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ベランダのお茶会はウィングキャットから招待状が届く

作者: 各務 史

 春の月は朧に霞んできれい。だから肌寒いのに夜のベランダに出ては空を眺める。

今夜の月はどんなかな。ベランダへの窓を開けようとして、その手が止まった。

 なんかいる。黒い何か。カラス?大きさ的にはそうだけど、ここは13階。

カラスがここまで飛んでくることはほぼない。私は窓の向こうに目をこらした。


 金色の瞳と目が合う。

「にゃあ!」

”にゃあ”!?”かぁ”でもおかしな状態なのに”にゃあ”!?

狼狽えた私を金の目の黒猫が笑った気がした。

 ベランダの手すりをそれはそれは優雅に歩いてきた黒猫はどこから取り出したのか

封書を1通私に差し出した。私は思わず反射的に受け取ってしまう。

すると、猫はやっぱり優雅に礼をするように頭を下げるとくるりと向きを変えて手すりを蹴った。

 「あ!」

危ないと言いかけて言葉は口の中で消えた。

黒猫の背中には、身体と同じく黒く艶やかな翼があり一つ羽ばたくと

そのまま夜の闇の中へと溶け込んでいった。

「ウィング・キャット?そんなばかな。」

昔絵本で見た翼のある猫。おとぎ話の中にしかいないと思っていたのに。

今更になって、私は驚きのあまりベランダの床へたり込んだ。


 渡された封書には銀の飾り文字で私の名前。私宛の手紙だと言うことは間違いなさそう。

思い切って、封を開けてみる。

「明日の午前3時にこのベランダにてお茶会を催します。万障繰り合わせておいでください」

書いてあったのはそれだけ。星のような銀の文字でこれまた優美な筆跡。

差出人の署名はない。それにしても、午前3時。午後3時の間違いじゃないかとも思ったけど

この手紙をもたらしたもののことを考えるとあながち間違いではなさそう。

 私は、誘いに乗ってみることにした。


 そして、午前3時

「こんばんは。もしくは、おはようございます。」

果たして午前3時のベランダではアフタヌーンティーのような準備がなされていた。

招待主はママ友だった。

「ゆっくりお話しようねって、やくそくしたでしょ?果たそうと思って。」

彼女はそう言って穏やかに笑った。

「そうだったね。」

私も笑顔になる。そこから始まるとりとめのない話。泣きたくなるくらい楽しい時間…




 私は泣きながら目覚めた。泣いているのに幸せな気持ちだった。

そうか、約束守ってくれたんだね。もうあなたはこの世にいないのに。

翼猫がお使いなんておしゃれじゃない。

 約束、守ってくれてありがとう。忘れないよ。

私は白紙になってしまった招待状を抱きしめた。




実は半分くらい実話です…

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― 新着の感想 ―
不思議の国のアリスを彷彿とさせる大人向けのおとぎ話のようでラストはほろりとなりました。 あとがきに気になるお言葉。不思議な体験をなさったことがあるのかな、と思いました。
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