」
第五騎士団の団長、ダリオン・アークレイン。彼は二十五歳で金髪碧眼のイケメンだ。
イケメンは嫌いだが、実力主義のアルカディア王国で騎士団長という職に就いているのだから、実力は言わずもがな。
しかし、統率力は有名で彼に付いた二つ名は【戦場の大鷲】。
「作戦は伝えてあるので大丈夫だと思いますが」
「そうだね。それに、僕の騎士団は主に魔法部隊に近付けさせないようにすることだし。うん、わかったよ。受け持とう」
「ありがとうございます」
俺はダリオン団長に頭を下げる。
「礼なんていらないさ。君が作戦を立ててくれたおかげで、僕たちも勝ち筋が見えているんだからね」
ダリオン団長は爽やかに微笑んで言った。その言葉に、俺は少しばかり気恥ずかしさを感じながらも、感謝の気持ちを込めて再び頭を下げた。
その後、俺たちは各部隊の配置を再確認した。
団長たちがそれぞれの部隊を指揮し、魔法部隊や弓兵部隊との連携も念入りに調整する。俺は全体を見渡しながら、必要に応じて細かい指示を出していく。
弓兵部隊はミラ団長の指揮下であり、ダリオン団長とどうするかと話していた。
「弓兵は川沿いの高台に配置。魔法部隊が攻撃魔法を発動した直後に矢を放つようタイミングを合わせましょう」
「そうだな。そちらの攻撃に合わせよう」
二人は指示を出し、兵士たちはきびきびと動き、準備を進めていく。
やがて、砦全体がひとつの巨大な防御陣地として形を成し始めた。
ガストン団長率いる第四騎士団とメイリス団長率いる我ら第三騎士団は、最前線である。
ミラ団長の部隊は弓兵式と、強襲部隊の指揮など。ダリオン団長率いる第五騎士団は魔法部隊の防衛と後方支援。アグラス将軍や他司令官と参謀本部から一部の者は後方にて全体指揮となっていた。
砦の防衛線が形を成し始めた頃、一人の偵察兵が急ぎ足で本陣に駆け込んできた。泥まみれの顔には焦燥の色が濃い。
「報告します! オークの主力部隊がこちらに向かって進軍中! 予想より半日早く到着する見込みです!」
その言葉に本陣の空気が一気に緊張感に包まれる。
「到着までどれくらいだ?」
アグラス将軍が低い声で問いかけると、偵察兵は息を整えながら答えた。
「日没までには前衛が到達するかと……!」
その答えを聞いた将軍は険しい表情で地図を見下ろし、考え込む。俺も同じように地図を睨みつけ、戦況を思い描く。
「予定よりも早い進軍……こちらの準備が整う前に仕掛ける意図だな」
俺がそう言うと、メイリス団長が頷きながら続けた。
「悪魔教徒と魔族が仕掛けた大規模魔法が、想像より早く終わったと見るべきだろう。こちらに対応させないつもりだったか?」
「その可能性が高いですね」
俺は地図を指しながら続けた。
「敵はこの山道を通ってくるはずです。ここに罠を集中させ、進軍を遅らせましょう。敵が到達する前にこちらの準備を整えられるようにする必要があります」
「罠をどれだけ効果的に使えれば、後の戦闘が楽になるだろ」
アグラス将軍が険しい表情で頷く。
「罠の設置は魔法部隊に任せてください。ただし、進軍を遅らせるだけではなく、敵の士気を削ぐような工夫も必要ですが……洗脳されていたら難しいですね。とにもかくにも、進軍を遅らせます」
全員が賛同し、彼はすぐに指示を出しに動き始めた。
その後、山道に仕掛けた罠は予想以上に効果を発揮した。
オーク軍の進行を一時的に遅らせ、後続部隊が到達する前に少しでも戦闘の準備を整える時間を確保できた。しかし、それも束の間のことだった。
翌朝の正午、オーク軍の数は膨れ上がり、砦の防衛線に向かってまっすぐに進軍してきた。
その勢いに圧倒されそうになりながらも、俺たちは冷静に戦闘準備を整えていた。
昼頃、ついに両陣営は盆地の中央で対峙した。
オークの大群が一気に眼前に現れると、砦を守る我々の部隊も緊張の面持ちでその動向を見守った。
すると、オークの軍勢の中央に道が出来、軍勢の奥から数名のローブの男と魔族が歩み出た。




