16話 入学
16話 入学
王都の洗礼された雰囲気と異なる、大きな武骨な石造りの要塞がそこにはある。扉を開けると大きなホールがあって、左右に長い廊下が続いている。目の前にはグラウンドに抜ける道があり、グラウンド側に抜けるとギルドの訓練場の数倍はある大きな空間が広がっていた。
空には骨組みが組まれていて、雨避けのタープを張る事もできて、緊急時は避難所にもなっている。
大昔、王国ができるより昔に使われていた本物の要塞なんだって。
今、その要塞は騎士の専門学校として再利用されていて、まさに今その騎士の才能をもった若者達が、期待と不安が入混じった表情で集まり、これから始まる生活に備えている。
前回の集まりの時とは違い、5×4の集団に集められ綺麗に並んでいて、その数は20を超えている。
今日からは騎士の一人として気持ちを引き締め、静かに整列をしている。といえば、聞こえはいいけど、そうなっている要因の一つ、いや、主にコレが原因になっている。それは鎧だ。フルプレートの鎧、上下とも着用のフル装備。
整列というより動けない。静かにしていると言うより、静かに耐えている。
が正確な表現。
重たいよ。
実際の戦闘ではこの状態では動き辛いから、風の魔法陣で動きの補助をしてくれるんだけど、今は起動させていない。
人によっては力が強く、風魔法の補助なしで動けるから、ガードしやすくしたり攻撃に転用しやすいように魔法陣を書く人もいる。
前回もお話をしてくれた竜の原種人の騎士団長さん(校長)が、今回もありがたい話をしてくれているけど、正直聞いてない。いや、聞く気がないわけではないけど、聞く余裕がないよ。
重たい、早く脱ぎたいよ。
騎士団の人達はなんでコレを常時装備できるの?無理だよ〜
その後着替えた後に、振分けられた集団毎に教室に移動した。
教室に移動して暫くすると、黒髪短髪の男の人が入ってきて、そのまま教壇に立ち、話だした。
「こんにちは、騎士の才能を秘めている諸君。これから君達は三年間で騎士に相応しい体力・技能・精神を身に付けてもらう。そして、その三年間諸君らを指導する事になっのが、私ノシキ・ティチャ。希薄人だ、宜しく。
まずは、私の事を話そう。私の第一職業は錬金術師で第二職業が騎士だ、現在は王国騎士団特務隊に所属している。任務の関係で学校に来れない時もあるかもしれんが、その時は替わりの先生が来てくれるから、安心してくれ。
また私自身第一職業が戦闘職ではないので、皆の第一職業に合わせた騎士の技術の使い方を一緒に考えていこうと思う。よろしく。」
パチパチ
「では、交流も含めて全員自己紹介をしていこうか。では、貴方から。」
まさかの一番最初か。
どうしよ、私のやつが基準になるから、名前だけじゃダメだよね。うーん。かと言って情報を出し過ぎるのもなぁ、、、
「こんにちは。メティス・ラヴァルです。第一職業は学者です。将来は冒険者になって、色んな地方を回って、本には書かれていない事を自分の目で見て考えていきたいと思ってます。」
無難だ、、、
パチパチ
拍手が終わると次の人が自己紹介をしだしていく。みんな大体同じ流れでやっているけど、中には笑わせようとして盛大にスベってる人もいたよ。
なんでこのタイミングで笑いが起こせると思っているのか??
クラスには原種人、混血人、希薄人、第一職業が戦闘職、生産職、商人、等色々いた。そういえばテイマーの人もいた。しかも親が牧場を経営しているらしい。今度美容室の店長さんに教えてあげよかな。
あ、ちなみにネアカ・ノーキン君も同じクラスになっていて、盛大にスベっていたよ。
「はい、みんなありがとう。この学校では各クラスに様々な人種と職業がいるようにしている。それは今後君達が生きて行く中で様々な人と接する事になる。その時、偏見や力の強さだけで視野を狭めて欲しくないからだ。
単純な騎士の強さでいうと竜人で第一第二共に騎士なら、難攻不落のように思えるかもしれないが、例えば魔法で落とし穴を作り、泥沼状態にすれば、まともな戦いにならない。戦わなくても戦闘不能にできる。
魔法使いで騎士なら、後衛職の欠点を補えるが、魔力切れやシーフなどが気配を決して近づいてきて、接近戦になり素早さと手数で押し切られる場合も多い。
シーフなら、武道家や剣士などに押し切られる。
非戦闘職であっても、鍛冶師なら力が強い、学者なら魔力知力が高い、テイマーなら使役してるモンスターで攻撃。
職業はあくまでも才能であり、その方面の才に長けているのであって、特別なスキルがあるというわけではない。
それに強さというのは、武力だけではない。商人がいないと流通が止まる、錬金術師がいないと便利な物がなくなる、料理人がいないと食の進化がない、学者がいないと世界は謎だらけ、鍛冶師がいないと強い武具が生まれない
職業で優劣はなく、大切なのは使いこなす事、そして相手を理解する事だ。」
パチパチ
王国では人種差別や職業差別をしないように教育されているし、職場でも人種によっての不公平が起こらないように決められている。
ただ、教育や決め事があったとしても、人だから色んな考えや感情があって、実際は「差」がある。それでも他国みたいに人種によって物の値段が変わったり売らなかったり、働ける環境が制限されたりといった程の「差」がないのは事実。




