生えてくる魔法
暫く忙しい日々が続いていた。毎日のように使徒候補を連れて来るシエル、施設を設置する作業も慣れたもんですわ。最初の使徒選定であんなに暗い気持ちになったのに、今はそうでもなくなったのは、神になった弊害なんだろうか・・・。慣れって恐ろしい、いやこれは慣れちゃいけないと思う・・・けどある程度は割り切らないといけないっていうのも分かってる。
ギルもこういう葛藤を経て今に至るんだろうか・・・。
作業をこなしつつ、ぼーっと考える。あと少ししたら、紙漉きは全土に広がるだろう。そしたらちょっとだけ休憩ということで、また温泉にでも入りに行きたいな。
若干現実逃避が入ってる気がするが、連日作業していると大体誰でもこうなるわ。多分。
シエルが下界に行き、今日の使徒候補を捕獲?しに行っている間、ちょっとだけ時間があるので、一番最初に一代使徒になったカイ君の様子でも見てみよう。どれどれ。
なんか凄い人数増えてんね・・・、三つの集落からそれぞれ人がやってきては作業して、また集落へと帰っていく。楮の栽培がちょっとだけ追いついてないかも・・・?いや・・・大丈夫そうっぽい?
楮の栽培地へ目を向けると、なんだか成長が早い気がする。これは・・・もしかして、もしかしてだけど、成長促進の魔法でも生えた?誰かが思い付いた?じゃないと説明し辛いレベルに成長が早い気がする。
「へるぷー」
「施設に来てる人たちの中で、土魔法を昇華させた子がいるっぽいね。今施設にいる子のステータス確認してみて」
「おぉぅ・・・どれどれ・・・あ、この子かな」
<ミーヤ>
種族:人族
所持魔法:魔法基本セット、土魔法:成長促進、水魔法:栄養水(植物限定)、植物魔法:緑の心
「なんか見たことない魔法が増えてるーーー!緑の心てなんだ!?」
「詳細はクリック!」
「マウス操作じゃないわよ!CMか!」
ギルと漫才しつつ、見たことない魔法へと意識を向ける。
土魔法:成長促進
「大きくなあれ」と念じながら魔力を放出していたら習得した魔法。植物の成長が早まる。
水魔法:栄養水(植物限定)
「おいしく育て~」と念じながら水をやりつつ魔力を放出していたら習得した魔法。普通の肥料とは競合しない植物にとっての栄養が満点な水がでる魔法。
植物魔法:緑の心
お花さんやお野菜さんとお話がしたいと願いながら、お世話をし続けたら習得した魔法。
植物の気持ちがちょっとだけ分かる。収穫のタイミングはこれでバッチリ
な、なんかええ子や・・・。ほろり。
「魔法ってこうやって生えてくるの・・・・」
「いや普通は・・・どうなんだろ、想像力で勝手に創ったりする人もいなくはないけど」
「あー、よく小説とかであるよね。でもあの場合は地球の人が転生した場合じゃない?」
「そうだね、天然でこれは結構珍しいかも?それにしても、見事に穏やかな魔法だね」
「ラプールの人達の人柄がよく出てるよね」
この子が特別なのかと思いきや、どうやら地味に広まっているらしい。人によって若干の差はあるようだけど、劇的に一日で収穫可能になるとかそういうのはないみたい。願いが魔法になるってなんだか素敵だわ~って思ってたら、シエルが帰ってきた。
「あ、お帰りなさいシエル。今日連れてきた人たちにちょっと聞きたい事あるから、勉強部屋に連れてくのちょっと待ってもらっていい?」
「はい、いいですよ母様」
シエルの許可も頂いたので、先程の魔法についての認識を今日来た使徒候補の人達に聞いてみた。
「ああ、うちの集落でも使ってる人いますね」
全員がこんな感じだった。ええ・・・そんなメジャーな魔法だったの・・・知らなかったわ。なんだか負けた?気分になった。
じゃあ他にも魔法が生えた人とかいるのかもしれないわね。空いた時間にちょいちょい確認しておかねば・・・!私の大陸なのに知らないのはちょっと恥ずかしいし!
「そっか、ありがと。勉強頑張ってね」
心の中の恥ずかしい気持ちを悟られまいと、にこやかに手を振って誤魔化す。
「は、はいっ!女神様のご期待に沿えるよう精一杯頑張りますっ!」
ビシィッ!と気を付け状態で使徒候補の一人が答えると、他の人達も倣ってビシィッとなった。なんだか鬼軍曹になったような気分だわ。
これでまたいつも通り、一日で教育を終え、また巣立っていくんだね・・・。さて、多分明日で最後になるかな、大量だった今回のお仕事も無事に終わりが見えてきた。
よし、ここは一発気合を入れ直して・・・うん、ラストスパートがんばろっ!
あ、入れ物の人形さんは全部で12体ほど採用されました。流石に男性が女性の入れ物に入る、とかの人は居なかったけど、若干女性が多めだったかな。獣人になった人もいたね、隠れケモナーかしら?
やっぱりというと、可哀そうだけど・・・・美少年人形は売れ残った。




