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お気に入り小説4

白い結婚を宣言した公爵令息が思いっきり妻に見捨てられて、新たな愛を得るまでのお話

作者: ユミヨシ

「フェレンシア。私とお前は政略だ。だから、お前を愛する事はない」


「やはりそう言われましたのね」


テレス・レセル公爵令息は、さぞかし、フェレンシアが嘆き悲しむだろうと思った。

いかに政略結婚とは言え、いきなり初夜の床で、愛することはない。だなんて言われたら、特にテレスは顔に自信があった。歳は20歳。夜会に出れば、声をかけられるのではないかと期待している女性達の視線をチラチラと感じて。輝くばかりの自分の美しさに罪を感じる日々。


そんな中、テレスがはまってしまったのが、オリビア・オルソー未亡人である。

オリビアは美しく、長い金の髪に豊満な身体。

それはもう、色気があり、色々な男達と関係を結んでいた。


そんなオリビアに夢中になったテレス。

オリビアの元へ何度も通い、共に褥を楽しむ。

想いは募って、オリビアと結婚したかったが、


「わたくしは色々な殿方と恋を楽しみたいの。だから貴方とは結婚出来ないわ」


だなんて、あっけなくふられてしまって。

だから、テレスはオリビアに言ったのだ。


「心は貴方に一生捧げましょう。例え、私が結婚したとしても、貴方の元へ通ってもよろしいですか?」


「ええ、構わないわ。わたくしを愛する男の一人としてなら、貴方は美しいから」


だから、政略でフェレンシア・ボルドル公爵令嬢を妻に貰う事になった時、初夜の夜、フェレンシアに宣言したのである。


「私が好きなのはオリビアだ。だから、お前を愛する事はない」


フェレンシアは夜着のまま、ベッドから立ち上がって、


「それでは、わたくしは失礼致しますわ。白い結婚でよろしいという事かしら」


「そうだ。三年経ったら子が出来なかったということで離縁してやろう。美しき私の妻でいられる幸せを堪能するんだな」


フェレンシアは、カーテシーをし、


「かしこまりました。それでは失礼致します」


部屋を出て行ったのだ。


さぞかし、泣きわめくと思ったのに。美しき私と結婚出来た喜びを、無残に打ち砕いてやったのだ。


それなのに、あっけなく、さっぱりと出て行ってしまったフェレンシア。

全く以て面白くない。


朝の食事をする席では、フェレンシアは共に食事をしたが無言で。

思わず、テレスは話しかける。


「私は和やかに食事をしたい。だから、少しは話をしないか?」


「かしこまりました」


「美しき私と食事が出来て、お前は幸せなはずだ。私をもっと褒め称えろ。うっとりとした眼差しを向けろ」


「馬鹿じゃないですか」


あっさりと馬鹿にされて、テレスは怒りで真っ赤になった。


「何が馬鹿だ。私は真実をっ」


「この王国の男性陣と来たら、思い上がった者が多いのが困りごとだと、本当に皆で言っておりましたのよ。貴方とわたくしは政略ですわ。三年後離縁をして差し上げます。その頃には両家の共同事業も目安がついていることでしょう。何故、貴方の美しさをいちいち褒め称えてやらなくてはならないのです?」


「皆、夜会でちらちらと美しき私の顔を見ていた。頬を赤らめている令嬢達がいかに多かった事か」


「顔だけの男。鑑賞用ならいいけれども、結婚なんてしたくはないわーって言うお友達が多かったのですわ。だってオルソー未亡人と褥を共にする仲なのでしょう?あの未亡人、身持ちが悪くて色々な男性と褥を共にしていると。わたくしは安堵しているのです。白い結婚で。病気をうつされたらたまりませんもの」


「私は病気なんかではないっ」


「今は病気ではないかもしれませんが、先行き、うつされるかもしれないじゃないですか。皆様で一人の女性を共有していらっしゃるのですから。ですから、わたくしは白い結婚で構いませんわ。さっさと三年後に離縁して下さいませ。それまで我慢してこの屋敷にいてさし上げます」


それっきりフェレンシアは黙りこくってしまい、テレスは声をかけることが出来なかった。


心配なので、医者に変な病気を貰ってきていないか、診て貰う事にした。

今の所は貰っていなかったようだ。


しかし、確かにオリビアは魅力的で、色々な男性と褥を共に恋を楽しんでいるような女性である。


悩みに悩んで、とある教会を訪れた。


教会には、人々の悩みに相談に乗ってくれる、マリアと言う女性がいるという。

彼女は隣の修道院に入れられた女性なのだが、今は教会で色々な女性達の相談に乗ってあげていて、聖女様と呼ばれるようになっていた。


聖女マリアの元を訪ねれば、


「男はお断り。私は女性の味方よ。え?高価な貢物を下さるというの?それなら少しは相談に乗ってあげてもいいかなー」


ちょっとの時間、聖女マリアに相談に乗って貰える事になった。


「私はこの通り、美しすぎる男だ。だが、妻がとても冷たい。3年後、白い結婚の末、出て行くと言うんだ。私と結婚したと言うのに」


「へぇ。何故、奥様が冷たいのか理由を話して頂戴」


「それはだな。私はオリビアに愛を誓っているんだ。だから妻とは白い結婚だと宣言してやった。何故か妻は泣いて縋らない。私のような美しき男相手に。変な病気が怖いとまで言われる始末」


「呆れたわね。奥様に平謝りして、二度と、その変な病気の元となる女のとこへ行かないようにすれば?」


「何故、私が謝らねばならん。私はこの通り、美しい優秀な公爵家の息子だ。謝る必要なんてない」


「それじゃ、奥様に三年後、白い結婚の末に出て行って貰えば?」


「だから、それは……何故、私に縋らないっ」


「それじゃ何で貴方に縋らなければならないの?」


「それは私が美しい男だから。優秀な男だから。私の事を愛しているはずだっ」


「馬鹿なの?本当に。話が通じない男を愛しているはずないじゃん。あ、時間切れ。しっかりと高価な貢物。そうね。金貨5枚ねー。よろしく」


あっという間に相談が終わってしまった。


屋敷へ戻って見て、フェレンシアの部屋を訪ねれば、フェレンシアは不機嫌そうに、


「何用ですの?」


「私は病気でなかった」


「だから、何用ですの?」


「美しい私は愛されているはずだ。お前に。だから、褥を共にしてやってもよい」


「貴方とわたくしは白い結婚ですわね。病気でなかったからって、わたくし、貴方と褥を共にするのは嫌で嫌で」


「私は美しい男だぞっ」


「美しいなら、ほら、庭の男神様の彫像をうっとりと見ていた方がいいですわ」


筋骨隆々の美しい男神の彫像が庭に飾られていた。

確かに美しい、美しいかもしれないが。


フェレンシアは横をフンと向いて、


「御用がすんだと言うのなら、出て行って下さいませんか」


追い出された。


事ある毎に、


「私は彫像より美しいはずだ。だから、私と褥と共にっ」


「お断り致します」


フェレンシアは屋敷の女主人の仕事も、社交もしっかりとこなす優秀な女性だ。

ただただ、テレスの相手をしてくれないだけで。


別居している両親にテレスは泣きついた。


「美しい私と妻は褥を共にしてくれなくて」


母である公爵夫人にさげすむような眼で見られる。


「フェレンシアから手紙で聞いております。美しい自分を愛するはずだって?どれだけうぬぼれているのやら。教育を間違えましたね。フェレンシアが望んでいるので、三年後、離縁をしなさい。後継は無理だから、親戚から養子を貰うしかないわね。ちゃんと考えておきなさい」


と、母に冷たく言われた。

父の公爵の方を見たら、遠い目をして空を見ていた。

何かやらかして、母に頭が上がらないのだろう。


なんだかんだで、三年過ぎて、フェレンシアは最後の挨拶に訪れた。


「お世話になりましたわ。わたくしは今日で出ていきます。離婚届けにサインを」


「いやいやいや、お願いだから、出て行かないでくれ。美しき私を君は愛しているはずだ」


「はぁ?庭の彫像の方がマシだってわたくし、言った覚えがあるのですけれども。その例えがまずかったようなら、ほら、入り口の所に飾ってあるあのカエルの置物。あれの方がマシですわ。とても可愛らしいカエルなのですから。早くサインなさって」


カエル以下だと言われてしまった。


諦めてサインをしたら、フェレンシアは嬉しそうに出て行った。


どう見てもカエルよりは自分の方がマシな顔をしているはずだ。


変な意地を張って、ずっとフェレンシアに謝る事をしなかった。

フェレンシアがいなくなった部屋を見て、寂しさを感じ、男泣きに泣いた。


入り口の所に飾ってあるカエルの像を抱き締めて、


「お前はいいな。フェレンシアに愛されて」


今から、フェレンシアが帰ったはずの、彼女の実家ボルドル公爵家に行って、謝ろうか。戻って来てくれと縋ろうか。


馬車を出すように命じ、ボルドル公爵家に行ってみた。


馬車を降りて、呼び鈴を鳴らそうとして、ふと、声が聞こえたので、そちらに耳を傾けてみる。


塀越しに移動してみれば、小さな穴を見つけたので、潜り込んで、茂み沿いに庭に入れば、フェレンシアの姿が見えた。


愛しいフェレンシア。今から思いっきり謝るから。美しき私が謝ったんだ。戻ってくるのが当然のはずだ。


と思ったら、フェレンシアの傍に一人の男が近寄って来て。


「やっと自由の身か。フェレンシア。待ちわびていたぞ」


「まだ、わたくしの事が忘れられませんでしたの?エリル様」


「勿論。やっと愛しいフェレンシアに婚約を申し込むことが出来る。どうか、私の手を取ってくれ」



思いっきり飛び出て、男に身体ごと体当たりした。男が吹っ飛んだ。

そして、叫ぶ。


「戻って来てくれ。フェレンシアっ。私が悪かった。私が悪かったんだ。フェレンシア。君の事が好きだっーーー。どうか、戻って来てくれっ」


思いっきり地に頭を擦り付けて、土下座をした。


冷たい妻だったフェレンシア。だが、一生懸命、公爵家の為に働いてくれた。

この私が頭を下げているんだ。これで戻って来てくれるはずだ。


人の気配がわらわらと近づいて来て、そしてテレスは拘束された。


フェレンシアは自分が突飛ばしたエリルと言う男を心配していて、テレスの方は見向きもしなかった。


その時、愛はなかったと初めてテレスは後悔をした。


あああっ……自分が悪い。今更、後悔しても遅い。

力なく、テレスは拘束され、男達に引きずられていった。



再び、教会のマリアの元を訪れた。


「私の何がいけなかったんだろうか」


「顔かな……」


頼み込んで、やっと相談に乗って貰えた。おやつタイムに。


マリアはクッキーを食べながら、


「今度、結婚する機会があったら、女性を尊重したらどうなの?この王国の男性は本当に駄目。美しき自分に愛されるのが当然?顔なんて二の次。女は態度に惚れるのよ。その女性の立場になって考えて、愛を伝えてごらん。もしかしたら伝わるかもしれないね」


金貨7枚を支払った。


テレスは大いに反省し、生まれ変わる事を誓った。






なかなか再婚相手が決まらない。皆、テレスの悪評を知っているのだ。

美しきテレス。以前はオリビアと付き合っていると噂があっても、その美しさに頬を赤らめる女性が多かった。


まだ23歳。十分美しいはずなのに、何故か令嬢達の視線が冷たい。

フェレンシアとの離婚が響いたか?白い結婚を宣言したことが広まっているのか?



テレスは再婚したかった。だから一生懸命、奔走して。


それと同時に身体を鍛える事にした。王宮の騎士団へ三か月、入団させて貰い、身体の基礎を作り直した。


領地経営は優秀だと言われて、そつなくやってはきたが、常識がどうもねぇと母に言われていて。

色々な人に意見を聞いて、悪い所を直すように努力をした。


なんて自分は偏った常識を持っていたのだろう。


自分中心に生きてきたのだろう。

美しき自分に惚れて当然だと、フェレンシアに上から目線で接していたのだ。

そりゃフェレンシアも嫌になるだろう。カエル以下だと思うだろう。


男神の像と、カエルの像は自分への戒めとして、特にカエルの像を毎朝見る度に、反省から一日を始めるようにした。


そして、やっと、テレスは一年後、再婚した。

エリアーネ・ファルト伯爵令嬢とである。

フェレンシアはそれなりに美人だった。エリアーネは美しいとまでは言えないが、清楚な感じの女性で。


自分の悪評が高く、再婚相手は難航したが、ファルト伯爵家は借金を背負っており、エリアーネの身を借金を肩代わりすることで、貰い受ける形となったのだ。

要は金で買ったのである。



前回の反省を生かし、初夜の床では特に気を遣う事にした。


「エリアーネ。こんな私の所へ嫁いできてくれて有難う。政略とはいえ、君の事は愛している」


エリアーネは緊張した面持ちで、


「どうぞ、よろしくお願い致します」


そりゃそうだろう。相手は身売りしてきたのだ。わざわざ、悪評高いテレスの元へ。

ともかく、丁重に丁重に扱う事にした。


初夜も無事に済み、テレスはともかく、エリアーネに気を遣った。


「おおっ。愛しのエリアーネ。今日は薔薇の花を大量に買ってきたぞ」


「有難うございます。テレス様」


プレゼントを何かある毎に、沢山渡し、仲を進展させるように、努力した。


会話もなるべくするように努力し、エリアーネが何をしたら喜ぶか、一生懸命考えた。


エリアーネはプレゼントを喜んでくれるし、話しかければ嬉しそうに話を聞いてくれる。

だけれども、どこか表情が硬くて。

それがとても寂しくて。


エリアーネと良い家庭を築いていきたい。


テレスはエリアーネと過ごすうちに、愛しさが増して、そう思えるようになっていた。


エリアーネは頭を下げて、


「こんなわたくしによくしてくれて、有難うございます」


と、礼を言ってくる。

自己評価が低いのだ。


テレスは聞いてみる。


「どうして、エリアーネは素敵な女性なのに、こんな私って」


エリアーネは悲しそうに、


「わたくしは姉より劣っていて、お金で売られる事くらいしか、役に立たないって言われて。だから、こちらに嫁ぐ事になったのです。テレス様は満足していますか?わたくしのような女が妻になって」


知らなかった。エリアーネは実家の伯爵家で苦労をしてきたのだ。

愛しさが増して、エリアーネをぎゅっと抱き締めて、


「ああ、満足しているよ。エリアーネこそ、ごめん。私は悪評高かったのに、金で買い取るような事をして」


「いえ、テレス様はとても優しくて、わたくし幸せですの。だからそのような事を言わないで」


エリアーネを本当に愛しいと思った。

彼女となら愛溢れる良い家庭を築ける。

その温もりを感じながら、テレスはそう思うのであった。



久しぶりに教会を訪ねた。


エリアーネに子が産まれたのだ。それも男の子。

神父様が祝福を下さると言う。


聖女マリアに久しぶりにあった。


「テレス様、しっかりと話の解る人に成長したんですね。良かった良かった」


「そんなに以前の私は話が通じなかったか?」


「そりゃもう、あ、フェレンシア様もよいお相手に恵まれて、幸せに暮らしていますよ」


「ああ、知っている」


社交界で時々、顔を会わずフェレンシア。互いに知らんふりをしているが、フェレンシアも子に恵まれて、エリルという男性と幸せそうで。さんざん迷惑をかけたフェレンシア。心の中で頭を深く下げるテレスであった。


エリアーネとの間には男の子3人に恵まれた。

夫婦仲もよく、子供達と共に幸せに暮らしたと言われている。




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[良い点] ・ファレンシアとマリアのサクサク塩対応。母親もわかった人で良い! ・ちゃんと貴族夫人の役目を果たしてから男並みに人生謳歌してる、それも金とかでなく自分の魅力で人を集められるオリビアさんが…
[一言] 最初はテレスにイライラしたけど、話が通じるようになって良かったです!
[一言] 前半のテレスが気持ち悪いですが、ちゃんと反省して実行している所は良いですね。 フェレンシアとマリアの口撃も辛辣で良いですね! つかいつの間にフェレンシアの事を好きに???
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