13話 お姉さんと鞭
13話 お姉さんと鞭
冒険者ギルドの作りは、扉を入ると左手にクエストが貼り出されているボードがあって、ランク毎に分けられている。特に決まってる訳ではないけど、朝の8時に多くのクエストが貼り出されるのが慣例になっているから、みんなその時間に集まってクエスト争奪戦がはじまる。
正面には受付があって、受けたいクエスト表を持っていって、受諾されてからクエストにいくのが基本。例外として、常時出されている薬草等の採取クエストは納品だけでいい。
受付の横には階段があって、登るとギルド職員の休憩所や、ギルドマスターの部屋、VIP用の部屋があるという噂。行った事がないからあくまでも噂。
階段の下は魔物の解体場になっていて、解体が苦手な人はここでギルド職員が有料で解体してくれる。
扉を入って右手には、安くて量が多くて味はそこそこの食事処があって、臨時や正規パーティーがよく打合せで使っている。ギルド関係者以外も使えるから、常に賑わっている。
ちなみに食事処専用の入口もある。
私は今ギルドの入口付近で動きやすい格好と新品の一本鞭を持って立っている。
格好は動き易いけど、冒険に行く感じではないし、持っている武器は新品。
明らかに新人です!という感じでいると、冒険者に絡まれたり揶揄されたりっていうテンプレが、、、っていう心配は特に必要ないんだよねー。
新人がギルドで練習する事はよくあるし、ベテラン冒険者も武器慣らしという事で訓練場を使う事もよくある。
それに新人を揶揄っていたら、気がつけばその新人に追い抜かれてる事もあるし、あまり普段から態度が悪くて反感を買っていると、共同クエストを拒否される事もあるんだって。
そりゃそうだよ。
訓練場は午前中は誰でも自由に使えて、午後は二日前までに予約すれば貸切もできる。
キョロキョロ周りを見ていると
黒髪ロング前髪パッツンのスラッとした美人のお姉さんが近づいてきた。マルゴ商店の武器コーナーのお姉さんで、今日の待合せの人だ。
マルゴのお姉さんは、黒ベースの革鎧にワイドパンツ、踝までの黒のショートブーツを着ていて、(革鎧はよく見れば刺繍で花とも文字とも見える不思議な柄が書き込まれていて綺麗。ワイドパンツの裾はシースルーになっていて、かわいい。)
周りにいる冒険者の視線を自然と集めていた。
「お姉さんこんにちは。服装めっちゃ素敵ですね!革鎧ってそんなに綺麗な刺繍のものがあるんですね、初めてみました。パンツもシンプルだけど裾がシースルーでカワイイです!お姉さんのスタイルにピッタリだよ。、、、あ、今日は宜しくお願いします。」
「うふふっ。いきなりね。褒めてくれてありがとう。今日はこちらこそ宜しくね。」
「お姉さんのその服は冒険用の装備ですか?」
「そうよ。褒めてくれた鎧の刺繍は魔法陣だし、パンツのシースルーは部分もよく見れば刺繍がしてあって、それも魔法陣なの。」
「へぇー、、、あっ、本当だ!パンツの方にも刺繍がある。オシャレな装備いいなぁ。」
「ふふふっ。この装備は街の中で活動できるように考えて作ったの。オシャレで機能美。メティスちゃんならわかるわよね?」
「街の中での活動?冒険の装備でもオシャレできるなら、したいです!!」
「ふふふっ。嬉しいわ分かってくれて。街の中の活動は、要人のお忍びの護衛やターゲットの尾行とかがあるわ。」
「そんなクエストもあるんですね!けど、お姉さんオシャレで美人すぎるから、目立っちゃうんじゃないの?」
「ふふふっ。美人なのは隠せないじゃない。それにオシャレで美人はどこの街にもいるからいいじゃない。さっ。そろそろ訓練場にいきましょ。」
訓練場はギルドの裏手にあって、形は楕円形。地面は土がメインだけど、芝生の部分もある。多分だけど、一面芝生だったけど、使い減りして土の部分が多くなったんだと思う。魔法の練習でここを芝生にしてみようかな?勝手にやったら怒られるかな?とか言って許可もらってやったら、それはそれで恩着せがましいような。
まぁ、ほっとこう。
訓練には少し広い場所が必要だから、あえて昼前の人が少ない時間を選んだ。思っていた通り人はまばらだった。
購入した鞭は持ち手[グリップ]が40センチで芯に木があって、その周りを革でコーティングされていて、持ち手と鞭のウネウネする場所の間には切り替え部分があって、ウネウネする場所は[ボディ]と言って、革で編み込んで作られていて、先に行くにつれて細く圧縮されている。先端は[テール]と呼ばれていて、柔軟性は残しつつ硬さがある。全長は2.5メートルぐらいある。
「じゃぁまずはクラッキングと言って、音を出す事から始めましょうか。」
「はい。」
「腕耳につけるように上げて、鞭と腕を一体化しているイメージで肘を曲げて素早く下ろして、肩より下にいったら今度は身体の外にいくように腕を引き上げて円を描くようにして上にもってきて、また振り下ろす。腕に力を入れないようにね。一度やってみせるから、ちょっと離れましょうか。」
少し離れてお姉さんが一度軽く振り下ろしたかと思った瞬間
ッパンッ!!
乾いた破裂音が鳴った。
そして、もう一度ゆっくり、腕を上げて振り下ろす
ッパンッ!!
何度かそれを繰り返して、今度は連続で音を鳴らしていく。
目にも止まらぬ速さで!という言葉があるけど、本当にどこに鞭がいって攻撃しているのか、さっぱり目で追えない。
「凄いよ!お姉さん。全然鞭が見えなかったよ。」
「ふふふ。見えなかったでしょ。音よりも速く動いてるから、普通の人では見えないものよ。音が鳴っているのも、地面を叩いているからじゃなくて、音の速さを超えた時に空気を突き抜けて鳴る音なのよ。まぁ、一先ずやってみましょうか。」
「わ、わかりました。」
まずは、腕を耳の横にひっつくぐらい真っ直ぐに上げて、力を抜いて振り下ろす!!
「あてっ!頭に当たったぞ。もう一回!」
「あてっ、今度は手に当たった、、、もぅ一回!」
「あてっ」
「あたっ」
「ゔっ」
......
....
...
..
.
20分程経ったかな?そろそろ腕がしんどくなってきたし、心が折れそうだよ。体も痛いよ。
「ふふふっ。そろそろいいかしら。」
怪しい笑顔で近づいてくるお姉さん
「腕を振る時は力は入れない、大きな動き、腕と鞭が一体化してるの三点を意識してみるといいわ。あと、慣れるまで使わない方の手は腰の後ろにするといいわ。」
「わかりました。」
一呼吸おいて。
大きく振るから、一度上で一回回してみようかな。腕と鞭を一体化してるイメージで力を入れずに振るっ
パシャッ
「痛っ」
音は鳴ったけど、お姉さんみたいな乾いた音じゃなく湿った音だったし、肘が痛いよ。
「あらっ、鳴ったわね、おめでとう。」
パチパチパチパチ
「鳴ったはけど、お姉さんがやったのと音が違うし、なんか肘が痛いよ。」
「ふふふっ。音が違うのは速度の差よ。肘が痛いのは、振る時の肘の角度とイメージね。肘はもう少し外に向くようにして、イメージは手の先ではなく、二の腕から鞭としてイメージをするの、けど、硬く使わない事ね。後は鞭を使っていけば、必要な筋肉が付くから、慣れてくるわ。それと、メティスちゃん。左腕でやってみて。」
「腕から。え?!左で?!私の利き腕は右ですよ。」
「ええ。この前調べたら左の方が器用で、右の方が筋力があるから、操作が難しい鞭を左で扱ってコツを掴むといいわ。」
「わかりました。やってみます。」
言われた通り左手に鞭をもって動かしてみると、違和感は凄いあるけど、さっき右でやっていたのもあって、5分くらい振るとなんとなくコツを掴み
ッパンッ!!
鳴った!!
「やった!お姉さんと同じ音が鳴ったよ」
「ふふふ。よかったわね。じゃぁもう少し振って体に覚えさせましょうか。降り終わった後に円を書くようにして、連続でやってみてもいいわよ。」
「はい!がんばります。」
 




