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ガルクさん、次の人生へ旅立つ

 「って、そうだ! ガルクさんの事忘れてた!」


 もうすぐ命の炎が尽きてしまうかもしれないって思ってたのに、ねちっこいよその神様のせいで、すっかり忘れ去っていた。


 「で、でもあれから年数っていうほども経過してないし大丈夫よね!?」


 すぐさま確認する。大丈夫、まだ生きてる・・・けど、ギリギリって感じだ。彼の家の周りには、たくさんの人が集まっている。いよいよ彼は最期を迎えるのかもしれない。大勢の人が彼の最期を見届けようとしているのね・・・、ガルクさん、頑張ったもんね。


 彼は、女神から授かったアーティファクトを使い、ラプールに文字を広めた偉大な人物として、大陸中の人々が知る事となった。彼の終焉の地である、この集落にもその名前は知られていたのだ。


 「母様、ガルクの魂を連れに行ってまいります。」


 感慨に浸っていると、シエルの一声で一気に現実に引き戻された。そうだった、彼を一旦ここへ連れて来なくては。


 「いってらっしゃい、シエル。」


 静かに一礼をし、すうっと消えて下界に降りていくシエルを見守り、再びガルクさんの元へ視線を戻す。


 彼は、ベッドに横たわっており、今にも息を引き取りそうな感じだった。だがその顔は穏やかで、その手には、今もなおアーティファクトがある。ベッドの脇には沢山の人がいて、涙を流す人もいる。それぞれが口々に感謝の意を述べ、後から来る人にその場所を譲っていく。


 私達は彼の人生の一端を見る事しかできなかったけど、この様子を見ていると、彼の人生の出会いは良いものが多かったのだろうというのが分かる。人に惜しまれるというのはそういう事なんだろうと思う。


 やがて、彼の息が徐々に小さくなっていき、そこへ、光の柱が現れる。シエルが降臨した。


 人々は驚きはしたが、ガルクさんの事を知る人は、そもそもアーティファクトを女神から授かったという話を知っているため、迎えに来たのだと、ちゃんと理解してくれているようだ。


 光は収束し、シエルが姿を現すと、その場にいた人々は跪いて、その様子を見守った。きっとこの事も後々に語り継がれていくのだろう。ガルクさんの偉業を締めくくる物語として。


 シエルがガルクさんに手を翳すと、ガルクさんの体がふわりとした光に包まれた。すると、ガルクさんの体から、光の球が浮き出てきて、シエルの手のひらの上に収まった。収まったといっても浮いているのだけど。


 幽霊みたいなのが出てくると思ってたわ・・・。


 シエルは、そこにいる人たちに向けて、アーティファクトをガルクの生きた証として、大切に保管するように言った。最後までガルクさんの世話をしていた人が、涙を流しながら了承した。

 その了承を受け取り、アーティファクトを託したシエルは、人々へ向けて一礼をし、再び光となって、そこから姿を消した。


 そして一瞬で自分の目の前に現れた。ちょっとびっくりした・・・。


 だって、ガルクさんが若返ってるんだもの。さっき光の球だったじゃん!?


 「母様、ただいま戻りました。ガルクは出会った頃の姿を取ってもらっております。」


 あっはい、事後報告ですけど、わかりました。そういう事なんですね。


 「ご苦労様、シエル。さて、早速ですがガルクさんにはこれから選択をしてもらう事になります。」


 これから、使徒としてここで生活し、必要な時に下界に降臨するのか、普通に転生して普通の人として生きるのか、転生しても神の使命を受け入れ続けるのか。

 すぐに返事をしなくてもいい、これからの人生の事だ、じっくり考えてほしい。

 その事を伝えると、ガルクさんは顎に手を当て、目を閉じて考え出した、と思いきやカッと目を見開いた。


 「女神アイリーン様、私は貴方の使命を喜んで受け入れた者でございます。普通の転生など、考えもしません。ここに残り、貴方と共に歩みたいとは思ったのですが、貴方の愛するこのラプールをより良いものにし、そして共に生きる事こそが、私の至上の喜びだと。そう考え至りました。」


 ガルクさんは最初から結構ラプール愛に満ち溢れていたから、多分そういう選択になるだろうな~とは思ってたけど、案外悩まなかったなぁ。


 「分かりました、私の愛する子らとその地をより良いものにと考えてくれる事、大変うれしく思います。転生するにあたって、私から贈り物をしたいと思っております、今回使命を全うしてくれたガルクさんに感謝の意を表して。」


 強くてニューゲームとまではいかないけど、次何をしたいかによっては、欲しい技能や適性などが出てくるだろう。あまり強すぎるものは無理だけど、と伝える。適性は引き継がれる事、記憶を残しておくかどうか。その事を含め、ガルクさんと相談した。


 「何から何までありがとうございます、女神様の為に働けた事は、私にとって宝物のような時間でした。それなのに、次もまた働かせていただけるどころか、贈り物までいただけるとは・・・、感謝しきれません。」


 嬉しさのあまり、涙を流しているガルクさんをなだめ、希望する集落を選んでもらう。彼は次の人生でやりたいことは、女神の為したこと、それぞれの集落の歴史、口伝、それらを編纂する事。

 文字文化の昇華を図りたいということだった。第二の都市改革は、ガルクさんの作る物語の町。


 詩や、小説、人の歴史に土地の歴史、様々な文字が紡がれるだろう。


 こうして、ガルクさんの第二の人生が幕を開けるのだった。

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