久しぶりの温泉とその裏で・・・。
ラプール大陸全土に紙漉きが広まり、私達の一大事業も一旦終わりとなった。毎日毎日結構な仕事量だったなぁと、ちょっとばかり振り返り、小さく息をつく。
「さて、息抜きに温泉でもいこっか!」
ポンと手を叩き、傍にいたシエルに温泉のお誘いをする。
「はい、母様!久しぶりの天然温泉ですね!」
「ほんと久しぶりね、シュミカとギルは居るかしら?」
ウキウキしながら白い部屋に二人で移動。移動と言っても一瞬なのだが。
「ギル~シュミカ~、温泉いこー」
友達の家に誘いに来た小学生か。白い部屋には誰も居なかったけど、私が呼び掛けるとすぐに二人は姿を見せた。
「ほ~い、珍しいね、アイリーンからお誘いなんて」
「紙漉き云々の作業が一旦終わったってことかな、お疲れ様~」
ギルは相変わらず察しがよろしいことで。シュミカも元気そうだね、そういえば私からこういう事に誘うのは珍しい、地球に居た頃も、大抵誘われるのは私の方だったから。
「バタバタしてたのが一旦終わったから、慰労も兼ねてね。折角だしシュミカも一緒にいこっ」
「おお、私もご相伴にあずかれるわけか!いつでもウェルカムだよ~」
「んじゃ早速いく?準備とか大丈夫かい?」
「大丈夫、準備っていうほどのものいらないし」
「了解~、現地の火精霊に連絡いれとく。」
今回はネルちゃんがお仕事でいないので、4人で行くことになる。あのだだっぴろい温泉に4人とか贅沢極まりないけど、たまにはいいよね~。
「そういえば、コーマは?ちゃんと仕事してるの?」
ふと気になってギルに尋ねてみる。
「うん、最近はなんか面白くなってきたって言って、ネルの村にかかりきりになってるっぽいよ」
「ほー、コーマもとうとう神としての自覚が出てきたってことなのかな?ま、なんにせよ良い事ね」
今度の連絡会で、進捗色々聞けばいいわね。とりあえず温泉に行く事だけ伝えておくか。
「コーマには一応伝えてあるから大丈夫だよ」
ギルさんお仕事できる人ですね。先読みされたわ。
そんなやり取りをしつつ、ギルが「ちょっと待ってて」と言うので待機していたら、なんと美少年人形を抱えてやってきた。
「え、・・・どうしたのそれ、コーマの美少年人形じゃないの」
「いつもライオンだとアレかなと思って、たまには気分転換?」
今回の一代使徒達の目にも止まらなかった哀れな美少年人形を活用してくれるのかぁ、優しいねえ。
そんなこんなで、今回は美少年なギルを連れて温泉へGO~!
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トリル女性陣+ギルがほんわかした時間を過ごしている時を同じくして、別の惑星担当の部屋
「なんで・・・なんで滅ぶんだ、ちゃんと発展しただろ!」
冒険者がいて、魔物がいて、チート級の技能や魔法があって、それなりに発展していたはずの星が、どんどんとその人口を減らしている。
その星は強いものは優遇されていたが、弱いものは淘汰される弱肉強食を絵に描いたような世界だった。ファンタジーだから、という思いで一部のステータスの高い者達に恩恵を偏らせ過ぎた結果、戦う力のない者は魔物や飢餓、様々な要因によりその命を散らしていった。
結果として、強いものしかその星には残っていない。それを支える人々を失っては成り立たなくなっている事に、その滅亡が見えてくる直前まで気付けなかった。
遠くない未来に、この星から人間は消えるんだろう。魔物が跋扈し、その弱肉強食によって成り立つ星に成り下がる。星が死んだわけではないが、ゲームとしては終わりだとその星の担当は悟った。
「まあ、いい時間つぶしにはなった。お前の役目もこれで終わりだ」
「終わり・・・?じゃあ俺はどうなる、お前の暇つぶしの為だけに連れてこられた俺はどうなるんだよ!」
自分が神に近しい存在になっていたとはいえ、元は人間。目の前の自分を連れてきた神にとって、自分の命など塵に等しいものなのだという事も理解している。
目前に迫った自分の消滅の危機に、声を荒げない事はできなかった。
「私にお前はもう必要ない、だが、暇つぶしに付き合わせた礼位はしてやろう」
「なら、俺をもう一度地球に戻してくれよ、生まれ変わらせてくれよ・・・!」
「残念だが、それはできない。もう一度生を受けたいのなら別の星に、という事になるな」
「クソッ・・・!このまま消滅するくらいなら、別の星でもいい、転生させてくれ!」
「分かった、では候補の星をいくつか見せてやろう、それでお前が選べばよい。能力は選べんがな」
そう言うと、その神はいくつかの星の模型を男に見せた。その中にはトリルも含まれていて、トリルの簡単な説明文が「古代文明程度、武器もない、魔法はある。発展速度は非常に緩やか」とあった。
それを見て、男は興味を一ミリも示すことなく別の星に目を移したのだった。
「この星にする」
男が選んだのは、自分が創ったファンタジックな魔法と魔物の世界に程近い、トリルとは別の星だった。
こうして、ゲームからまた一つ星が脱落したのであった。




