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一代限りの使徒

 選定を始めてから初めての交渉がやってきた、私ではなくシエルが交渉するんだけども。大丈夫、お遣いは初めてではない・・・が!心配だわ・・・。


 「母様、そんなに心配しないでください。大丈夫、必ず上手くいきますよ」


 「う、うん・・・、何事もないとは思うけど気を付けてね。」


 私も心配し過ぎな自覚はあるんだよ、あるんだけどね・・・理屈じゃないのよこれは。産んだわけではないけどこれが親の気持ちなのね・・・とか思いながら、シエルの背中を見送る。といっても、一瞬で光になっていくだけなんだけども・・・。


 「では、後程」


 そう言い残し、シエルは光に包まれ、そして消えていった。今頃選定した一人目の元へ舞い降りただろう。

気になるのでズームして見ておこう・・・!



~とある集落~


 ここは、ラプールのとある集落にある家の中の一つ。ここに住んでいるのは家族5人、選定したのはその中の一人である。


 男の子で、名前は「カイ」という。この子の使徒適性は3、魔法はもう使えるようだ。そして他の適性はというと、学問が2、物作りが3と、中々のバランスタイプ。

 ステータスも割と普通だけど、選定された最大の理由は、この子物凄く根気強いのよね。一つの作業を黙々とやるということに特化したタイプというか、広く浅くではなく狭く深くみたいな。


 あっ、シエルが降臨した!滅茶苦茶びっくりしてるわ・・・そりゃそうか。いきなり光が下りてきて美少女出てきたら腰抜かすわね。


 シエルがカイ君に歩み寄る。カイ君はシエルの事をガン見してる、というか目が離せないわよね、普通に。驚きのあまり声も出ないようだ。


 「私は、女神アイリーンの使徒、シエルと申します。今日はカイさんにお願いがあって参りました」


 ぺこりと頭を下げ、丁寧にあいさつするシエル、かわいい。物言い自体は大人びてるけど、見た目が少女だからか、挨拶上手ねえ~って褒めたくなるんだよね・・・。

 いかんいかん、そんなことより成り行きを見届けねば!


 「めっ、女神さまっ!?・・・えっと・・・女神様の使徒様が僕に何を・・・」


 「貴方にやってもらいたい事があるのです、カイさん、女神の使徒になってみませんか?」


 まさかのド直球だった・・・。


 「ええっ!?僕が使徒・・・?」


 「はい、ある事を成し遂げるには、使徒になる方が必要なのです。それでカイさんが使徒となるにふさわしいと、判断されました。もちろん、断る事も可能です。それによる罰なども当然ありません、こちらが無理を言ってお願いしている立場ですので。」


 「僕が・・・ふさわしい・・・使徒・・・」


 考えながら、ブツブツと断片的に呟いているカイ君、真剣に悩んでるな・・・。ガルクさんの時は即決だったけど、あれは普通じゃないんだよね・・・?


 やがてカイ君は、傍で呆然と眺めていた家族に向き直り


 「僕、使徒になっても構わない?」


 そう、尋ねたのだった。


 「っ・・・!女神様の・・・お役に立てるんですか・・・?カイが・・・」


 家族の反応は半信半疑といったところだろうか?ま、当然だよね・・・自分の子がいきなり使徒だなんてねえ・・・。


 「ええ、これから女神アイリーンが齎そうとしているもの、その為の使徒なので。」


 「ならば、どうか・・・カイを、宜しくお願いします」


 そう言いながら深々とシエルに向かって頭を下げ


 「カイ、貴方が良いと言うなら止はしません。女神様のお役に立ちなさい」


 カイ君の方へ向き直り、そう告げた。えええ・・・いいの?


 「はい!僕がんばるよ!・・・シエル様、僕使徒になります!」


 そう言ったカイ君へ、シエルはにっこりと微笑んで


 「はい、では私の手を取っていただけますか?これから一旦私達の世界へとご案内いたします、そこで必要な教育と知識を授ける事になります。詳しくはそちらでお話ししますね」


 手を、差し出したのだった。


 カイ君はそっと差し伸べられた手に、自分の手を重ねた。そしてシエルと共に家族の方へと向き直り、深々と頭を下げたのだった。

 光に包まれていく二人を、家族の方はうんうんと頷きながら見守っていた。その頬には涙が流れていた・・・。


 「ごめんね・・・家族を・・・奪ってしまって・・・」


 大陸を発展させるためとはいえ、家族の一人を奪ってしまう形になってしまい、なんだか罪悪感でいっぱいだ・・・。これから複数の人に毎回こうやって別れが訪れてしまうのかと思うと、やるせない気持ちになってしまった。

 ちょっと沈んだ気分でいると、やがて光が目の前に現れ、シエルと手をつないだカイ君が現れた。


 「ただいま戻りました、母様」


 「お帰りなさい、シエル」


 「はっ、はじめまして!女神様っ!カイと申しましゅっ・・す!」


 盛大に噛んだカイ君にちょっと和んでしまった。大きな声で挨拶したカイ君に悲壮感は全くなく、やる気に満ち溢れた瞳をしていた。


 「ふふっ・・・よろしくね、カイ君」


 そう言ってカイ君の頭を一撫ですると、カイ君は周りにお花が咲いたように満面の笑顔を浮かべたのだった。挨拶も程々に、シエルはギルの元へとカイ君を連れて行った。これから紙漉きを伝える使徒としての知識を与えてもらうのだ。姿形を変えるかどうかはまた後で選んでもらう事になる。


 こうして、一人目の使徒選定を無事終えたのだった。

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