第三章 約束のモノを求めて
今は昼すぎといったところだろうか?高かった陽射しが少しだけ傾き始めていた。
ボクはというとニンジンを求めて偵察に出る前にしっかりと予定を立てることにした。闇雲に動いても危険や労力の浪費につながるのだ・・・まずは予定を立ててから動くことにしよう。そのためにはギルバートの協力が必要だ。
「ギルバート。ボクはこれから人間の居る場所に行こうと思うんだ。」
そう告げるとギルバートはこう言った。
「なんでえ、仲間になるの断られたから人間に飼ってもらうのかい?」
何をどう思ったのか、ギルバートはボクがペットになる道を選んだと思ったようだ・・・。
「そうじゃないんだ。人間の居る場所に用事があるんだよ。そのためにギルバートには空から道を見てきてほしいんだ・・・もちろん危ない目に遭わないように気を付けてほしい。」
ギルバートは過去に何かあった経験がある・・・だから細心の注意をはらってもらいたい。そういう思いから真剣な顔で言うと。
「なんでえ・・・急に真面目な顔しやがって、俺様に指図するから何かと思えばそういうことかい。」
渋い表情のギルバートは少し動揺しているようだった。
「ギルバートに昔何があったかは知らないし、聞こうとも思わないよ。でも、今のボクにはギルバートの力が必要なんだ・・・だから、お願いしてるんだ。」
必死な思いから素直な気持ちを話す、これで伝わってくれるだろうか?
「昔のことなんてどうでもいいんだよ・・・ただ、俺様も危険な目に遭うかも知れねえ・・・そこをわかってて言ってるんだよな?」
言われても仕方がない・・・自分でもわかってて言ってる。でも、このミッションを達成するためには何としてもお願いしたいのだ。
「わかってるよ・・・。危険な目に遭うかもしれない。でもどうしてもギルバートの協力が必要なんだっ‼だから、お願いしますっ‼」
ギルバートはやれやれと翼を広げながら言った。
「やべえ案件だってのはわかった。それで俺様に力を貸してほしいってこともよくわかった。俺様もショウのボディーガードを買って出た身だ・・・やってやろうじゃねえか!」
そう言ってギルバートは快く快諾してくれた。ホントにただただ感謝でしかない。
「ありがとうっ‼」
そう素直に伝えると、ギルバートは少し照れ臭そうに鼻をこすった。
「俺様とショウの仲だ。遠慮されても気持ちが悪いってもんだ!それなら気持ちよく話して応じたほうが気持ちがいいってもんだ!」
やはり江戸っ子のような気質のギルバート、ちゃんと話して正解だった。何事も素直な気持ちを話したほうが、きちんと伝わるものだと思った。
「で、俺様は空でここから人間の棲み処への道を探してくりゃ良いんだな?」
早速実行してくれようとするギルバートを制して言った。
「待って‼決して危ないようなことは避けてよ?何かがあってからじゃ遅いんだから!」
そう念を押すとギルバートもニヤッとして言う。
「もちろんだぜ‼」
そして大空高く飛び上がっていく。何度見ても爽快だなぁ・・・もうあんなに高くまで上がってる。感心と共に思わず感嘆の声をあげてしまう程だ。危険ではないであろう高さから覗いているのだろう・・・先ほどよりも高さが増している気がする。
しばらくするとギルバートが戻ってくる。
「よう、ただいま。」
何事もなかったように帰ってきたギルバートは言う。
「わかったぜ!ここからだとあっちの方角だ。適度に開けた道もあるが真っすぐ行くなら森を通過することが必要だな。それ以外だとここを真っすぐ行くと人間の作った道がある。その道沿いに進んで行く感じだな。一本道だったぜ!」
危険を冒したにもかかわらず、冷静にそして丁寧に説明してくれた。まあ、銃の弾丸もとどかないのかもなぁ?この世界の銃がどこまでの性能があるのかわからないけど・・・。
「ありがとう!なんか危なそうなことは起きなかった・・・よね?」
危険回避は世の鉄則!危ない目には誰だって遭いたくないもんね。そりゃそうだ。
「おうよっ!ショウが心配するようなことは何もなかったぜ。むしろ、置き去りにしたショウのほうが心配になったぜ。」
そう言ってゲラゲラ笑う。
良かった・・・何も起きなくて。何かあってからでは遅いのだ・・・だから何事もなかったことに心から安心した。こうやって笑顔で笑いあえることがとても嬉しかったのだ。
「それは良かった。ボクのせいでギルバートに何かあったら気が気じゃないからね!まだ出逢ったばかりだけど、もう心の中では大切な友達だからね。こうして仲間を見つけられたのはギルバートのお陰だしね。」
もはや自分は動物の仲間入りをしたのだ。と、改めて感じると共にいろいろな動物たちとの共生を考え始めた。
自分は非力なウサギなのだ・・・協力的な動物とは仲良くするのが一番いいだろう。敵対するような動物はギルバートが何とかしてくれるだろう。
でも、でっかい熊とかだったらギルバートにはどうしようもないかもな?その場合は熊相手に交渉してみようかな。まあ熊だけに限らないんだけど。
「どうした?そんなに難しい顔して?」
ギルバートがキョトンとした顔で言う。
「うーん、ちょっと考え事しててさ。森を抜ける道を選んだとして、もしかしたら危険な動物に遭遇する可能性もあるんじゃないかな?って」
森を選べばもしかしたら危ない目に遭うことも考えられる。これだけ気が生い茂っているのだ・・・ギルバートの助けにくい状況でもあるだろう。それを考えた場合、道沿いに進むほうが安全なのだろうか?だが、人間と出くわすことも考えられる・・・。うーん、どうしたものか?
「まあ、俺様ならひとっ飛びだからな。ショウが悩むのもわかるが、あんまり難しく考えないほうがいいんじゃねえか?真っすぐ森を突っ切って行きゃあいいじゃねえか。そのほうが時間もかからねえしよっ‼」
気楽に言ってくれるなあ・・・確かに時間のことだけを考えれば直線距離が短い方が良いに決まってる。・・・けど、それだけじゃないから困ってるんだよなあ。
「ねえ、ギルバート?森の中を通って行くとして、ギルバートからボクのことはしっかり見えるの?」
素朴な疑問にギルバートは答える。
「上空からでも見えなくはないが、森を突っ切るなら枝から枝に飛び移っていけばいいだけじゃねえか。それならショウと一緒に同行できるってもんだしよ。ついでにボディーガードもできるだろ?俺様名案っ‼賢すぎるぜ!」
そうか⁉枝から枝に飛んでいけばいいんだ・・・ボクとしたことが失念していた。鳥イコール高いところを飛ぶという先入観が先に立っていた。よくよく考えたら低いところを細かく飛んでいけば良いだけのことじゃないか。
悩んでいた自分がなんだか馬鹿馬鹿しくなる。なぜこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう?灯台下暗しとはよく言ったものだ。
「そっか!そういう手もあるのか。でも、大きな獣にギルバート勝てるの?」
ギルバートの実力を知らないのだ・・・心配にもなる。
「俺様の実力を舐めてもらっちゃ困るぜ!獰猛な奴にだって俺様は食ってかかるぜ‼デカかろうが狂暴だろうが、俺様の敵じゃないね!」
自信満々に言うギルバートからドヤ顔が見えた気がするのは気のせいではないだろう。
「そ、そうなんだ?ずいぶん自信たっぷりだけど、その自信はどこから来るの?昔そういった相手に戦ったことでもあるのかい?」
きっとギルバートはそういった相手に勝ってきたのだろう。
「ん?そんな連中と戦ったことは無いが、負ける気はしねえぜ。なんせ俺様にはこの爪、このクチバシ、それとこの素早さ‼負けることなんてねえっ‼」
なんなんだろうこの自信・・・思わず目が点になる。ドヤ顔で翼を広げ説明するギルバートをよそに、自分は少しだけ・・・ほんの少しだけ冷めた考えをもってしまったことに心の中でギルバートに謝ったのは言うまでもない。
「ぎ、ギルバート?自信があるのは良いことだと思うけど、くれぐれも用心してね。なんといっても君の大切な友達の命運がかかってるんだからさ・・・。」
いざ戦闘になったらボクは逃げ回るしかない。ギルバート次第ではボクに待ち受けるのは死に直結するのだ。必死にもなるだろう。
「まあ、任せておけって‼俺様の手にかかれば簡単なことよっ!」
何度も言うけど、ギルバート・・・手・・・ないけどな。
「それなら森の中を通って行こうかな?ギルバートを信じて。」
ギルバートを信じて森へ行くことを決心した。これだけ言ってて役に立たなかったら呪ってやる。
そんな他力本願な思いで出発しようという自分が情けない。こんなに自分は非力だっただろうか?曲がりなりにも中学高校と柔道部だったのに、今はこんな何の力もない可愛らしいウサギ・・・ヨヨヨ・・・。
力無い思いと共にボクは森へと足を踏み出し始めた。
森の中はうっそうと木が生い茂っていた。季節は夏を思わせるようなセミの鳴き声が響き渡る。
・・・暑苦しい。
そう思いながらポテポテ歩いていると、ギルバートがバサバサと枝から枝へと飛んでいる。面倒だろうけどこうして監視してもらうのが一番の得策だろう・・・襲われてからじゃ遅いのだから。
「ギルバート、近くに何か居ないかも確認してくれないかい?面倒かけて申し訳ないんだけど・・・。」
おずおずと言うとギルバートは枝の上から返事をくれた。
「言われなくてもやってるぜ。一応ボディーガードなんだ、それくらいのことはやるさ。ダチの頼みだからな!俺様の信用を失墜するのは避けたいしな。」
キョロキョロと辺りを警戒しながら答えるギルバート。これだけ警戒してくれればある程度は安心してもいいだろうか?いやいや、ボクも常に警戒を怠ることをしないようにしなくては。
油断大敵という言葉があるくらいだ。気をつけておく分には問題ないだろう。
「ありがとう。ホントに助かるよ。ボクももちろん警戒はしておくけど、もしもって場合があるからね。お互い気をつけていこう‼」
ギルバートは目が良い、そしてボク自身は耳が良い・・・はず!それを考えれば敵が近づいてくる前に気がつけるだろう。と、ヤマをはったのだがどう出るか?
森の中にはいろんな草木が生えていた。自然が豊かでキノコやシロツメクサやフキなんかも生えていた。苔の類も生えているということは水場が近いのだろうか?まあ、湖があるくらいだから川の一本や二本あっても不思議ではない。
そんなこんなで二人で話しながら森を30分くらい歩いただろうか?その時は突然やってきた。
ガサガサと歩く音が聞こえる・・・それと同時に一気に心臓が跳ね上がる!
「ギルバートあっちから誰か来る‼」
森の中は静かで何事もないように普段通りの様相だ。
「んー?木が邪魔してよく見えねえなあ。何か居るのか?」
ギルバートは特に気にしていない風に話す。
しかし足音は確実にこちらへと着実に近づいている。またも同族かはたまた敵なのか判断がつかない・・・どうしよう⁉焦りと困惑が判断力を鈍らせる。
まるで自分が自分ではなくなったかのように、身体がうまく動かない・・・緊張で強張っているのだろう。
「ギルバート!気をつけてっ‼確実にこっちに来てる⁉」
そう言うとギルバートの顔つきが急に変わった。
「俺様と違ってショウは弱っちいウサギなんだ⁉間違っても反撃しようなんて考えるんじゃねえぞ!逃げることだけを最優先にするんだぜ!」
ギルバートの言う通りボクはか弱いウサギなのだ。出来ることと言えば逃げ回ることくらいしかない・・・。ギルバートの足手まといにならないようにすることで精一杯なのだ。
「わかった!」
キッパリと言う。
「ショウが逃げられるだけの時間は、刺し違えてでも作ってやる‼」
まだ、正体のわからない何かから逃げる決意をしながらゆっくりゆっくりと進んで行くとギルバートが声を上げた。
「ショウっ!気をつけろ!俺様にも見えた。ありゃ、キツネだ・・・お前さんにとっては最悪な相手だぜっ‼」
そう言うとギルバートは翼を羽ばたかせ始めた。
・・・キツネ、人間の頃には全く相手にもしなかった動物。それが今のボクには脅威なのだ。しっかりと自覚しなくてはいけない。
「近くに来る前に逃げたほうが良いのかな?」
ヒソヒソとギルバートに言うと、こう答えた。
「俺様が相手してくるその間に遠回りして進んじまいなっ‼」
そう言うとあっという間に飛び出した。キツネの居る方向へと木々を避け一直線に飛んでいく。すごいスピードで飛んで行ったなあ・・・そうだっ!今のうちに逃げなきゃ‼見惚れてる場合じゃない。
そう思い立ち強張っていた身体を動かそうとするが、動きがぎこちない・・・無理矢理身体を動かすしかない。
少しづつ歩を進める。回り道して行かなくては・・・必死に身体を動かして茂みに入った。その時、ギルバートの声がした。きっと戦いになったのだろう、この短い時間にどれほどの事が起きただろうか?キツネに遭遇しかけ、ギルバートが戦いに行き、逃げようにも身体をうまく動かせずにようやく辿り着いた茂みの中で気持ちを落ち着けているのだ。
キツネがこちらに来ないことを祈って、次の茂みへと向かう・・・ニンジンを探しに来ただけでこんな目に遭うとは思わなかった。
少しづつ強張りか薄れてきたのか、身体が思うように動くようになってきた。恐怖からの緊張感から解放されてきたのか、だんだんと速い動きが出来るようになってきた!声とは反対の方向に向かって駆け出す。
スイスイと木と木の間を器用に駆けていく、全力で走れはしないがウサギ特有の後ろ足の強さでほぼ直角に曲がりどんどんと進んで行く。どれくらい走っただろうか?結構離れたとは思うが走り続けると、光が見えてきた・・・それに向かって走り続けると街道に出た。ギルバートの言う人工的に作られた道というのが恐らくここだろう。
キツネから難を逃れギルバートを心配して出てきた方向を見つめる。大丈夫だろうか?まさかキツネにやられてしまったなんてことが頭の中を過ってしまう。
その時だった大きな影が自分に忍び寄ってきた‼
視界が広いにもかかわらず、ギルバートの心配をしていたせいだろうか?一点に集中しすぎた!それは大きな巨人・・・つまりは人間だった⁉マズい‼そう思って逃げようとした時には遅かった。あっという間に人間はボクを抱き上げる。ああ、このままボクは人間に児童書のようにミートパイにされてしまうのかもしれない・・・そう諦めかけた時、人間は思いもよらない行動をとった。
ボクを抱き上げた人間は座り込むと胡坐をかくと、ボクに向かって葉っぱを差し出した。クンクンと匂いを嗅ぎ食べてみる・・・これは食べたことがあるぞ?モグモグしながら考えるとコレが何の葉っぱか思い出す。そうだこれはキャベツだ‼相変わらず美味いなぁ・・・。
キャベツを食べながら人間を観察していると、どうやらおじいさんのようだ。始めは捕まるイコール食べられるだと思っていたのだが、このおじいさんは違うようだ。恐怖心が先に立っていた状態から気が付くと安心していた・・・ギルバートは大丈夫だろうか?そんなことを思いながらおじいさんに頭を撫でられていると、キャベツを食べ終わった。するとおじいさんはおもむろにカゴから何かを取り出すとボクの口元に寄せてくる。
よく見るとなんとそれはニンジンだったっ‼
やった!この世界にもニンジンは存在しているようだ。一安心してニンジンを頬張ると・・・あまぁ~いっ‼そう口に出してしまいそうになる程に、あまくて美味しかった。あまりの美味しさにどんどんと頬張っていく。
おじいさんも満足気に頭を撫でてくれている。なんだか平和な世界だな・・・と、感じた。こういうおじいさんになら飼われてもいいかもしれない。優しいおじいさんだな・・・人間にもこういう人が居るんだなとなんとなく思った。
よく考えてみると初めに会った人間にも何かされたわけではない・・・こっちが勝手にビックリして逃げ出しただけなのだ。
でも、必ずしも良い人間とは限らないだろう・・・たまたまこのおじいさんが良い人だっただけかもしれない。そう考えるとこのおじいさんと一緒に居ることが一番いいのだろう・・・が、しかし自分は野生のウサギとして生きていくのだ。そもそもこのおじいさんがボクを飼ってくれるとは限らない。
ニンジンを半分くらい食べたころだろうか?お腹がいっぱいになってきたので食べるのをやめると、おじいさんはボクの口元からニンジンを離す。頭は撫でたままである。きっと動物好きなんだろうな・・・幸せな時間だ。
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。おじいさんから降りると最後におじいさんは一撫でして立ち上がった。やはり大きい。ウサギの小ささを改めて認識した。そう考えているうちにおじいさんは立ち去ろうとしている。
どうしよう・・・おじいさんについていけば、きっとニンジンの在り処に辿り着けるだろう。しかしギルバートの身も気になる・・・どうしたものか?
というか自分の中で答えは出ているのだが、今おじいさんについていけばニンジンの在り処もわかるという誘惑に負けそうな自分もいるのが現実。でもギルバートを置いていくのは自分を許せない。
それならば、ギルバートを待とう。そう心に決めた・・・一人でいることは不安だったが、それでも待たなくてはいけない。そんな使命感を持っていた。
おじいさんが去ると急な寂しさがやってくる・・・静寂が訪れ風がそよそよと森の木々たちをざわつかせる。するとどこからかギルバートの声が聞こえてきた。
「おおーい!ショーウっ‼」
遠くから聞こえてくるその声はだんだんと近づいてくると、ボクの目の前に上から降ってきた。
「ショウ!大丈夫だったか?無事みてえだな。安心したぜ。」
安堵の表情を浮かべながら納得していた。
ボクはというと、上空から降ってきたギルバートにビックリしてキョトン顔だ。まさかギルバートが空から来るかと思っても居なかった。当然のように森の中からやってくると思っていたが、上空からは予想外だったためこんな反応になってしまった。
「ギ、ギルバート・・・無事だったんだね・・・まさか空から来るとは思いもしなかったよ・・・。」
カチコチの身体を動かして答える。
氷のように固まった身体は強張りが消え、安心感に変わった。
「いやあ、あのキツネの野郎やっぱりショウを狙ってやがった。遠ざけるのに一苦労したぜ。」
やはり狙われていたことに驚きと恐怖が湧き上がる。逃げておいたことと先に気がつけたことによる安堵感・・・様々な感情で少しだけ疲れが出た。ここが街道で良かった・・・少しは安心して休息が取れる。
「ごめん・・・ギルバート、少しだけ休んでもいいかな?」
そう言って自分の感情を落ち着かせる。
「まだキツネ野郎が近くにいるかもしれねえ。警戒は俺様がしておくが、絶対じゃねえ!だからホントは安全な場所に行ってから休んでもらうのが良いんだが・・・そんなに疲れちまったのかい?」
心配そうに顔を覗き込んでくる・・・それに対応する気力も無くなってしまったのか、こくんっ。と、ただ頷くことしか出来なかった。
「そうか・・・まあ、ショウは狙われる側だもんな。俺様とは違う感覚があったりするよな・・・すまねえ。」
なんだか申し訳ない気持ちで答えてくれてるのだろう?ギルバートは俯きながら答えてくれた。
「ごめんね・・・ちょっとだけだから。」
そう言って、少しづつ意識が薄れていった。
・・・・・・・・・ハッ!として、意識が戻るとギルバートは枝の上に居た。どれくらいの時間が経ったのだろうか?ギルバートに問いかける。
「ごめん・・・ギルバート‼ボクどれくらいボーっとしてたの⁉」
唐突に意識をかられて自分でも驚きだ。
「ん?ショウが動かなくなってからか?そんなに経ってないぜ?ものの5分くらいじゃねえか?」
何の気なしに答えるギルバート。5分程度だったことにホッと胸をなでおろす。自分の中ではもっと眠っていたような感覚なのだが、実際は5分程度・・・もし日が暮れていたと思うとゾッとする。
まだ太陽はてっぺんより少しだけ傾いた程度だった。
「良かった・・・そうだ‼さっき人間のおじいさんに会ったんだけど、凄くいい人でなんと・・・ニンジンをくれたんだっ‼この世界にもちゃんとニンジンがあったんだよ!」
あまりの嬉しさに熱くなってしまった。
「そ、そうか・・・ニンジンってのがあったのは良かったじゃねえか。で?それを持って帰ればいいのか?」
少し温度差があるギルバートは少しだけ引き下がって気圧されている。
「そうだよ!このままニンジンを取りにおじいさんの後を追いかけて行こうと思うんだ。どうかな?ちなみにおじいさんは向こうに行ったから、たぶん農園でもやってるのかもしれない。」
希望が見えたことにより気分が高揚してしまいマシンガントークになっている。
そんなことも気に病まず、話は続く。
「そうなのか?確かにショウの言う通り向こうには畑があって、たしか人間が住んでるはずだぜ。」
そう言ってギルバートはおじいさんの向かったほうを見つめる。
「これは大きな前進だよ!おじいさんがどこに住んでいるかはわからないけど、向かった方には畑があってニンジンもあるっていう可能性が高まったんだ‼場所の特定とニンジンがあることの証明になるんだ。喜ばずにはいられないよっ‼」
興奮気味のショウは相変わらずテンションが高い。
「そんなにスゲエことなのか?だとしたら良かったじゃねえか。人間のじいさんが向かった先にニンジンがあるんだろ?まあこの先にはそんなに大きくはないが、人間の集落があるからそこに行けば・・・たぶんあるんじゃねえか?」
ギルバートは興奮しているショウとは対照的に、冷静で且つ的確に指摘してくれた。有難いことである。
「集落?どれくらいの規模なの?」
集落とはいえあまりに大きな規模であれば手を引くことも考えなくてはいけない。小さな農村くらいだったらいいなぁ・・・と、淡い希望を抱く。
「人間の家が二、三軒あるくらいじゃねえか?そんなに大きな街みたいに建物だらけって感じじゃなかったな。人間もそんなにいねえし、なかなか自然がいっぱいで良いとこだぜ?」
自然豊かな農村といったところか、人もそんなに住んでいないようなので大丈夫だろう・・・でも、冷静に考えると閑散としているような農村なら少し可哀そうだな・・・ニンジンの一本くらいと思っていたが、そう考えると取りに行くのがもどかしく感じる。
「まあ、そんなに賑わってはいないところだが行ってみりゃあわかるだろうよ。人よりも畑の方が多いようなところだ。ショウが探してるニンジンも育ててるかもな?」
自分なりの私見を述べてくれるギルバート、行動だけでなく言動も頼りになる。
「よしっ!それじゃあ改めて村に向かうことにしよう。遠回りだけど街道に沿って行く方が安全みたいだから、それでいこうか。」
そうしてトラブルがあったものの、ショウとギルバートは共に街道を進んで行くのだった。