表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

シン・ホラー短歌 別選

作者: 合沢 時

 シン・ホラー短歌 いちにんひゃくしゅ から「うわさ」というテーマにふさわしいものを別選として投稿しました。

 興味をもたれたら、連載中の本編も読んでみて下さい。

第3首


窓の外

サラリーマンが

歩いてる

ふと気がつけば

ここは2階


短歌解説

 私が間接的に関わった実話です。

 高校の時のクラスメートの女子が話していた体験談です。

 高校2年の試験前の昼休みでした。

 他クラスの女子が私の教室に入ってきて、隣の席の女子のところに来ると、「私、どうしよう」と泣きそうな表情で言いました。

「えっ、どうしたの? 好きな人でもできた?」

 私は隣で恋バナでも始まるのかと思いました。

「違うよ、そんなんじゃない」

「じゃあ、何なの?」

「昨日の夜、見たの」

「見たって何を?」

「おじさん」

「おじさんって、父親のこと?」

「違うよ、お父さんじゃない。外を歩いていたおじさん」

「おじさんが外を歩いていても、何も困ることないじゃん」

「私の部屋、2階にあるんだよ」

「知ってるよ、Y美んち行ったことあるから」

「昨日の夜、試験勉強していたのよ。1時頃だったかな、暑かったから窓を開けて空気の入れ換えをしようと思ったの」

「すごいね、そんなに遅くまで勉強してたんだ」

「そんなことはどうでもいいのよ。窓を開けたら、5メートル先ぐらいを中年のサラリーマンが歩いているのが見えたの」

「酔っ払いのおじさんか何か?」

「違う! 私もその時は気付くのが遅れたんだけど、私の目線と水平の所を移動していたんだよ」

「で?」

「私の部屋は2階なんだよ。見下ろしていないんだよ。どう考えてもおかしいじゃん」

「あっ…」

 私はY美という女子を見ました。幸いにも彼女の周りに霊的なものは感じませんでした。彼女がそのおじさんを見たときに、すぐに怪異に気がついて悲鳴でもあげていたなら、霊に気付かれて、もしかすると取り憑かれていたかもしれません。



第8首


さっきまで

お前の横に

座ってた

あの可愛い娘を

紹介してくれ


短歌解説

 私が間接的に関わった実話です。

 同じゼミのOは、良くも悪くも好奇心が旺盛で、興味をそそられたものがあると、軽ワゴンでどこへでも出かけていました。

 その頃、心霊スポットとして有名なIトンネルのことが仲間内で話題になりました。するとそれに関心を示したOが、夜中に友人の男2人を誘って軽ワゴンでIトンネルに向かいました。私も誘われましたが、何か見えたらイヤなので断りました。

 翌日、大学の学食でOたち3人が昼飯を食べていたので、Iトンネルの話を聞こうと思ってそのテーブルに行きました。ちなみに私は、ほとんどルーだけのカレーを手にしていました。学食のカレーは、たまに輪ゴムが入っていることがあって、その輪ゴムカレーをゲットできたら恋人ができるという都市伝説みたいな言い伝えがありました。私は4年間の間、何十食もカレーを食べましたが、残念ながら一度も輪ゴムカレーには出会えませんでした。

 席について、カレーを食べながら、私はIトンネルのことを訊きました。

「どうだった? 噂どおり霊がでてきた?」

「いや、何回もIトンネルを行ったり来たりしてみたけど何にも起こらなかった。やっぱり新道の方では何もないのかな。旧道の方は通行止めで行けなかったし。ただドライブしただけになったな」

 Oはそう言ってため息をつきました。

「骨折り損のくたびれ損だったわ」

 ん? 慣用句の使い方間違えてるなと思いましたが、あえて指摘しませんでした。

 そんな時、同じ学部ですが他のゼミにいるBが、辺りをキョロキョロ見回しながらこちらにやってきました。

「なあ、さっきまでOの横にに座っていた女の子がいただろ。俺、向こうの席で食べてたんだけど、食べ終わって見たら、女の子じゃなくて合沢が座ってたんだ。あの子どこに行ったんだ? めっちゃ俺のタイプだったから紹介してくれないか」

 Bが言いました。

「えっ、何言ってるの。女の子なんていなかったぜ」

 Oがきょとんとした顔で言いました。

 私はその日少し風邪気味で疲れていて、霊感が衰えていたのかもしれません。私にはBが見たという女の子の気配は全く感じられませんでした。

 私が思うに、おそらくOはIトンネルで女の子の霊を連れてきてしまったのです。そしてBにだけ見えたということは、その女の子の霊がBを見初めたのかもしれません。だからBにだけ見えたのだと思います。

 Bにそのことを教えようかとも思ったのですが止めました。どうせ信じてもらえないだろうし、お互いに好みのタイプなのならば、「ま、良いか」と思って。



第9首


真夜中に

物音がして

目が覚めた

誰かが弾いてる

私のピアノ


短歌解説

 私が間接的に関わった実話です。

私の住んでいるH荘のわりと近所に新しいアパートが建ち、そこにSちゃんというサークルの後輩が住み始めました。しかし、運悪くそのアパートに霊道が通っていたのか( 第5首で話したゆらゆらが見えたところの近くに建ったのです)、もしくはSちゃん自身が霊を惹きつけやすい体質だったのか、住み始めて1週間もしないうちにポルターガイスト現象が始まったようです。ラジオのスイッチが突然入ったり、テーブルの上に置いてあったコップが倒れたり、そして買ったばかりのグランドピアノが鳴り出したりと、様々な現象に見舞われたようです。

 でも、おおらかで細かなことを深く気にしない性格のSちゃんは、「ま、いっか」とそのアパートに住み続けました。

 アパートの部屋の中にグランドピアノがあると話したので、Sちゃんはもしかして音大生と思った人もいるかもしれません。

 いえいえ、違います。Sちゃんは音大生ではありません。

 ある日、サークルの時にSちゃんが、「先輩、私グランドピアノ買うんです。通販で」とうれしそうに報告してきました。

「グランドピアノ? 高いだろ。よく買えたね」

 と、言うと、

「安かったんですよ。8千円。来週には届くんです。だからピアノを置くために部屋を片付けないといけないから、今大変なんです」

 と、Sちゃんは笑いました。

『8千円でグランドピアノ? 詐欺なんじゃないのか?」

 そう思いましたが、すでに代金を払い込み済みだと言ったので、言わないでおきました。

 次の週、通販会社から無事グランドピアノが届きました。詐欺ではなかったようです。 ただし、通販カタログに載っていたとおりに、80センチくらいの少し大きめなおもちゃのピアノでした。

 カタログをよく見ていなかったSちゃんの失態でした。

 私は、グランドピアノが8千円で買えると思い込んでいたSちゃんの純粋な心に、ある種の恐怖を感じました。



第10首


だんだんと

見え始めてる

おばあさん

顔が見えたら

話してみよう


短歌解説

 私が間接的に関わった実話です。

 同学部で同じサークルにいたUさんという女の子の話です。Uさんは沖縄からやってきた子で、小さいときから霊が見えることがあったと言っていました。

 Sちゃんのアパートも含めて、H荘の近辺では怪異現象が多発していましたが、Uさんの住んでいるアパートはH荘からずいぶん離れた場所にありました。

 ある日、サークルの時にUさんがボソッと、「3日連続で金縛りにあってて疲れる」と言いました。

それを聞いた友人が、

「金縛りって、何か見えたりするの?」

 と、訊きました。

「うん、一昨日は脚の部分が見えた。うちの枕元に正座していた。絣の着物を着てた」

「怖かったでしょう? 悲鳴上げた?」

 Uさんは首を横に振りました。

「昨日は腰のちょっと上の付近まで見えた。そして今日は胸の付近まで見えた。顔はまだ見えなかったけど、おそらく背格好からしておばあさんだと思う」

「えぇ! ちょっとずつ見えてくるって、ちょーヤバいじゃん。Uちゃんお祓いかなんかしてもらったほうが良いんじゃない」

「明日は顔も見えるだろうから、そしたら訊いてみるつもりだよ。なぜ、うちのところに出てきたのか」

 そう言ってUさんは笑顔を作りました。

 Uさんがおばあさんの霊と話が出来たのかどうかは、その後の顛末を訊いていないので分かりませんが、第4首に出てたR先輩とは違って、その後も元気に登校していたので、悪い霊ではなかったのだと思います。

 それにしても、霊が見えても動じないとは、もしかするとUさんはユタの家系だったのですかね。



第12首


まっ暗な

バスルームに

ひとりぼっち

鏡に映る

私の笑顔


短歌解説

 私が間接的に関わった実話です。

 ある日、Sちゃんの彼氏の後輩Kが、サークルの時に私に話しかけてきました。

「合沢さん、相談があるんです」

「うん、何かな? 恋愛相談なら無理だし、お金貸してはなおさら無理だし」

「いや、そんなんじゃないんです。Sのアパートに関係していることです」

「Sちゃん、まだあのアパートに住んでいるんだっけ?」

「はい」

「分かった、Kくんも怪異現象に遭遇したんだ」

「はい。何回か。突然おもちゃのピアノが鳴ったり、ピキッ、バシッといったラップ音が鳴ったりして」

「僕もSちゃんからその現象のことを聞いたことがあったけど、Sちゃんあんまり怖がっていなかっただろう?」

「ええ」

 Kが肯いてから続けました。

「でも、昨日の出来事は何かヤバい気がするんです」

 そう前置きをしてからKが詳しく話してくれました。

 昨日、2人は近くの海岸を散歩したそうです。楽しく話しながら砂浜を散歩したので結構な距離を歩いてしまっていて、引き返したときには辺りが暗くなり始めていたそうです。そして、Sちゃんのアパートに帰ってきたときには、2人ともうっすらと汗をかいていたそうです。

「それで、Sがシャワーを浴びてくると浴室に行ったんです」

 するとSちゃんが浴室に行って10分ほどした頃、突然停電して真っ暗になったそうです。

「真っ暗で何も見えなかったんですけど、Sが怖がって助けを呼ぶようなこともなかったので、大丈夫だろうと放っておきました。5分ぐらい経って電気が点いて、それからしばらくしてSが何事もなく、髪をタオルで拭きながら浴室から出てきました」

「怖がってた?」

「いいえ、全然。で、あいつ変なことを言ったんです」

 Kの説明によると、Sちゃんは浴室が真っ暗になったとき、ちょうど下を向いて髪を洗っていたようです。そして、暗くなったのが分かったので、顔を上げると目の前の鏡に自分の顔が映っていたらしいのです。

「真っ暗なのに、鏡に映った自分の顔が見えて、そしてその映った顔は笑っていたそうなんです。そのことをあいつ、ねえねえ変なことがあったんだよ、と俺に楽しそうに話してきたんです。普通そんなことがあったなら悲鳴をあげたりしませんか。俺、あいつのことが理解できなくて、これから付き合っていくのにどうしたものかと」

 私は思わず、「相談って、そこかいっ」とツッコみたくなりました。しかし、Sちゃんの部屋の怪異現象が重くなってきていることの重大性から、一度はっきり見える人に見てもらったほうが良いとアドバイスし、同じサークルにいるUさんが見えるらしいよと教えてあげました。



第14首


盆休み

同窓会で

思い出を

語っているけど

誰に対して?


短歌解説

 これは私の友人に聞いた話です。

 友人が卒業した中学校では、20年ぶりの同窓会があったそうです。友人の中学校は3年生の時のクラス数が6クラスだったそうで、当時は1クラスの人数が40名ほどだったので、全員が参加したとしたら240名近くになるところですが、それぞれの仕事や家庭の事情もあってか、集まったのは100人ほどだったそうです。

 それでも大きな会場ではなかったこともあり、100人でも多く感じたそうです。会場のキャパを考慮してか、同窓会は立食形式で行われ、お酒の入ったグラスを片手に当時の仲間が集まり、楽しげに談笑していたそうです。

 その友人も、そんなふうに旧友と語らっていたのですが、ふと気付くと数メートル先で、一人で何かしゃべりながら笑っている男がいたそうです。時々、左横には誰もいないのに、そちらを向いて何かを言い、そして、「あった、あった」と肯きながら、また何かを言っているのです。友人には、その男が言っている、「あった、あった」という声だけははっきり聞こえたそうです。

 その様子は、その男が、見えない誰かと談笑しているように思えたそうです。

 友人は、その男とさほど親しくなかったので、気にはなっていたのですが、なぜそんなことをしているのか尋ねなかったそうです。

 翌朝、友人は地元の新聞の記事で、友人と同じ年齢の男性が昨日事故で亡くなっていたことを知ったそうです。その男性は、同窓会に参加するために帰る途中で、地元に着く直前に事故に遭ったようでした。

 もしかすると、亡くなった男性は自分が死んだことに気付かず、霊体で同窓会に参加し、昔の友人と楽しく会話していたのかもしれません。



第15首


適当な

つくり話が

現実に

気付かぬうちに

操られてた


短歌解説

 私の連れ合いが、知り合いの教師から聞いていた話とその後の顛末です。

 夏の終わりにあった小学6年生の夏のキャンプ(自然教室だったかもしれません)の最終日だったそうです。自由時間に子供たちに怖い話をしてとせがまれて、ある男の先生が仕方なく話を始めたそうです。

 その先生は、キャンプの最終日で浮かれ気分になってなかなか寝ないであろう子供たちを怖がらせて、早く寝るように仕向けようと、その場で思いついた怖い話をしました。 その話の内容は、そのキャンプ場からほど近いダム湖の近辺を夜中に通っていると、ずぶ濡れの男が立っていて、「見つけてくれえ。見つけてくれえ」と言ってくる。そして、このキャンプ場でも、夜の11時を過ぎても起きていた子供は、そのずぶ濡れの男を目撃することがある。ダム湖に見つかっていない死体があって、その霊が出てくるのだろう。というものでした。

 子供たちはその話を聞いて震え上がり、女の子に至っては泣き出す子もいたそうです。

 知り合いの教師の人は、「困りますよ、先生。子供たちが怖がって寝てくれませんよ」と男の先生に抗議したそうですが、「大丈夫ですよ。さっき思いついた作り話ですから。怖がって寝られない子には、そのことを教えてあげたらいい」と笑っていたそうです。

 

「ちょっと怖がらせすぎじゃない。ダム湖の周りもキャンプ中に散策活動したんだろう。そんな場所に死体がある話なんて、刺激強すぎ」

 私は、その話を聞いて、そんな感想を述べました。

 それから2日後の新聞に、そのダム湖で死体が発見されたという記事がありました。 テレビでもそのニュースが流れたと思います。橋から突き落とされて亡くなった殺人事件でした。

 5日前に男の先生が子供たちに話した作り話が、現実になったのでした。

 もしかして、その怖い話をした先生は、気付かぬうちに霊に操られていて、自分で創作したと思っていた話は、霊が話させていたのかもしれません。



第17首


夕暮れに

ふと気がつくと

ベランダで

こちらを見てる

赤い猫


短歌解説

 秋になりかけていた頃、私の友人が教えてくれた話です。

 少しだけグロい表現がありますので苦手な人は読まないで下さい。

 この話は、友人が私に教えてくれた前日に、友人が同僚の女子社員のAさんから聞いた話だそうです。つまり又聞きです。

 そのAさんはワンルームマンションの3階に住んでいるらしいのですが、休日の昼間に買い物に出かけて、色んな店をはしごして散々歩き回ったので、疲れて帰宅したそうです。

 Aさんは、うっすらと汗もかいていて部屋も暑かったので、風に当たろうと窓を開けたそうです。外には夕焼け空が広がっていて、きれいな夕焼けだなと思いながら空を眺めたそうです。

 すると、パンという破裂音みたいな音がマンションに面した道路の方から聞こえたそうです。

「何? 今の音」とAさんが思った時に、ニャアと猫の鳴き声が聞こえて、そちらを見ると、ベランダの隅で、真っ赤な猫がAさんを見上げていたそうです。

 友人は、「あなたの飼っている猫が窓を開けたときにベランダに出て、夕日で赤く染まって見えたんじゃない」と自分の見解を述べたそうなのですが、Aさんは首を横に振り、猫なんて飼ってないと言ったそうです。そしていつの間にか、その真っ赤な猫はいなくなっていたそうです。


 私がタクシーに乗っているときに、パンという音がしたことがあります。するとタクシーの運転手が、「あっ、猫踏んだ」と言いました。猫をひいてしまうと猫の身体が破裂して、パンという音がすることがあるのだそうです。

 おそらくAさんが聞いたパンという音は、車が猫をひいたのでしょう。そして何故その猫の霊がAさんのところに現れたのかは分かりませんが、何かを訴えたかったのでしょう。

 私は、血で赤く染まった猫がすぐに消えたのなら心配ないと思うけど、念のためにベランダの隅に盛り塩をするようにAさんに勧めてほしいと友人に頼みました。



第20首


コックリさん

呼び寄せたのか

動物霊

狐のように

飛び跳ね回る


短歌解説

 私が大学生の時に友人から聞いた話です。

 第4首に出てきた、R先輩に起こった怪異現象の話を友人と話題にしていたときに、そういえば自分が高校の時に、クラスメートの女子がとんでもないことになったことがあったと語り始めました。

 昼休みに、数名の女子たちが集まって、ワーワーキャアキャアと何かしていたそうです。友人が何を騒いでいるのだろうと気になって、そちらを見たらコックリさんをやっていたそうです。

友人は、バカみたいなことをやっているなと思っていたそうですが、それから数分後に「ケーン」という女子の甲高い叫び声が聞こえて、一人の女子が教室中の机の上を飛び跳ねて走り回ったそうです。他の女子たちは、「どうしたのぉ!」「K子、K子ぉ」と跳ね回る女子を止めることも出来ずにオロオロするばかりで、パニックになっていたそうです。

 やがてその女子は、机の上にバタリと倒れ、口から泡をふいて失神状態になったそうです。

 誰かが知らせたのか、先生たちがやってきて、呼びかけにも応じず失神したままだったので、病院に救急搬送されたそうです。

 「ケーン、ケーン」と叫んでいる女子の表情は不自然なほどつり目になっていて、その飛び跳ねている跳躍力は異常だったので怖かったと語ってくれました。

 第4首の後書きに、降霊術について私の思いを書くことを示唆してしていました。

 なので、今回、私の降霊術についての見解を述べさせていただきます。

 降霊術には、その道のプロと言っていい人が行う恐山のイタコや沖縄地方のユタが行う降霊術がありますが、日本で一般的に知られているのはコックリさんだと思います。

 コックリさんは深い知識が無くても、やり方だけを知っていれば、誰でも気軽に行えるので日本中に流行ってしまいました。それだけに、コックリさんをやったことで起きた事件や事故が多発し、コックリさん禁止令が出た学校も多く存在しました。

 コックリさんで起きた事件や事故は、その原因が二つあると思います。

 ひとつは本当に悪い霊が取り憑いてしまった霊障。友人が話してくれた出来事は、おそらくこれだと思います。ただし、ふたつめの原因の可能性もあります。私が直接その場にいて目撃したわけではないので定かではありませんが。

 ふたつめの原因は、暗示と思い込みです。

 信じやすい性格の人は、暗示にかかりやすいです。そして思い込みによって、その暗示の呪縛から逃れられなくなります。

 例えばの例ですが、私は催眠術ができます。

 高校時代に書店で立ち読みした本で催眠術のやり方を覚え、クラスメートにやってみたら簡単にできました。閉じた目が開かなくなるとか、椅子に座った状態から立ち上がれなくなるなどの暗示が、簡単にかかってしまうのでした。

 かけた暗示で、かけた自分も驚いたのが、認識の消失です。

「あなたの頭から7という数字が消え去ります」と暗示をかけてから、「1から10まで数を数えて下さい」と言うと、暗示をかけられた被験者(被害者?)は、「1,2,3,4,5,6,8,9,10」と7という数字を忘れてしまったかのようでした。

 でもこれは、被験者の頭の中から、実際には7の数字が消えているわけではありません。被験者が7という数字がないんだと思い込んでいるだけなのです。目が開かないや立ち上がれないも同じです。目が開かないんだとか、立ち上がれないんだと思い込んでいるだけなのです。ですから催眠術に懐疑的な人には、暗示はかかりません。

 長くなってしまいましたが、コックリさんで自分が霊に取り憑かれたと思い込んだ人が奇行をする可能性もあります。暗示で被験者の味覚も変えることが出来ますから、表情筋に作用して、狐みたいに目がつり上がることもあるかもしれません。


 以上私の見解を述べましたが、結論的に私が言いたいのは、コックリさんのような危険な降霊術を素人が行うことは止めましょうということです。私ももちろん絶対しません。


追記)催眠術をやりたいなら、プロに教授してもらうようにして下さい。催眠術は催眠療法に使う催眠とは違って、あくまでエンタメです。しかし、暗示の解き方を正しく覚えていないと大変な目にあいます。私は、解き方を詳しく覚えていなかったので、冷や汗をかいたことがあります。



第21首


安いけど

買い手が付かない

一軒家

聞こえるらしい

深夜の泣き声


短歌解説

 私が中学生の時に噂になった話です。

 私が住んでいた町の郊外に一軒家が売りに出されていて、その販売価格が20万円という破格の値段だというのです。これは噂ではなくて、不動産広告に載っていましたから、本当に20万円で売られていたようです。ただし、その建物は2DKの平屋の小さな家でした。おまけに道路には面しているのですが、その一軒だけがポツンとあるのです。車を所有していないと、生活には不便な場所なのです。

 私は父親が運転する車で、その家の前を通ったことがありますが、何かイヤな気配を感じたことを覚えています。

 当時のその家の噂というのは、その家は初めはそれなりの価格だったらしいのですが、その家を買った新婚の夫婦が、深夜に聞こえてくる赤ちゃんの泣き声に耐えきれなくなって、すぐに家を手放したのだそうです。

 何年か後にその家のあった場所を通りましたが、雑草が生い茂る更地になっていました。

 あの家が事故物件だったのか、なぜ深夜に赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきたのか、それとも噂はデマで、ただ単に購入者が生活に不便を感じて家を手放したのか、今となっては真相は分かりません。

 しかし、あの家の前を通ったときの鳥肌が立ったイヤな感じは何だったのでしょう。



第22首


山道の

S字カーブを

歩いてる

手押し車の

婆さんがいる


短歌解説

 第8首に出てきたOから聞いた話です。

 バイトが終わって温泉に入りたくなったOは、大分にある温泉に入りに行こうと思ったそうです。そこでバイト仲間の友人と一緒に、3人で大分まで向かったそうです。

 私も一度、ただで入れる温泉があるからと誘われ、近くにあるのかと思っていたら、熊本の山奥にある温泉に軽ワゴンで連れて行かれたことがあります。その時に、「ただより高いものはない」を実感しました。

 Oはフットワークが軽いというか、後先を考えずに猛進するというか、温泉じゃなくても近場の銭湯でも良いと思うのですが、とにかく温泉に入りたいと思った彼は大分に向かったようです。

 大分の温泉に午後9時ぐらいに着いて、そこで小一時間ほどゆったりした後、帰途についたそうです。

 帰路にあるS字カーブが続く山道に入った時は、午前0時を回っていたようです。

 峠を過ぎたとき、手押し車を押して歩いているおばあさんを目撃したそうです。その時は、なぜこんな時間におばあさんがと少し不思議に思ったそうですが、近くに家でもあるのかなと自分なりに納得したそうです。

 しかし、そのおばあさんを追い抜き、少し下った時、前方にまたそのおばあさんがいたそうです。その時になって初めて、そのおばあさんが得体の知れないものだと認識したのでした。

 Oと助手席に座っていた友人は、思わず「わーっ」と叫んだそうです。スピードを出して、そのおばあさんらしきものを追い抜き、「何なんだ、あのばあさん」と言っていたら、また前方にそのおばあさんらしきものがいたのだそうです。

 学食でその話をした後Oは、「あそこはS字カーブが続くから、おばあさんは直線で下る道を下っていたのかもしれん」と、あり得ない理由をつけて恐怖体験を無いものにしようとしていました。よほど怖かったのでしょうね。

 ちなみにその道には、直線で下る道などありません。



第26首


幽霊の

コスプレをした

女の子

一人で暗い道

怖くないのか



短歌解説

 私の故郷のH市にはAK寺というお寺があります。その寺は幽霊が描かれた掛け軸があって、夏にその掛け軸が公開され、それとともに幽霊祭りが開催されます。

 その幽霊祭りに関して、私がH市で行われた高校の同窓会で、クラスメートだったFから聞いた噂です。

「合沢ってさ、霊感があったよな?」

 ビールの入ったグラスを乾杯と当てた後、Fは唐突に私に訊いてきました。

「ごくたまーに気配を感じる程度だよ。見えたりはあまりないし。でも何でそんなことを訊くんだ?」

「AK寺でやっている幽霊祭りがあるだろ。あの幽霊祭りに本物の幽霊が出るという噂があるんだ。何人もその幽霊を見たんだってさ」

 そう言ってFは、手に持ったビールをぐいっと飲みました。

「Fは見たことがあるのかい?」

 私が訊くとFは頭を振りました。

「いや、ない。そもそも、俺は幽霊祭りに参加したことがない。でも、俺の知り合いにも見たことがあるという者がいる」

「へえ、で、どんな幽霊なんだ? 貞子みたいのなら会ってみたいけど」

「合沢、相変わらず趣味悪いな。安心してくれ、貞子みたいな怨念が渦巻いている霊ではないらしい」

「じゃあ、どんな幽霊?」

「小学校低学年ぐらいの女の子らしい。おかっぱ頭で、浴衣を着ていて、草履を履いてるらしい」

「なんだよそれ、幽霊祭りに来ている普通の子供だろ。幽霊祭りの時は、幽霊のコスプレをしてくる者たちもいるから、そっちの方がよっぽど幽霊らしいだろ」

 私が小馬鹿にしたように笑いながら言うと、Fが、「違う、違う」と頭を横に振りました。

「実は俺も知り合いに同じように言ったんだ。その子が幽霊のわけないじゃんって。そしたら知り合いは、なぜその子を幽霊だと思ったのか話してくれたんだ」

 Fは一息つくかのように、またビールを飲み、話を続けました。

「知り合いがその子を見たのは、幽霊祭りで行われている幽霊屋敷の順路の途中だったそうだ。小さな女の子が暗がりに一人ポツンと立っていて、こっちを見てニコニコ笑っていたそうだ。知り合いは、こんな所にいて怖くないのかなと思いながら通り過ぎたらしいんだけど、その時に「ちがう・・・」という女の子の声が聞こえたらしい。気になって振り返るともうそこには女の子はいなかったらしいんだ」

「その女の子は、幽霊屋敷の脅かし役で、どっかに隠れたのかもしれないぜ」

 Fは私を呆れたように見てから、ハァとため息をつきました。

「合沢さあ、よく考えてみなよ。小さな女の子をおどかし役なんかにさせたら、大問題になってしまうだろ。それに女の子が立っていた場所には、隠れられるような物陰など一切無かったと知り合いは言っていた」

「でも、それだけじゃ、その女の子が幽霊だとは断定できないよ」

 私はそう言いながら、ぬるくなったビールを飲みました。

「他にも目撃者がいたんだそうだ。知り合いが後日、幽霊祭りの時に出会った友人たちに確認してみると、男のほぼ全員が、その女の子を見ていたんだそうだ。そして、ちがうという女の子のつぶやき声が聞こえ、振り返ると消えている。そして何故か、女には見た者が一人もいなかった。極めつけは、幽霊屋敷をカップルで回ったやつが、男は女の子が見えたのに、女には見えてなかったそうだ。同じ時間、同じ場所で見えた者と見えない者がいる。どう考えてもそれはおかしいだろう」

「そうだな。それなら幽霊としか考えられなくなる。だとすると気になる点が二つあるな。一つはなぜ男性にしか見えなかったのか、そして、その女の子は何に対してちがうと言っていたのか」

「そう、さすが合沢だ。俺もそこが気になったんだ。その謎、何か分かるか?」

「男の誰かを探しているのかもしれないな。そしてその男はまだ見つかっていない。だからちがうと呟いている」

「なるほどな。もし、見つけたと女の子に言われた男はどうなるんだろうな。面白くなってきたぞ。今年の幽霊祭りは参加してみよう。もしかしたら、女の子に見つけたと言われてしまう男を見ることが出来るかもしれない」

 にんまりと笑って、Fは別の同級生と話をするために私から離れていきました。おそらく幽霊祭りに一緒に行ってくれる仲間を探しに行ったのでしょう。


後日談です。

 幽霊祭りが開催されて一週間後に、私の手元に同窓会の時の写真が送られてきたので、写真を送ってくれた友人にお礼の電話をすると、彼が電話の最後に気になることを話しました。

 Fが行方不明になったらしいのです。そこに至るいきさつは、私には何も分からないのですが、もしかするとFが、女の子が探していた男だったのかもしれません。

 いやいや、そもそもFが、あの時の宣言どおりに幽霊祭りに参加したかどうかも怪しいので、それは憶測でしかないのですが。



第33首


金縛り

今日もきたかと

眼を開ける

じっと見つめる

男はイケメン


短歌解説

 人づてに聞いた話ですので、話の真偽は分かりません。

 話の出所は、ある会社に勤めている田中さん(仮名)という男性の方で、社食で食事中に後ろのテーブルから、以下のような女子社員たちの話が聞こえてきたそうです。

「また、あのイケメンと会っちゃった」

「えっ、前に話してくれた金縛りにあった時に見えた男?」

「そうそう、めっちゃイケメン。私のことをジッと見つめてくるの」

「かえで、それ霊なんでしょ。ヤバいんじゃない」

「大丈夫だよ。悪さはしてこないし」

「悪いこと言わないから、お祓いに行った方が良いよ」

「心配しなくっていいよ。私好みのイケメンなんだから。夢かもしれないし」

 田中さんは女子社員たちを振り返ってみることはなかったので、顔は見なかったのですが、かえで(仮名)と呼ばれたのは、自分の課に所属している女子社員だと気付きました。

 それから1週間後、そのかえでさんは仕事中に倒れ、原因不明の重篤な体調不良で緊急入院しました。


 私が思うに、その霊はかえでさんを見初めて、あっちの世界に連れて行こうとしていたのかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ