転生者シュウ、女神に会う
あれから、罠の魔法が生えた。薬草の事も知識を付けてきているし、メモにもちゃんと残している。植物をよく観察して、植物限定の鑑定も習得した。
毎日の掃除も欠かさずにやっているし、時間の空いた午後は全て勉強に当てている。10歳という若さとはいえ、時間は有限なのだから、少しでもやれる事をやっておきたい。
シュウの一日は今日も、礼拝から始まる。
のだが、この日はなんだか様子が違った。女神像の前に跪き、祈りを捧げると、ふわりとした浮遊感に包まれた。驚いて目を開けると、そこは白い部屋で、惑星の模型のようなものが浮かんでいる。
そして、女性と子供と、男性の3人が佇んでいた。
「おはよう、シュウ君。ちょっと話を聞きたくてね、時間は止めてあるから心配しなくてもいいよ。」
「ごめんね、急に・・・。ビックリしたでしょう? 私はこの星のラプール大陸を担当しているアイリーンと言うの、隣にいる子は使徒のシエルよ、よろしくね。」
困ったように眉尻をさげて、礼儀正しく挨拶してきた女性は、どうやら女神らしい。日本人かと思いきや普通に金髪の美女だ。
「い、いえ・・・大丈夫です。」
いきなりの事で、頭はまだ若干混乱はしている。返答もしどろもどろになってしまった。
「あの・・・それで、僕に何か・・・?」
もしかして、転生者という事がバレて、何かされてしまうのだろうか?もうこの星に対しての敵対心などないというのに。
「君は、罠魔法を生み出したよね?そこの経緯にある魔物に襲われた時の為っていうのが、どうも不自然でね・・・。ちょっと話を聞かせてほしいんだよ。」
「あ、あのね、もし転生者とかそういうのだとしてもね、悪い事しないなら、全然普通に暮らしてもらってていいのよ?」
女神はどうも、良い人のようだ。見た目に反して、中身がバリバリの日本人臭い感じがする。
「やましい事はしていないので、正直に言います。僕は転生者です・・・、他の星を担当して、神の真似事をしていました。脱落しましたけど・・・。」
そう言うと、男性の方が深い溜息をついた。
「やっぱりそうか、あの時の・・・。僕が見るのを止めてから目標を変更したんだね?」
「はい。この星で好き勝手に生きてこいと・・・。最初はそうするつもりだったんですが、ラプールで暮らしているうちに、そんな気は失せました。いい所ですから、今では守りたいと思っています。」
「そうだったの・・・、それで魔物に襲われた時の為っていう理由で魔法を?」
「僕が、ラプールに馴染んでしまって、あの神の思惑は外れたでしょうから、次の手を打ってくる可能性を考えまして・・・。他の星に干渉することが出来るかどうかは僕にはわかりません、でももし可能なら、何もしてこないとは思えないんです。多少ですけど、一緒に居たわけですから。」
「他の星の神が、こちらに干渉してくるって・・・そんな事できるの?ギル」
「本来ならできないけど、転生させることもね。でも転生させたってことは、干渉は少なからずできるってことだよ・・・。僕はやろうとも思わないから、予測でしかないけどね。」
「だから、もし干渉してくることがあるのなら、魔物を発生させたりとか、疫病を撒き散らしたりとか・・・、色んな可能性を考えて、対策を練らなければと・・・。」
「なるほど、それで色々勉強してたのね、まだ幼いのに凄いなと思ってたのよ」
「いえ、僕一人ではやれる事はそんなにないと思いますが、もし僕が死んだあとでも多少の知識は残せるようにと・・・。」
「へえ・・・環境は人を変えちゃうんだね。以前に見た時はもっと、こう・・・激しい感じだったと思ったのに。」
「ラプールで生活していると、そんな気持ち忘れちゃいますよ。両親に愛されて、周りの人もいい人ばっかりで。好き勝手しようなんて思わなくなる・・・女神様も色々頑張ってるみたいだし。」
「なんか、転生者の人に褒めてもらえると、面映ゆいというか、ちょっと照れるわね・・・」
照れるしぐさが、外国人のそれとはなんだか違う、やはり日本人が中身で合ってるらしい。きっとゲームのキャラメイクよろしく作った器なんだろう。自分が連れてこられた時もゲーム感覚でやっていいと、そう告げられたことを思い出す。
「そっか、なら危険はないようだ。ラプールの、いや、トリルの危機にはきっと彼は役に立ってくれるはずだ。もし、必要としている事があれば、困ったなぁ~って思ってみて、ステータスに表示されるから、アイリーンが拾ってくれると思うよ。」
そんな事で女神が動いてくれるのか・・・、凄いな。自分が担当していた星の運営も、多分この機能はついていたんだろう。でも自分はそんなもの見ようともしなかった・・・、ラプールが良い大陸なのも頷ける。
「分かりました、日々精進致します。」
「欲しい物があって、それを配置したら神託飛ばしてお知らせするわね、ラプールを宜しくお願いしますね。」
「はい!」
こうして、女神たちとの邂逅は、無事に終了した。
より一層の努力を、女神に捧げる事を誓い、神殿を後にしたシュウであった。




