転生者シュウ、頑張る
他の星よりやってきた転生者のシュウは、10歳にまで成長していた。すっかりラプールに馴染んでしまい、もはや普通のラプール民となんら変わりない。
「なんとなく普通に過ごしてるけど、俺を生まれ変わらせた神がまた嫌がらせしてこないとは限らないんだよなぁ・・・。今のうちに色々魔法を開発しておくべきか、それとも武器を作っておくべきか、いや、もしかしたら疫病流行らせたりするかもしれないよな・・・。」
彼は忘れてはいなかった、自分を転生させた神の嫌な性格を。自分の遊びが終わってしまった腹いせに順調なこの星に嫌がらせをするような奴だ。自分が使えないとわかると、また新しくちょっかいを掛けてくる可能性がある。でもその時に慌てても手遅れになりかねない。自分にできる事はないのか、この星の為に何か手助けできることはないのかと、このところ良く考えるようになっていた。
「ここの女神様は、割と細かいところまでフォローしようと頑張ってる感じが伝わってきて、結構いいひとっぽいんだよな。なんとか力になりたいもんだ。」
日課の掃除を、魔法を使って終わらせながら、独り言ちる。
とりあえず、新しい魔法を生やすには日々の願いや努力がモノを言う、だがここは平和すぎて、もしモンスターが現れてとか、敵が攻めてきてとか、そういう発想がされないのだ。攻撃魔法を生やせたとしても、教えるのが困難というのは目に見えていた。
誰にでもわかりやすい魔法で、攻撃する魔法・・・、いや、ここの住民は皆罠で獲物を捕まえるよな。捕まえる為の魔法に特化したら、弱いモンスター程度ならなんとかなるんじゃないのか?とシュウは考えた。
「となると、ちょっと罠狩りしてる人に話を聞きに行ってみようかな?」
家の周辺の住民にも、罠で食肉となる獲物を捕まえている者がいる。その人に話を聞いてみて、どういった罠で捕まえているのかを学び、魔法へと昇華させようといった感じに頭の中で計画を立てる。
あとは、疫病対策として、薬学を学んでおきたいところだ。衛生的な環境としては、ここは文明レベルの割には良い方だ。そういう系統の病気は今のところ聞いた事は無い。人々は公衆浴場に毎日入り、身を綺麗にしているし、カピバラのパチモンみたいな動物がお湯に浸かると、何かしら効果を出すらしくて、健康維持に貢献している。トイレはクリーンスライムがいるから清潔に保たれている。
よく異世界もので問題になっているような、スラムの汚い場所とかそういうのも存在しない。
でも、理不尽な力で疫病を発生させられたら?その時に知識が無ければ何の対策もできない。薬草に詳しい人にも話を聞かなければ、そしてその知識を紙にしたためて、他の人に伝える事を考えなければならない。
「あのー、すいませーん」
近所の人は、仕掛ける罠を作っている最中だったので、丁度家にいるようだった。探す手間が省けて良かった。
「罠の作り方とか、教えてもらってもいいですか?」
「おや、シュウ君じゃないか、罠に興味があるのかい?いいよ、今作ってる罠の作り方を教えてあげよう。そんなに難しくないからすぐに作れるようになるよ。」
「ありがとうございます!」
近所とはいえ、他人がいきなり罠作りを教えてくれなんて言って、不審がられないだろうか? と、実は内心ビクついていたのだが、杞憂に終わったようだ。
興味がある事、やりたい事なら、何でも教えてくれるのがラプールの民のいいところだとシュウは思う。だからこそ、何かあれば守りたいと思うのだ。
罠は簡単なもので、餌を置き、その周辺に仕掛けるといったもので、地球でもよく見られるような類のものだった。その他にも、口頭での説明だけだが、こんな罠があるとか、他の人はこういうものも作っていただとか、分かりやすく教えてくれた。
地球での講習会なんかよりも、よっぽど理解しやすいとシュウは感心した。
「こういう罠みたいなのを魔法で出来たら、良いと思いますか?」
「魔法で? うーん、物にもよるかなぁ? 人によっては罠を仕掛ける事が好きって人もいるからね、僕は罠も作って魔法でも罠狩りできたら楽しそうだなって思うよ。」
その後も、こんな魔法があったら~とか、こんな罠だったら~とか、罠談議に花を咲かせていたら、あっという間に日が暮れる時間になってしまった。中々実りのある一日だったと思う。
「あっ、もうこんな時間! 遅くなると母さんが心配しちゃうかもしれないから、これで帰ります、ありがとうございましたっ!」
「ああ、もうこんな時間になってたんだね、こちらこそありがとう、興味深い意見も聞けて良かったよ。気を付けて帰るんだよ。」
もう一度お辞儀をして、その家を後にする。家に帰れば、母親が美味しい夕飯を作って待っている。
明日は薬草に詳しい人に話を聞きに行こう、今日聞いた罠の話は、家にある紙にちゃんと書いておこう。そして毎日イメージするんだ、こういう魔法を使いたいと。
いつ来るか分からないが、来るべき時に備えて、彼の奮闘は続いていくのだった。




