プロローグ
プロローグ
ある日、ボクは殺された。
くやしさも恨めしさもなく、ただ道に横たわっていた。
雨の降りしきる中、ただ雨粒が私の体を打ち付ける。
何が起きたのかもわからず、背中が熱く脈打っている感覚だけを感じる。
通りすがる人もなく、少しづつ意識が薄れていった。
・・・・・・・
目が覚めるとそこは見たことのない景色だった・・・草の感触??
少しづつ意識がはっきりとしてくると、そこは見たこともない林だった。
何が起きたのかわからずにいると声が聞こえてきた。
どこかに人がいるのだろうか?辺りを見回すが人気はない。
あるのは木だけ、遠くに湖だろうか?湖面が見える。
ここはどこだろうか?やけに巨木が多い・・・。
自分が何をしていたのかを思い出そうとすると頭が痛くなる。
最後の記憶が辿れない・・・たしか買い物に出掛けたはず・・・。
とりあえず道に出ようと歩いてみるとなんだか歩きづらい。
苦労してようやく茂みを抜け、道に出たところで何かが見えた。
人・・・間?それにしては大きい!巨人だ‼
それは周囲の巨木ほどではないが、とても大きく自分の見たことのないような生物に見える‼
逃げなくてはっ!
思い立ったように逃げ出した。
「うわああああぁぁぁっ!なんだありゃあ⁉」
そう叫びながら慌てて茂みに入り込んだ。
がむしゃらに走り続けると、湖のほとりまでやってきた。それでも混乱は収まらず、湖のほとりを駆け続けた。振りかえると、どうやら追ってくる気配はない。
海のように広い湖・・・その光景を横目に走る。その、壮大さに目を奪われ歩みを止め。
恐怖を忘れ見入ってしまう。キラキラと輝く湖面、こんなに綺麗な景色を見るのはどれくらい振りだろうか?・・・母さん元気かな?
子供のころに見た懐かしい田舎の景色を思い出す。混乱の後の感動・・・なんだか訳が分からない感情だった。
そしてゆっくりと湖面をのぞき込む・・・ん?白黒のウサギが映り込む。状況が呑み込めずあたりをキョロキョロするがそれらしいウサギはいない。
そろそろともう一度のぞき込む・・・やはり映り込むウサギ・・・。
そしてふと思った『もしかして・・・ボク?』そう思うも納得できず何度も見直す・・・が、現実は変わらない。
え?どういうことだ?ボクがウサギっていうことか?訳がわからない。そもそもここはどこなんだろう?さっきの巨人といい、今話題の異世界何とかってやつなんだろうか?
こんな時は現状の把握が一番大切・・・職場で学んだことだ。
ボクがウサギで、ウサギがボクで・・・ここがどこかもわからない・・・そして何をしていたのかもわからない・・・って、こんな状況で何を把握しろってんだああああああぁぁぁ
!!!!!
混乱する・・・ただただ混乱する。そして後ろ足をダンダンとする・・・。
何だ今の動きはっ!完全にウサギじゃねえか!!!!!まあ、なんだ・・・とりあえず落ち着こう。ボクがウサギだってことは分かった。百歩譲ってそこは認識した・・・ダッチウサギだということもわかった。だがここはどこなんだ?こんな何もなくて馬鹿でかい湖近所にはないぞ?やはり、ここは異世界なのか?
広大な湖はどこまでも続いているように見える。
それにしても今まで夢中だったせいか視野が広い。なんだかクラクラする・・・そりゃそうだろうウサギなんだから、後ろの方まで見えるのだ・・・慣れるまで時間が掛かるのも仕方ないだろう。うんうん。
勝手に一人で納得する。
しかしだ・・・ウサギかあ。なんでウサギになっちゃったんだろう・・・こんなことならもっと肉食べておけばよかったなあ・・・。
などと、くだらないことを考える。ウサギは草食という常識からの安易な考えだった。
ぐううぅぅぅっ!お腹が鳴る・・・巨人が現れ走って逃げた結果空腹になる。近くにはクローバーが自生している。仕方なしと思いクローバーの元へ向かう。
はぁー・・・確かクローバーはマメ科の植物だったっけ?食えるのかな??
そう思いながらもクローバーを頬張る。
モサモサ・・・モサモサ・・・
あれっ?美味い!下手したら肉より美味いぞ‼クローバーってこんなに美味しかったのか
あまりの美味しさに感動すら覚える。
ああ、そうか・・・ボク、今ウサギなんだった・・・まあ、いいか美味いし‼しかし人間だった頃は肉ばっか食べてたけど、野草もなかなかうまいもんだな・・・やはり、味覚の変化もあるのだろうか?大人になった・・・みたいな?www
そんなとぼけたことを思いながらクスクスと笑った。
さて・・・これからどうしたものか・・・
モサモサしながら考えるが・・・行くところもなく途方に暮れる。なにしろ目的もないのだ・・・途方に暮れるのも仕方ない。
何の目的もなくウサギとして生きるのかあ・・・今まで残業続きの会社にいたからなぁ・・・一つのスローライフとでも考えておけばいいのだろうか?
そんなことを思っていたがこれから彼の第二の人生?は、甘いものではなかった。