シュミカの選択
「てなことがあったのよ。」
連絡会で、新しく名前が付いた集落について報告する。まだ3つだけだが、悉く安直なネーミングになっているという愚痴も添えて。
「アイリーン、私達のキャラ名さ、そもそも滅茶苦茶安直よね? 今はそれが神の名前ってことになってるけどさ。」
「う、うん。」
シュミカに言われて、自分達の名前を棚に上げていた事に無理やり気付かされる。そう、私達の今の名前は、元々はゲームを3人でやってた頃のキャラ名だ。愛梨だからアイリーン、澄香だからシュミカ、こうさかまこと(高坂信)だからコーマと、滅茶苦茶安直である。リアルの知り合いにキャラ名伝えずにゲーム内で会ってもかなりの確率でバレるだろう。
「その性質がさ? 下界の人々に影響したって不思議ではないと思うの。」
「そ、そういわれてみればそんな気もしてきた・・・。」
「本当の所はどうかわからないけど、ラプールの人達がアイリーンみたいに真面目だったり、ロクストの人達が割とクリエイティブでいい加減なとことかコーマっぽいし?」
そんな機能は無いと思うけど、ゲームではなく現実だから、無いとは言い切れない。
「そこんとこどうなの、ギル?」
「う、うーん、そんな機能は表向きは無いと思うけど、もしかすると裏機能みたいなのであるかも?」
ギルにも良く分からないらしい。まあ、ギルがこのシステム作ったわけではないしねえ・・・、ある程度は分かっても、裏要素みたいなのはわかんないか。しょうがないね。
「でもほら、信仰する神だから、似た傾向にあるのは寧ろ名誉なことだよきっと。」
「それはそうかもしれないけど、口元引き攣ってるわよギル。」
ある程度の付き合いになってきたのでわかる。これは笑いを堪えている・・・。誤魔化そうと口笛を吹こうとしているが音が出ていない、実に間抜けだ。
「うちとコーマのとこは、対策進めたりしてるけど、シュミカのとこはどうすんの? 管理者いないでしょ?」
「あー、うちはねえ・・・どうしよっか?」
「うぉい!」
「そんな事だろうと思って、ちゃんと精霊達に通達はしてあるよ。あと魔法の指導もちょいちょいしに行ってる。」
「な、なんと・・・私の知らない間にそんな事が! 今度一緒に連れてってよぉ~、魔法の練習とかする精霊とか見たいじゃーん!」
「見るだけね、大人しくしてるんなら別に連れてってもいいけど・・・。」
「わぁい! やったね☆」
「精霊に魔法色々教えるんなら、結界魔法でも覚えさせてウレインにだけ敵来ないようにとかできないのか?」
今まで黙って私達の話を聞いていたコーマが、いきなり喋りだしてちょっとだけビックリした。ちゃんと色々考えてたのか・・・なんかごめんコーマ。心の中でだけは謝っておこう。
「出来なくもないけど、ちょっと力不足かな・・・、それこそ神の力でもないと継続できないよ。」
「例の神様がちょっかいに飽きるまでなら、シュミカの力使うとかは?」
「え、私? 神の力は使えないんじゃなかったっけ?」
「使う事はできないけど、無くなったわけじゃない。内臓の電池はあるけど出力ができないって感じ。」
「おぉ、わかりやすい・・・。」
「結界張るのは神としてじゃなくて、大陸に住む者として行使するっていうことではどうだ?」
「考える事がいやらしいわね・・・流石コーマ。」
「褒めるならちゃんと褒めろよ、泣いちゃうぞ。」
そんなコーマは放っておいて、それが出来るのかどうかの返答をギルから返ってくるのを待つ。今、多分凄く思案顔なのは、システムの抜け穴をクリアする為の言い訳を考えているんだろう。多分ね!
「言い訳とは人聞きの悪い、意味は違わないけども。」
「やだ、心読まないでよ。」
「読まなくても、大体わかるよ・・・アイリーンは顔に出やすいから。」
「ひゅーひゅー」
「シュミカ、おっさんみたいな反応するんじゃないの。そっち方面のギャップ萌えなんて需要ないんだからね?」
「ぶー」
そんな呑気なやり取りをしていると、ギルが急に真面目な顔になった。
「出来ない事はない。けど、シュミカはその間こっちに帰ってこれなくなるし、ウレインにいる間も行動範囲は制限される事になるよ。それでもいいなら・・・。」
「やる。」
即答だった。神としての管理は放棄したシュミカだが、そこに愛はあるらしい。
「何の迷いもなく言うね、例のアレがちょっかい掛けて来なくなるまでどのくらいになるか分からないんだよ?」
「うん、無期限なのはわかってるよ。それでも、あの楽園みたいなところが穢されるのは見たくないもん。神じゃなくなったとしても、あそこは私の大事な場所なの!」
「こんな短い時間で、よくそこまで決意したね・・・。じゃあ僕はそれに応えないとだ。早速準備に取り掛かるけど、シュミカは結界魔法のイメージあるかい?」
「んー、ドーム状の方がいいか、四角いのがいいか、それともピラミッド型がいいかで迷ってはいる。」
「迷うとこ、そこなんだ?」
「外からの接触があった場合、それを捕獲吸収するイメージにするわ。よし、ドーム型にしようっと。」
「そこまでイメージ出来てるなら発動できそうだね。じゃあ早速現地にいこうか?」
「はぁい、じゃ、また後でね! アイリーン、コーマ! 頑張ってね!」
これからどの程度の長さをウレインで過ごさなければならないのか分からないのに、ちょっとコンビニ行ってくるみたいな感覚でシュミカは旅立って行った。
ま、会いたくなったら私達が会いに行けばいいのか。私達は排除対象から外すようにしてってギルに伝えて貰っとこう。




