表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/261

転生者シュウ、魔法を生やす

 シュウは行きと同じように、母親に手を引かれ家へと帰る。特に儀式みたいなものはないらしく、帰りも同じようなメンツが隣を歩いている。母親から魔法についての注意事項や、どのような時にどの魔法を使うかなどと言った説明を受けている。


 シュウも右に倣えで、母親からレクチャーを受けている。受けなくても大体わかるのだが、母親は丁寧に、そして家でどのように使っているかを交えて話すので、聞いているのは苦にならない。


 (母さんは優しい、魔法の使い方すら優しい・・・、この家に、いやこの星に転生して良かった)


 たったの3年で、この変わりようである。力を付けなければだの、魔物を倒すだの、戦争に出るだのと言った考えは宇宙の彼方へと消え去っていた。

 ただ、優しい両親と穏やかに暮らす毎日が、とても、ひたすらに優しい日々だったから。


 元々は、一つの星を滅亡に導いてしまい、神々のゲームに敗れた腹いせに消滅させられるところだったのを、この星を担当する神への嫌がらせのために、隠ぺい工作まで行い転生させられた。

 この星の担当の神と言うのは、アイリーン達の事ではなく、ギルの事。ちまちま発展させているにも関わらず、未だにゲームから脱落もしていないギルに対して、何かアクションを起こすことはきっと予想されていただろう。

 ギルがあの星が脱落した時の会話を覗き見ていたのは、あの神に知られていたのだった。だからあの時はシュウに星を選ばせた。選ばせた事で、ギルはトリルが標的になっていないと思ったのだろう、監視が解かれた気配がしたので、そこからステータス隠蔽を行い、予定変更だと伝えてトリルに半ば強制的に転生させた。


 当時はこのことを大変恨めしく思ったものだった。


 だが、この星に生まれてから、まだ3年ではあるが、集落の人々の穏やかな日常を見、両親からも周囲の人間からも愛情を注がれ、友人にも恵まれ、そして食べ物も地味に美味しい。

 困った時はお互いに助け合い、ケンカレベルはあるが、基本的に争いと言ったものはない。通貨もないし、商人みたいな悪どい人間もいない。

 地球に比べれば圧倒的に不便ではあるが、そこには平和そのものがあった。人は皆勤勉で、働き者。怠けるものはおらず、皆が得意としているものを職業にしている。


 そんな恵まれた環境で3年。シュウはラプールに馴染みまくっていた。だからこそ、この星に生まれた事へ感謝するほどになっていたのである。


 「魔法はね、基本はこれだけなんだけど、こうしたい! って思いが強ければ新しい魔法が生えてきたりするからね、シュウも頑張ってね!」


 帰り道、家ももうすぐというところで、母親がシュウの頭を撫でながらそう言った。


 「どんな魔法があるの?」


 「んー、そうねえ・・・例えば、畑を世話している時にね・・・」


 と、おいしくなーれや元気にそだって~やらで魔法が生えてきた話をシュウに伝える。動物をよく観察していたら、動物を鑑定する魔法が使えたりするようになるらしい。


 (話を聞くに、攻撃魔法は存在していないらしいな・・・)


 生まれたばかりの頃は、攻撃魔法を開発してドッカンドッカンやろうと思っていたシュウであるが、今はそのような考えは持てなかった。必要なかったからだ。


 「母さんや父さんが、暮らしやすくなる魔法があればいいな。何か困ってることとかある?」


 「まあ・・・! シュウは優しい子ね~、シュウが暮らすのに便利だな~って思う事でもいいのよ」


 母親は嬉しそうに、目を潤ませた後そう言った。子供の幸せが親の幸せと言わんばかりに。


 (母さんは、俺の事を大事に思ってくれている、俺も今のこの生活を大事にしたい・・・)


 こうして、シュウはいかに今の生活を良くしていくか、考えながら過ごす事になる。母親だけでなく、父親にも何か不便はないかと聞き、近所の人達にも困り事はないかと尋ねながら、掃除を手伝い、洗濯を手伝い、公衆浴場の掃除やカピヴァラさんのお世話、果てには神殿の掃除も率先してやるようになった。

 大体の手伝いが掃除だったために、シュウに新しい魔法が生えたのだが、それは掃除魔法だった。


 「母さん、掃除が楽になる魔法が生えてきたよ!」


 2年後、彼が5歳になる頃に掃除魔法:クリーン を生やす事に成功する。集落の人々には、シュウは綺麗好きだからねえ~と納得される。そんな周囲の反応ですら、シュウには愛おしく、そして心地よく感じられた。


 「まあ・・・! まあまあ! 偉いわシュウ! お掃除のお手伝いすっごくすっごく頑張ってたものねぇ! 今日はお祝いのご馳走作らないとねっ!」


 「ありがとう母さん! ご馳走は父さんも喜ぶね!」


 その年頃の子供らしく、可愛らしい笑顔であった。この頃には、この大陸に国も争いも階級もなく、平和そのもので、武器も存在していない事が分かっていた。

 転生させた神に言われた「その星で好き勝手に生きよ」という言葉は、きっとそのままの意味ではないのだろう。神として好き勝手に星を弄ったシュウに、トリルでも同じように傍若無人に生きよと言ったのだ。平和なこの星を搔き乱せと・・・。


 今はもうその気持ちは1ミリだって存在しないのだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ