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創造力≪イマジネーション≫で最高異世界ライフ!  作者: Aito
第1章 創造力≪イマジネーション≫
3/4

#3 ルーナ・レミレス・ユーグスト

 暗闇に包まれている裏路地を駆ける。以前の俺より足が速くなった気がするのは、きっとゼウノスがしてくれた身体強化のおかげだろう。

 裏路地を進むにつれて、段々聞こえてくる音がはっきりしてきた。この音は足音、複数人のものだ。誰かが追いかけられているのかもしれない。

 

 たどり着いたのは裏路地の少し開けた場所だった。俺のいる位置の反対側に、軍服らしきものを着た四人の人。おそらく軍人なのだろう。そしてその先には、ボロボロな茶色のローブを羽織った人が見える。茶色ローブの方は、壁にもたれかかり、息を上げていた。相当な距離の追いかけっこでもしていたのだろう。


「誰だ貴様」

「……!」


軍人四人のうちの一人が、こちらに訝し気な視線を向けてくる。それに気づいた茶色ローブが、軍人たちの足の隙間から俺の姿を捉え、声を掛けてきた。


「た、助けてください!襲われているんです!」


聞こえてきたのは、高く綺麗な声。少々擦れ気味ではあるが、それはきっと疲れているからだろう。っていうかこれ女の子の声か?じゃぁ、あの茶色ローブの下には女の子がいる訳か。

 その女の子の声を聞いて、軍人の一人が舌打ちをしながら、こちらに歩いてくる。殺気は感じられなかったが、とりあえず身構えておく。俺の下までやってくると、その軍人は俺の肩に手を置き、小声で話しかけてくる。


「いやぁ~、ごめんね、お兄さん。ちょぉ~っとトラブルがあっただけなんだ。だから回れ右してさっさと表通りに戻りな。今回のことは忘れてさ」

「………」


その顔は笑ってはいたが、その声音は完全にチンピラのそれだ。しかも目が虚ろ。演技下手だな、本心が透けて見えてるぞ?軍人から少し離れ、少し眉をひそめて睨みつける。


「俺には、お前らがあいつに絡んでいるようにしか見えないんだが?」

「……最終警告だ。さっさと帰れ」


ストン、とその顔から笑顔が落ちる。片手を腰の剣に柄に当て、威嚇してくる。しかし、不思議と恐怖や不安は感じなかった。なんというか、絶対的自信というか、こいつらに負ける気がしなかった。調子にのっちゃってるのかもなぁ~。


「………」

「チッ、ああもういいや。死ね」


押し黙る俺にイライラしてか、軍人はそんなセリフを吐いて、その右足で俺の体を蹴り飛ばした。

 俺はそれを両腕を交差して受け止める。少し後ろに飛ばされてしまったが、思ったより痛くはない。これぐらいなら戦える。


「はあぁっ!」


その雄たけびが聞こえ、上を見る。上には、剣を振り上げ、今にも俺を切り伏せようとしている軍人の姿があった。以前の俺なら、このまま何もできず切られてしまうのだが、今の俺は違う。

 体を右にずらし、振り下ろされる剣の軌道から外れる。軍人は、振り降ろした勢いそのままに体のバランスを崩した。その首目がけて手刀を放つ。頸動脈洞に手刀が入った途端、その軍人は気絶し、その手から剣が零れ落ちる。その体を受け止め、地面に横たわらせる。初めて手刀を使ってみたが、案外うまくいったな。下手したら死んじゃってたけど、まぁ、剣を向けてきてるんだし、死ぬ覚悟はあるよな?「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」ってやつ。撃ってないけど。


「はぁっ!」

「ふんっ!」


そんな俺の隙をつくように、もう二人、先ほど後ろにいた軍人が俺に攻撃してくる。横なぎにはらった剣が上下に一本ずつ。左右には動けないな。だったら―――――


「ほっ!」


膝を曲げ、大きく終えに飛び上がる。飛び上がる際に≪漆黒翼ノワールウィング≫を発動し、ジャンプよりも早く上に上がる。少々高すぎな気はするが、問題ない。彼らの背後に降り立つ。そして、彼らが振り向いた瞬間に、その間に立ち、そのぞれの首の横に手刀を打つ。彼らはそのまま意識を失い、最初の軍人のように、その場に倒れた。


「【火炎よ応えよ、現れし破壊の火球、フレイムボール】!」


そんな声が聞こえて、後ろを振り返る。そこには右手を前に突き出した軍人とその軍人の右手の周りに浮かぶ複雑で神秘的な模様の魔法陣。そして、その魔方陣から放たれたのだろう俺の方に向かって真っすぐ飛んでくるバスケットボールくらいの火球。あれって魔法か!?

 火球はとても速く、魔法に驚いて少し動きが止まってしまい、すでに避け切れないほどまで近づいていた。


「ッ……!?」


咄嗟に腕を交差させ、火球を受け止める。火球は俺の体に触れた途端に爆発し、俺の腕を焼いた。腕の服は焼け焦げ、その下の肉はやけどを負って赤黒く染まっていた。


「あっつ!?くそっ!」


腕の痛みに耐えながら、軍人に向かって駆けだす。まだ立てるのかというように、顔を強張らせた軍人だったが、すぐにまた火球を放ち始めた。


「飛んでくるってわかってりゃ……問題ないっ!」


次々と襲い掛かってくる火球を左に右に、上に下にと様々な方向に避け続けて、すぐに軍人の下にたどり着く。

 腕がやられてしまったから手刀は使えない。となれば何で攻撃するのか?決まってる。


「くらえっ!」


ドガッ!っと思いもしい音が軍人の顔から鳴る。俺は、軍人の顔面にライダーキックを決めていた。衝撃によって軍人は吹き飛ぶ。吹き飛ぶ瞬間に見えた顔は、白目をむいて鼻から血を出し、歯が折れていた。思いっきり蹴ったからなぁ~。……グロい。


「だ、ダイジョブか?」


腕が痛くて仕方がない。こんなやけど負ったことなんてなかったから態勢がない。茶色ローブの女の子(?)に話しかけるも、自分でもわかるぐらい笑顔が引きつっていた。


「……はっ!はい、大丈夫です。助けていただき、ありがとうございました。……あの、腕、治療しましょうか?」


なんだか放心状態だったらしい。が、すぐに意識を取り戻し、茶色ローブの女の子(?)は、俺の腕に不安げな視線を向けた。あ、マジ?治療してくれるの?

 やけどを負った両腕を前に突き出すと、茶色ローブの女の子(?)は、傷口に両手を掲げた。


「ああ、じゃあお願いするよ。回復魔法はまだ使えないんだ」

「分かりました。【光よ応えよ、癒しの閃光、ヒールフラッシュ】」


茶色ローブの女の子(?)が掲げた両手から魔法陣が出現し、そこから暖かな光が溢れてくる。これが回復魔法か、めっちゃ神秘的だ、ザ・魔法って感じ。

 じんじんと痛みが続いていたが、【ヒールフラッシュ】の光が俺の腕を包んだ途端、痛みが引いていき、尚且つ穏やかな気分になる。

 魔法にはそれぞれ属性がある。火、水、風、土、光、闇の六属性だ。回復魔法は光属性に分類されるのだが、残念ながらその位は中級魔法。図書館にはなかったのだ。


「ふぅー、ありがとう、助かった。やけどって思ったより痛いんだな」


先ほどまでやけどで赤黒くなっていた自分の腕を擦る。あぁ、せっかく作った服も焼けてボロボロだ。≪バックパック≫を発動し、替えの服を取り出す。同じものを複数用意しておいてよかった。さっさと着替えて、茶色ローブの女の子(?)に向きかえる。


「それで?君は?」


茶色ローブの女の子(?)に問いかける。軍人に追いかけられていたし、もしかしてお尋ね者とか?でもなぁ、だったらあの軍人たちあんな態度とるかね?明らかに何かを隠したそうだったけど。


「………」


茶色ローブの女の子(?)は、少し迷ったような仕草をした。やっぱりなんかやましいことでもあるのかな?


「まぁ、信用しきれないのは分かるけどさ。誰かに話してみたら楽になった、なんてこともあると思うよ?」

「……そうですね、分かりました。お話します」


すると茶色ローブの女の子(?)は、かぶっていたフードを脱いだ。現れたのは淡い色の黄金の長髪と翡翠色の瞳、整った綺麗な顔に白磁の肌。フードの下から現れた美少女の美しさに思わず絶句する。完全に想定外だった。ま、まさかここまでの美少女が出てくるとは思わなかった。


「………」

「?どうかしました?」

「へ?ああごめん、何でもないよ」


どうやら見惚れてしまっていたらしい。そのことを悟られない様にさっさと話を進めるようにせかす。彼女は不思議そうにしていたが、すぐに話を再開してくれた。


「……私はルーナ・レミレス・ユーグスト。このユーグスト王国の第1王女です」

「は?」


彼女の口から出た言葉に思わず耳を疑った。この国の第1王女って、なんか突然胡散臭い話になってきた気がするぞ……。

 その言葉を声に出すようなことはしていなかったが、その顔は疑いを隠せていなかったらしい。そんな俺の顔を見て、彼女は今度は捲し立てるように言葉を紡いだ。


「信じていただけないのも無理はありませんっ……!ですが、どうか信じてはいただけませんでしょうかっ!」


俺の腕を掴み、まるで懇願するように俺に語り掛けてくる。その声音からは必死さが滲み出ていて、その顔も悲痛に歪み、今にも泣きだしそうだった。嘘でここまでの反応ができるのか?


「……分かりました。そのお話、信じましょう。ですが姫様、なぜ一国の王女たる貴方がこんな裏路地で、しかも軍人に追われているのです?」

「ッ……!し、信じていただきありがとうございますっ!それと、ルーナで構いませんし、畏まる必要もありません。貴方は私の命の恩人なのですから」


俺が信じたことに安堵してか、その顔から悲痛さは消え、明るい笑顔になった。ただ、今度はその安堵に泣きだしそうになっていたが。

 本人が畏まる必要はいないというので、俺は再び砕けた口調でルーナに語り掛けた。


「じゃぁルーナ。どうして軍人なんかに追われていたんだ?」


先ほどと同じ質問をする。すると彼女は押し黙り、その顔から笑みを消し、その顔に影が落ちる。う~ん、なんかヤバそうな感じ。


「……謀反です」

「え?」

「軍部が謀反を起こしたのです」


謀反だって!?え、いやでも町はそんな雰囲気じゃなかったように見えたぞ?普通に平和だった気がするが……。


「軍部も国民を混乱させたくはないのでしょう。おそらく我々が何者かに暗殺されたことにして実権を握ろうとしていたのではないかと思います」


あ~なるほど、そういう感じか。まぁ、下手にクーデターなんか起こすよりも影に静かに……って方が、国を乗っ取るだけなら早くできる。


「でも軍部の人間はだれも反対しなかったのか?全員が賛成するなんて、相当な悪政じゃないとそんなことにはならないはずだ」

「もちろん普通の状態なら反対したの者もいたでしょう。……先ほどの兵士を見ていただけたら分かります。彼らの精神は既に将軍の支配下に置かれています」


既に催眠済みってことか。あいつらの目が虚ろだったのは既に催眠状態だったから……、だとしたら悪いことした気がするな。……特にライダーキックをかましたやつには。


「彼らも以前は高潔で優秀な者達でした。しかし催眠によってその精神は荒れ果ててしまいこのようなことに」


そう言ってルーナは、今もまだ気絶している軍人たちを悲し気な目で見つめていた。……なんか罪悪感。ゴメンナサイ、軍人の皆さん。


「私も一度は捕まりになりましたが、お父様やお兄様のおかげで難を逃れることができたのです。しかし、隠密行動は得意ではなくて……」

「見つかっちゃった訳か」

「はい……」


ルーナがしゅんっと小さくなる。お姫様なんだし、そこらへんはできなくてもいいと思うけどなぁ。


「これからの当てはあるの?」

「隣にある同盟国、フリネリス帝国に救援を求めようと思っております」


当てがないわけではないのか。でも隣国とはいえ、国境を越えるまで結構な時間がかかるし、救援が来てもその間に完全に乗っ取られてしまっては……。


「だけどそれじゃ間に合わなくないか?」

「それは、そう、なんですが……」


どうしたもんかなぁ~。時間がかかると、王様とか王子様とか殺されちゃうぞ……。


「ちなみに将軍ってどのくらい強い?」

「≪将軍≫アイルベルンは、代々我が国の軍の将軍を務めてきた家系の現当主です。指揮能力と戦闘力、どちらもこの国トップクラス、彼に並び立てるのは、ユーグスト騎士団≪団長≫ガルドゼスくらいでしょう」


そんなに強いのか……。俺が倒せないかとも思ったけど、この国トップクラスの実力じゃぁなぁ……。


「国王と王妃、王子ぐらいなら逃がせるか……?」

「え……!?」


俺がつぶやいた言葉にルーナは目を見開いて驚いた。≪創造力イマジネーション≫があればおそらくそれぐらいならいけるはずだ。将軍を倒すとなると俺の力量が必要になるけど、囚われている人を逃がすだけなら……。


「そっそれは本当ですか!?」


ルーナが声を荒げて、俺に問いかける。その言葉に俺は首を捻りながらだが、その可能性を伝えた。


「……できないことはない、と思う。逃がすだけなら何とか。ただ、将軍を倒すのは不可能だろうな」

「で、でしたらお父様たちだけでもなんとかお願いできませんか!どうか!どうか……!」


俺の腕を掴み、信じてくれ、と言った時のように必死に懇願してくるルーナ。


「…分かった。やれるだけやってみるよ」

「あ、ありがとうございますっ!ありがとうございます!」


とんでもないことを引き受けてしまった。まぁ、将軍を倒さないといけないわけじゃないし、それに比べれば……。

 ふと空を見上げる。そこには相も変わらず、幾万の星々が煌びやかな光を放ちながら、空に漂っていた。



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