168話 ルリ28
168話 ルリ28
黒い靄の事件が終わり、人形師さん達がゾロゾロとマルゴ商店にやってきた。
人形師にとって、精霊が自分の作ったドールに憑くのは名誉な事でそれを目指して制作に励んでいる。
特に今回のようにマスクドドールの場合、制約もなく時間をたっぷり使って自分が思い描く作品を作れるから、真に実力が顕著になる。
例え悪霊であってもドールに精霊が憑いて欲しい。だけど、悪霊が憑いた場合、冒険者によって破壊されている。
精霊の格によって憑けるドールのランクもあるから、一概には言えないけど、優秀な作品なら壊されてるし、そうでなければ残っている可能性が高い。
期待と不安が入り混じった表情で自分のドールを確認しにきた。
最初に戦った合成獣みたいなドールの人形師さんは、ボサボサ頭にグルグル眼鏡、白衣を着ていた。人形師というか科学者みたいな雰囲気のヒトテラだった。
ドールがどう倒されたかを近くのスタッフに聞いてブツブツ言いながらメモをしていた。
三猿の製作者は三兄弟で赤青黄色の色違いの服を着ている、ドールに精霊が憑いた事を喜び、コレなら治せるって赤と青が喜んでる側で、黄色の服の人が「俺だけなんでこんなボロボロなんだよ〜」って嘆いていた。
ごめんね。
他には無事な姿で残っているドールを見て、喜んでいいのか複雑な表情をする人達がいて、店員さんが光の結界の話をしてフォローしていた。
そんな中私達の方に歩いてくる人がいる。
チューブトップに薄手の羽織り、裾広がりのゆったりとしたパンツ、サイドには細かい刺繍があしらわれている
細い体つきだけど、しっかりと鍛えられていてちらりと見える腹筋は引き締まっている。
全身は鱗に包まれていて、尻尾を揺らしながら歩いている。
顔つきはハキハキとした雰囲気のキリッと美人の竜の原種人。
私達の目の前に止まるとアイダを覗き込むようにしてジッと見ている。
「おや、私のドールにも憑いていたみたいだね。」
そう言いながらアイダの周りを歩いて観察している。
「あ、あの、、、このドールの作者さんですか?」
声をかけるが、手でちょっと待ってと言われた。
ひとしきり観察し終えると、私の方を向いて
「あぁ、私がこのドールの作者のウツキ・ヴリトラだ。」
「こんにちは。冒険者のメティス・ラヴァルです。」
ウツキさんってアニラさんの姉弟子の人かな?
「ちょっとご相談があって、、、」
「相談?」
眉を少しピクっと上がった。
「実は私のスプライトがこのドールに憑いてしまって、かなり気に入ったみたいなんで、もし可能なら譲ってもらえないかと思って。」
「うーん。譲ってほしいか、、、」
腕を組みながら悩んでいる
やっぱ難しいよねぇ、、、自分の技術の結晶を譲ってくれっていわれても。
しかもコンテストに出したやつだもんね。
「譲るかぁ、、、」
「厳しいですか?」
「ん〜本当はこのドールを故郷に贈ろうかと思っているんだ。」
「ぁーーそおいう事だったんですね。
じゃぁもしウツキさんに同じようなドールを依頼したらどれぐらいかかりますか?」
「暫く仕事を休んで、故郷に行く予定だったから二年は見て欲しい。」
「二年かぁ、、、それまで我慢できる?アイダ?」
ペンダントに戻っていたアイダがチカチカ光って飛び出してきて、ドールに入っていく。
「おぉ!
精霊が憑くところなんて初めてみるぞ!」
ウツキさんの発言で周りにいた人達がざわついた。
武器を構える人、出口に向かい逃げる人、腰を抜かし地面にへたり込む人、リアクションは様々だった。
光が収まりドールが動き出す。
「皆のもの、危害は加えるつもりはない。安心してくれ。」
「おぉ!喋れるのか!」
「うむ。
まずは、見事な依代の作者に敬意を表する。」
そう言いながら、片足を引いて片手を胸に当ててお辞儀をした。
「お、おう。」
つられてウツキさんも同じ様にお辞儀を返した。
「我はアイダ。側にいるメティスのスプライトだ。
先程の戦いでこの依代を勝手に使ってしまって申し訳なかった。」
「それはかまわないさ。壊されてもなかったしな。使い心地はどうだったか?」
「身が詰まっていて力に溢れていて非常に良い。そして、何よりデザインが良いな。
この依代のデザインは其方の出立ちと関係しているのか?何かをモデルにしているのか?」
「あぁ。
見ての通り竜の原種人だから、龍信仰はしている。昔故郷で読んだ本の中に龍神様の人型の姿が描いてあってな。
いつか作ってみたいと思ってデザインしたんだ。」
「なるほど。
よく出来ている。
ちなみに、其方の家名は?」
「ヴリトラだけど?」
「ヴリトラか、、、懐かしいな。」
「懐かしい?」
「友人の名と同じだ。」
「ヴリトラは私の一族にしかない名だが、知り合いがいるのか?
いや、いたのか?」
「其方の一族ではないが、我の友人にヴリトラはいた。」
「どういう事だ?」
「我はアイダ、アイダウェド。
かつては虹の蛇と呼ばれていた存在だった。」




