ネルの初仕事
無駄に広い荒野がロクスト大陸にはある。魔物と呼ばれるものもそこにはあまりいないので、人が住もうとしたらまあそんなに危険はないのだが。
「開墾する物好きがいるわけねえ」
そう、ロクストにいる種族は偏っていて、開墾とか地味な作業好きそうな奴が皆無だ。ドワーフは穴倉から出てこないし、ドラゴニュートは山の麓の村に引き籠り。アラクネも基本は集落の外に出ない。にゃんこ達は各地を回って作った物を交換したりしてる行商人のようなメッセンジャーのような生活だから定住はしない。
「これは新しく種族を作ってみるか、どうせなら獣人がいいな」
新しく獣人を創るにしても、農耕が好きそうなイメージの動物を元にしないと、気性が違い過ぎてはだめだという事を流石に学んだのである。
「開墾するなら力が強くないとな・・・、あとは草食系のほうが農作業好きそうなイメージあるな」
動物・魔物の一覧を見ながら候補を絞っていく。
「土耕すイメージは牛?とか馬か?あとはあれだ、モグラとかか」
厳密にいうと、モグラは害獣である。
「あとは羊とか山羊とか・・・」
もはや牧場である。
「草食系獣人の集落か・・・それはそれでいいな」
ケモナーに目覚めたわけではないが、普通の人間をいきなり創造するのは無理そうなので、どうしても動物系になってしまうのは仕方のない事なのである。
「まあ雑食でもいいけど」
既に選定が適当になってきているコーマである。
「知性を持ったゴブリンとか・・・オークとか・・・優しい世界じゃないか?」
と、ここで方向性が変わってきた。考えるうちに、人型の魔物を進化させる方向へと舵を切りだした。
「ゴブリンは良く分からんが、オークは豚さんだもんな・・・なんでも食うよな」
獣人もいいけど、あまり種族を増やし過ぎると、諍いの素になりかねない・・・という懸念が出てきたのだ。単一種族の方が問題は起こりにくいのは確かである。
「ヘルp「はいはい、気性が穏やかなゴブリンもオークも作成可能だよっと」」
「話が早くて助かる」
「あの辺は繁殖力も高いし、荒野向きではあるね」
どうやら方向性としては間違ってなかったらしい。食い気味に教えてくれるとかギル有能だな。
「じゃあその方向で調整してみる、んでちょっとネル連れてきてくんない?」
「ああ、ネルに色々指導させるのかい?」
「まあそんなとこ、いくら知性与えてもゴブリンやオークの知識だけではちょっと心許無いからな」
「分かった、一応説明してからそっちに連れて行くよ、それまでに準備しておいて」
「りょ」
一旦通信を切り、魔物の一覧からゴブリンとオークを選択し、カスタマイズしていく。これ便利だな・・・。気性は穏やか極振りで、知性は高めで・・・見た目もちょっと優しい感じにしておこう。
腰布だけのイメージあるけど・・・まあ服着せとこうか、布の服でいいな。メスもいるしな、一応。
ギルが白い部屋でネルに荒野を開拓する集落を創る事と、その集落をゴブリンとオークで作るという事を伝え終わる頃には、カスタマイズも滞りなく終了していた。
「やあ、設定おわった?」
「ああ、あとは初期設定の数を決めないといけないくらいかな」
「あまり多すぎても少なすぎても、大変なのでちゃんとギル様に助言いただいてからちゃんとしてよコーマ」
ネルのコーマに対する信頼は、未だに地の底である。
「勿論、そのつもりだ。ネルの初仕事だし失敗はしたくないしさせたくないからな」
「分かってるならいいのです」
良い事言ったはずなのにこの扱いよ・・・。泣きそう。
その後、細かく数を調整し、ネルが指導できる範囲の数に収まった。
「では、行ってまいります」
ペコリと頭を下げ、淡々と挨拶を告げた後、ネルは下界に降りて行った。初期設定の粗末な村っぽい集落が出来ていて、近くには一応川も流れている。そこに次々と優しい顔をしたゴブリンやオークが生まれ、その中心にネルが下りたのを確認した。
処理が難しい所があれば、ギルがサポートしてくれるようだ。大サービスである。
これで、開墾が進み、農耕作業をして、荒野から豊かな土地へ変わっていくといいなと思う。ネルの事だからきっちり仕事はしてくれるだろう。
荒野には小さな魔物もいるが、動物レベルの強さなので問題はない。ま、暫くはかかるだろうから、周辺の土壌の成分でもチェックしとくか。腐葉土用にちょっと離れたところに森っぽいものを作っておこう。
「いきなり森とか作るなです!ちゃんと確認取ってからにして!」
こいつ・・・心に直接・・・!?
いきなりダメ出しをくらったコーマであったが、新たな発展の兆しを見せたロクスト大陸の新たな歴史が始まった瞬間でもあった。
こうして、ネルの初仕事は結構時間のかかりそうな一大事業でしたとさ。
しばらくネルちゃんのお仕事のお話が続きます




