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マイハピネス  作者: 吉越 晶
4/6

第四話「幸せの受難」

ごめんなさい。五話で終わると言いましたが、思ったより書きたいことが多く、やっぱり6話になります……。でももう増えません!


それと今回から鬱展開に入ります。一応キーワード設定で「悲恋」にはしていましたが、もしも鬱展開が苦手な方は、前回までで話を止めていただくようお願いします。


本来なら言う必要は無いのですが、前回の話の区切りが良く、何より、卓人と美智子が付き合うという、一つの話のゴールになっていたので、一応通告させていただきました。


長々とすみません。それでは、本編の方をどうぞ!

 ―――あれは、まだ僕が10歳の頃。雨の日の出来事だった。


 雨に打たれながら尻餅をついた僕と、衝撃で歪んだ車のフロント部分と、そして血だらけで倒れているお父さん。


 頭が真っ白になって、何が起こったのかわからなくて………ただ呆然としていたその時の僕に分かったのは、やかましいほどになっていたサイレンの音で、警察と救急車が来ていたということだけだった。



―――――――――――――――



「それじゃあ、お邪魔しますね」

「はい。どうぞ」


 僕が美智子さんと付き合ってから、早いものでもう半年が経とうとしていた。


 暑い暑いと言っていた夏も終わり、本格的に冬が始まりそうになっている11月後半。

 あれから僕らの仲は順調で、夏休みは海に祭りにキャンプと行き、学校が始まってからも週末は絶対にデートをする。世間では、爆破事件など物騒な話題が上がっているが、僕らはそんなのとは関係なく本当に幸せな毎日を過ごしている。


 同時に、学校で囁かれていた僕と美智子さんの噂は形を変えるものとなっていた。

 元々、美智子さんと付き合った女性は皆が1ヶ月以内に別れるものだった。にも関わらず僕が半年も交際を続けられていることに衝撃を受け、結果的に僕の株が上がっていっているらしい。今は、この交際がどこまで続くのかが話題として上がっている。

 半年経ったのにも関わらず、未だ僕たちの話題をし、挙げ句の果てにはこの交際が終わると思っている彼らの頭には辟易とする。まあ、今のこの状況に比べればどうでもいいが。


「……結構広いんですね」

「一応高級マンションですからね。普通のところよりは部屋の大きさも違いますよ」


 そう。今日は、初めて美智子さんを僕の家に招待した日。この日のために、部屋の隅のある汚れから臭いまで、全てを徹底して掃除した。死角はない。


「あ」

「どうしました?」


 何かに気づいたように、美智子さんが足を止める。

 向いている方向へと視線を向けてみれば、成人式で着るために買ったスーツが飾っていた。


「あれって……」

「あー成人式のやつです」

「やっぱり!」


 目をキラキラと輝かせる美智子さんに、僕は上機嫌になりながら言う。


「成人式の時は、お互いに晴れ着の写真を撮りましょう」

「はい。もちろんです」


 約束して、そしてその後少し間を開けた後に、美智子さんが続けて言った。


「―――にしても、少し寂しい感じがします」

「何でですか?」

「いえ……もう、大人になってしまうんだな、と思って」


 その時の彼女の目は、何故だかどこか遠くを見ているような気がして、僕に一抹の不安を感じさせた。だから僕は、その不安を払おうと、笑顔で言って見せたのだ。


「大丈夫ですよ」

「え?」

「大人になると言っても、立場上大人になるだけで、精神までが突然大人になるわけじゃありません。だから僕たちは、まだしばらく子供のままですよ」

「確かに、そうですね」


 笑を浮かべた彼女の手を引っ張って、僕はキッチンへと向かった。


「それじゃあ、早速始めましょうか」

「はい」


 そう言って、僕と美智子さんは手に持っている食材の入っているビニール袋をキッチンカウンターへと乗せていく。ここに来るまでにスーパーで買ったものだ。

 ビニール袋から出すのは、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、豚肉、そしてカレーのルー。一緒に昼飯を作る、いわば初めての共同作業というやつだ。

 カレーなら子供の頃から何度も作っている。今日は、料理もできるのだというところを美智子さんにアピールするつもりだ。


「―――それじゃあ、始めましょうか」

「はい。よろしくお願いします」


 お互いに、なんだか妙な気持ちになりながら僕らは食材へと手を伸ばした。



―――――――――――――――



 カレーで茶色くなったお皿が並ぶ。しかし、それらを片付けようともせず、僕と美智子さんは、食後の休憩も兼ねて、お互いに軽い雑談をしていた。

 大学のことだったり、友達のことだったりと、本当に他愛のない世間話だ。


 美智子さんとの料理は、想像以上にスムーズに終わった。理由としては、美智子さんの料理の手つきが、僕のそれよりもはるかに上手だったことだ。

 かっこいいところを見せようとしていたが、逆に僕が魅せられてしまった。


 そして味の方だが、これまた今まで僕が食べたどのカレーよりも美味しかった。


 作り方を特別変えたりしていないのを考えると、これが俗にいう「愛の調味料」とかいうやつなのかもしれない。今まではそんなもの、色恋に敏感な奴らがいっている妄言だと思っていたが、なるほどこれはすごい。今すぐ論文を作って学会に報告するべきだろう。断言するが、これは将来癌にも効くようになる。


 ………とまあ、そう言った経緯からだろうか、僕はふとした疑問を、軽い気持ちで美智子さんに聞いてみた。


「―――そう言えば、美智子さんは料理をすることが趣味だったりするんですか?」

「……趣味、ですか?」

「え、はい。料理がお上手だったので……」

「そうですね……」


 先ほどまでは軽快に答えていた美智子さんだが、何故だか急に黙り込む。もしかして、聞いてはいけないことだったのだろうか。


「……趣味というよりは、やらざるを得なかったというところでしょうか………」

「………え?」


 誤魔化したりするのだろうかと予想していた僕に、しかし美智子さんが口にしたそれは、全く予想外の言葉だった。


 思わず口を開けてしまった僕に、彼女は少しばかり笑を浮かべ、そして返した。


「ごめんなさい。今の言葉だけじゃ分からないですよね」


 ふふ、っと笑う美智子さんに釣られて、僕も思わず口がニヤけてしまう。そうして軽い雰囲気になったところで、改めて美智子さんは口を開けた。


「実は私、両親が共働きなんです。だから夜遅くまで帰ってこないこととかあって…そういう時は、自分でご飯を用意するしかないじゃないですか?だから小さい頃から、料理を教えて貰ったり作るったりする機会が多かったんです」

「………」


 その話を聞いて、僕は少しばかり黙り込んでしまった。それは、なんとなくだが、彼女の気持ちに親近感を抱いたからだ。


「あ、ごめんなさい。やっぱり、こういった楽しい場で話す内容では無かったですよね……」

「!」


 僕が黙り込んでしまったからだろう、彼女が申し訳なさそうに頭を下げようとする。


「あ、違うんです!ごめんなさい!美智子さんの話に少しだけ共感できて…それでちょっと黙り込んんじゃっただけなんです!」

「共感、ですか?」


 ギリギリで僕の言葉が届いたおかげか、彼女は顔をあげて聞き返してきた。僕は内心ほっとしながら、続けて言った。


「はい。僕の親も家を空けることが多くて………まあ、僕の場合はお手伝いさんがいたんで、そこまで寂しい思いはしませんでしたが、それでも少しは共感できるな、と」

「………」


 僕の言葉を聞いてか、今度は彼女が黙り込む。思い返せば、僕と違って彼女は、小さい頃から家で1人のことが多かったのだ。お手伝いさんがいた僕が共感できると言ったところで、余計なお世話だったかもしれない。


 ………それに言われてみれば、僕は親がいないことに寂しさなんて考えたことなどない。一体、何故あんなことを言ってしまったのだろうか。


「―――卓人さん」

「は、はい」


なんてことを考えていれば、突然彼女が僕の名前を口にした。

ぎこちない返事をした僕に、美智子さんは優しい笑顔を浮かべて、言った。


「―――私といる時ぐらい、正直になって良いんですよ」

「―――」


あの告白の日から、僕は知っている。彼女が、嘘に敏感であることを。


「……ごめんなさい。トイレに行ってきます」


彼女が見せてくれた優しさに、しかし僕は目を向けることができなかった。



―――――――――――――――



 トイレを済まし、そしてリビングへと戻る。


 先ほどの遮り方は良く無かったなどと自己反省しつつ、戻ってから謝ろうと思い、そしていつもの声色で言った。


「美智子さん。先ほどはすみませ―――」



 ―――そして、目に入った光景で、僕の言葉は止まってしまった。



 後悔や申し訳なさの混ざった表情をした彼女と、そして手に持っている〝僕の家族の写真立て〟。


 彼女が家に来ると聞いて、あらかじめ目に留まらないよう倒しておいた写真立てを、彼女は興味本意で見てしまったのだろう。


 別に彼女は悪いことなど何一つしていない。そもそもと言えば、隠していた僕が悪いことなのだ。



 ………ただそれでも、口にする覚悟はできてなかったのだが。



「あ……その………」

「………」


 必死に言葉を探そうとしている。

 彼女は聡明だ。その〝家族写真〟が何を意味するのかに気づいて、罪悪感に囚われているのだろう。


「ご…ごめんなさい……。卓人さんが、『あの事件』の子供だったなんて……」

「………」


 ―――ああ、やっぱり気づいている。


「それなのに……私…何も知らずに……簡単に正直なっていいなんて……そんな無責任なこと……」

「美智子さん!!!」

「!」


 続けようとする彼女の言葉を、大声で無理やり遮る。


「僕は大丈夫です!なのでそんなふうに申し訳なさそうにしないでください!ささ!席に座って!そんな板持ってないで!」

「あ―――」


 彼女の手に握られた写真を奪って持って元に戻し、そして席に座らせる。


「さあ!話の続きをしましょう!それともゲームでもしますか?美智子さんのしたいことなら、なんでも良いですよ!」

「………」


 無理やり作った笑顔で、言葉を続ける。


「そうだ!外にでて散歩でもしませんか?ここの近くに大きい公園があって、散歩をするにはもってこいなんですよ!」

「………」


 続ければ続けるほどに、彼女の顔が歪んでいく。


「気分転換にもなりますし!それに……今の空気じゃあれですし―――」

「………ごめんなさい」

「………」


 僅かに漏れた、絞り出したようなその言葉に、僕は再び言葉を詰まらせる。

 さっきまで笑顔だった彼女の目は、涙を浮かべ腫れている。


「……ごめんなさいって……別に美智子さんが謝ることじゃ……」

「ごめんなさい」

「だから、僕が話さなかったのが悪くて……」

「ごめんなさい」

「………」


 僕の責任だ。彼女が感じる必要のない罪悪感を被せ、そして苦しめた。


 そして、この時の僕は焦っていたのだ。彼女を泣かせてしまったことを、自分の不甲斐なさを。



 ―――だから、きっと焦って口走ってしまった。



「―――っ!僕!親のこと大嫌いなんで!」

「!」


 違う。


「だから!美智子さんが悪く思う必要なんてありませんよ!」

「………」


 違う。


「だいたい!俺の母さんは、家族のことなんてどうも思ってないし!とにかく金を稼ぐことに執着してて、家のことなんて気にもとめてない!」

「………」


 違う。


「かあさんからすれば、僕のことなんてどうでも良いだろうし!……僕だって…!母さんが死のうが別に―――」

「卓人さん!!!」


 ……この時の僕は、どんな顔をしていたんだろうか。


 話すのに夢中で、彼女の顔なんか全然見えなくて………。



 ……でもきっと、失敗したのは間違いない。



 そうじゃないと、彼女のこんな怒った表情、見ることなんてできなかった。


「例え嘘でも、そんなこと口にするのなんて絶対にダメです!」

「……」


 初めて聞く、彼女の怒鳴った声に、僕は少しばかり驚いてしまって、


「卓人さんのお母さんだって!きっと卓人さんのことを大切に思ってる!仕事をしているのだって、卓人さんの生活を不自由にさせないために頑張ってるに決まってます!」

「………」


 そして同時に、イラついた。


「だから!そんな、死んでも良いなんてこと、絶対に言っちゃ―――」

「―――君に何が分かるんだ?」

「………え」


 一言漏らせば、もう止まらなかった。


「俺の生活を!気持ちを!何も知らない君が!俺の気持ちの何が分かるって言うんだよ!」

「だから、卓人さんのお母さんだって!あなたのことを思って―――」

「それは、親に愛されたお前だから言えることだろう!」

「!」


 気持ちに反応するように、目から涙がこぼれ落ちる。


「家に1人でいても、休日は親から料理のことを教えて貰って!学校でも何もしなくても友達が増えて!何の努力もせず!ただ自分の姿にあぐらをかいて!」


「俺は!母親から何か教えてもらったことなんて一度もない!授業参観だって!運動会だって!何一つ来てくれなかった!」


「休日に出かけることだって無かったし!友達だって、俺が母さんの!「秋星沙耶香」の息子だって知らなきゃ!誰1人として近づいてこなかった!」


「近づいてくる親も、近づいてくる同級生も!みんな「秋星沙耶香」の知り合いになることを目的にしてて!………誰も、俺のことなんて見てくれくて………!」


 行き先のない怒りを、何も悪くない彼女にむけてしまう。……そうわかっていながらも、それでも止めることはできなかった。



「………君が羨ましい」

「………」

「お金も、環境も、親にだって恵まれたのに、僕が一番欲しいものは……みんなが当たり前に持ってる「普通のこと」は、何でか手に入らなかった」

「………」

「僕は……理想に縋るしか自分を保てない。理想に寄りかからないと、他人と関わることだってできない」


 ―――だから憧れた。重ねた。縋るしか無かった。

 映画の登場人物に。周りの目など気にしない、我が道を往くその主人公(すがた)に。


 

 じゃないと、本当の自分の醜さに、押しつぶされてしまいそうだったから。



「僕は、君みたいに他人のことを考える余裕なんてない、自分のことしか考えられない、最悪の自己中なんだ」

「………っ」

「………君みたいに、強くない」

「………」


 ………静まり返ったその部屋で、僕たちはただ黙ることしかできなかった。音を出すのは、無遠慮になり続ける、時計の針の音だけだ。


「………?」


 徐に、僕は人差し指を玄関の方へと向けて、そして憔悴している彼女に、無遠慮に言い放った。


「帰って」

「え………」


 掠れる声でそう言った彼女に、しかし僕は、何度も繰り返し言った。


「帰って」

「……でも……このまま……」

「帰れよ!」

「っ……」


 言って、そしてしばらく経った後、彼女は荷物を持って、玄関方へと向かった。



 そして帰り際、涙ぐんだ声で、言った。



「―――ごめんなさい。貴方に寄り添うことしか、できなくて」



 玄関の閉まる音と同時に、僕はただ、その場で泣き叫んだ。


読んでいただきありがとうございます!

面白いと感じて頂けたら、励みになりますので、ブクマ、感想、評価の方よろしくお願いします!


次回の更新は、2月4日の予定です。

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