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8話:悪魔との戦い5

 戦場の中心で繰り広げられる激闘は、見る者すべてを圧倒した。騎士たちの剣戟の音、魔力が激突する爆音、悪魔の不気味な咆哮が混じり合い、まるで地獄そのものだった。


 伯爵級悪魔の眷属たちはそれぞれが高い知能と力を持ち、騎士たちを翻弄していた。だが、ミラ団長、メイリス団長、ガストン団長――三人の団長が中心となり、騎士たちは一致団結して必死に食い下がる。


「リク、なんとかならないか⁉」


 メイリス団長が険しい表情で俺に問う。俺は悪魔どもを倒しながら返事をする。


「握手会みたいに一列に並んでくれたら楽なんですけどね」

「こんな時に冗談を言っている場合か⁉」

「癖ですって」


 目の前の悪魔をまとめて薙ぎ払いながら返答する。

 メイリス団長の言いたいことも理解できる。倒しても倒しても一向に減る気配がない。

 幸いなのは、背後が取られていないことだろう。


「それでなんとかならないか⁉」

「できますよ。合図したらみんなを少しでいいので下がらせてください」


 真剣に返すと、メイリス団長は「わかった」と頷いた。

 なら、最上級悪魔を倒した時と同じように、雑魚を一気に片付けて、傍観している伯爵級悪魔と一騎打ちに持ち込もう。

 悪魔が少し減った今、俺は団長に声をかける。


「団長!」


 メイリス団長は「みんな、今すぐに下がれ!」という号令が響き渡り、騎士たちは数歩下がった。

 その瞬間、俺は剣にも魔力を流し込み、一歩踏み出した。


「――はぁ!」


 横に一閃。瞬間、半数近い悪魔が横一文字に斬り裂かれ、黒い塵となって消滅した。

 その光景に、傍観していた伯爵級悪魔は驚いた表情を浮かべた。


「なにっ⁉」

「驚いてどうしたんだ? 安心しろよ。お前も消滅させてやる」

「調子に乗るなよ、人間が!」


 瞬間、ひときわ大きな魔法陣が現れ、そこから最上級悪が三体現れた。

 俺は団長たちに告げる。


「アレは任せます。俺はあのクソ野郎を倒してきます」

「任せろ」


 ガストン団長は力強く頷き、メイリス団長とミラ団長も頷いていた。

 騎士たちも体勢を立て直しおり、チャンスは今しかない。

 魔力で身体を強化した俺は、伯爵級悪魔へと突き進む。


「貴族気取りの化け物が、お前の相手をしてやる」


 叫びながら剣を振るい、魔力の斬撃を発生させる。眷属たちが俺を遮ろうとするが、剣を一閃するたびに斬り伏せられ、黒い塵となって消えていく。

 伯爵級悪魔は薄く笑いながら俺を見下ろした。


「ほう……先ほどもそうだが、人間にしては中々やるようだ」


 悪魔が片手を掲げると、赤黒い雷が空中に収束し始めた。その雷撃は周囲の大地を焼き焦がし、眷属すら巻き込むほどの威力を放っている。

 雷の猛威を前にしても、俺は怯むことなく剣を構えた。目立ちたくはないが、ここで一歩引くわけにはいかない。

 というよりも、もう目立っているので今更だ。


「すごい雷だな。こっちは傘すら持ってないのに、それで俺にビビれってか? ちょっと奮発しすぎだろ」


 わざと気楽な口調で言い放つと、伯爵級悪魔は不愉快そうに眉をひそめた。


「貴様、死の間際まで冗談を言うとは愚か者め! この一撃で跡形もなく消し飛ぶがいい!」


 悪魔が腕を振り下ろした瞬間、赤黒い雷が唸りを上げて俺に向かって放たれた。

 その圧倒的なエネルギーに、周囲の騎士たちが息を呑む。

 俺はため息混じりに剣を大きく振りかぶった。


「少しだけ本気を出してやる」


  全身に魔力を漲らせ、剣に込める。その瞬間、俺を中心に空気が震え、周囲の景色が歪むほどの圧が生じる。

 伯爵級悪魔の表情が僅かに動いたが、どうでもいい。


 一閃。剣から放たれた魔力の斬撃が雷と激突し、わずか数秒でそれをかき消した。さらにその勢いは止まらず、伯爵級悪魔のいる場所まで一直線に伸びていく。


「な、何だと!?」


 悪魔は驚愕し、慌てて防御の魔法を展開したが、斬撃はそれをも容易く貫き、悪魔を吹き飛ばした。

 瓦礫の山に叩きつけられた伯爵級悪魔は、信じられないという表情で俺を睨みつける。

 アレで死なないのは驚きだ。流石は、伯爵級悪魔と言ったところだろうか?


「貴様、何者だ……?」


 俺は肩をすくめながらも答えた。


「ちょっと強いだけの兵士さ」

「嘘を吐くな! この力、貴様は勇者なのか⁉」

「いや、勇者なら王都でお留守番だぞ? 今頃スヤスヤ寝ている頃さ」


 もう夜も遅いしね。

 気持ちよく寝ているのだろう。羨ましい限りだ。


「では貴様は一体……まさか神の御使いか?」

「止めてくれよ。逆に人生相談をしたいくらいだよ」


 軽口を叩く俺を、伯爵級悪魔は憎々し気に睨んでいた。

 伯爵級悪魔は苦悶の声を上げながら立ち上がった。まだ余力があるようだが、先ほどほどの威圧感はない。


「――悪魔の断双」


 伯爵級悪魔が呟くと、両手の爪が伸びて月明かりで怪しく輝いた。

 構える伯爵級悪魔は俺に向けて口を開いた。


「貴様を倒し、斬り刻んで悪魔どもの餌にしてやろう」

「そんなに怒っていると血圧が上がるぞ? 悪魔だから関係ないな!」


 笑ってやると、表情が一層憤怒に染まる。

 伯爵級悪魔は「死ぬといい!」そう言って俺に接近してきた。




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