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アーティファクト授与式

 ラプール大陸の住民の朝は早い、日の出と共に起き、働く。自堕落な生活をしている者はおらず、皆勤勉だ。起きて、支度を整えると、自然と足は神殿の方へと向く。決められた教義は無く、聖典などもない。

 だが、人々は大陸を創りたもうた女神に毎朝祈りを捧げるのである。


 とある集落の神殿に、光の柱が立った、それは天から真っ直ぐに神殿へと伸びている。


 「・・・!?なんだ・・・?」


 誰かがそう言ったが、誰もそれに答える事は出来ない。こんな事は初めてなのだ、分かる訳もない。今まで何かを閃いた人がそこに導かれるといったことはあったが、神殿に光の柱が立つなどという事は誰の経験にもなかったことだ。

 自然と、皆の足取りも早まり、神殿へと吸い寄せられるように向かっていく。そこに、何かがある・・・、根拠もないが、確信めいた気持ちでいた。


 各地にある神殿は造りは大体同じで、女神の石像の置かれている部屋は広く、集落の全員が入れる程である。神殿へと足を踏み入れると、女神の石像が光り輝いているではないか、人々は驚き、そして跪く。

 優しい光に包まれた女神の石像は、やがてその光を少なくし、完全に消えると・・・そこに少女が佇んでいた。この世の者とは思えない美しい少女、見たこともない衣服に身を包み、金色の髪の毛はふわふわと美しくたなびいている。

 その少女を見た人々は、言葉を発することを忘れ、ただただ見入っていた。


 「私は・・・女神より遣わされし神の使徒、この中にガルクという名の者はおりますでしょうか」


 凛とした鈴の音のような声、少女は自身を神の使徒だと言った。そして、この集落の者の名を呼び、それを探しているという。

 名を呼ばれた者は「ガルク」、それが学問適性4を持つ人物の名だ。


 「は・・・はい、私がガルクでございますが・・・」


 震える声で、使徒の呼びかけに応えて、ガルクは前へと進み出た。恐る恐るといった様子で足取りは若干フラフラしている。畏れ多いという気持ちと、緊張のためのようだ。


 「これを・・・」


 少女が差し出した手に、分厚い何かが現れた。書物というものはまだこの世に存在していないため、それが何なのかこの場にいる全員が分からない。


 「これは書物、文字の書かれた物、女神の創りたもうたアーティファクトです。あなたはこれを手に取り、これを理解し、そしてこのラプールに文字を齎す者として選ばれました。」


 「わ、私が・・・・?文字、というのは・・・?」


 一度に与えられる情報が多い為、疑問を述べるしかガルクはできなかった。しかし、その書物と呼ばれる物を手に取れば、知り得ない知識が得られるということだけは理解できた。

 怖い・・・、が少しワクワクもする。ガルクは色んな物事の知識を頭の中に集める事が好きだった。植物の知識、道具の知識、そして女神に関する出来事の知識、色んな人に話を聞いては頭に詰め込んでいたのだ。


 知識欲の塊、それプラス女神の大ファン。それがガルクという男の特徴だった。


 「貴方は、女神に選ばれた者。しかし、この書物を開けば貴方に使命が課されます・・・選択は自由です、手に取るも取らないも、貴方次第です、それによる罰などはありません。」


 女神に選ばれた、それだけでもう手に取る気になっている。このラプールにおいて、女神の為に働けるのを嫌がる者など居はしまい。使命?喜んで!


 「謹んで、お受けいたします。」


 ガルクに迷いはなかった。真っ直ぐに少女を見つめ、その前に跪く。


 「分かりました、これよりこの書物を授けます。開けば貴方の頭に直接知識が入り込むでしょう、少々辛い思いをするかもしれませんが、落ち着くまでは私が貴方をお守りしましょう。」


 そういうと、少女は書物をガルクが差し出した手にそっと置いた。

 その書物の装丁は、青かった。まるで目の前にいる少女の瞳の色のようだった。美しい・・・それ以上の言葉は出てこなかった。

 ガルクは、置かれた書物に手をかけ、それを開く。その瞬間、頭の中に文字列が入り込んできた・・・!


 「ぐっ・・・・!」


 ぐわんぐわんと目が回るような感覚、この文字をラプールに広めるのが私の使命・・・!喜んでお受けします女神よ・・・!書物を開いたまま、目を見開き、痙攣を繰り返すガルクの姿を神殿にいる人々はただただ見守るしかなかった。ざわつくこともなく、皆食い入るように見ていた。


 これが・・・文字・・・!これがあれば、後世に様々な事を伝えることが出来る・・・!技術も植物の知識も、女神の事も・・・!女神を賛美する言葉を、世に広める事が出来る!


 方向性が若干アイリーンの想定とは食い違っているものの、ガルクの脳に文字は無事刻まれた。


 「はぁっ・・・はぁっ・・・」


 荒い息を吐き、それが段々と落ち着いてくる。儀式は滞りなく済んだようだ。


 「まずは、その得た知識『文字』をこの集落で広めなさい、その書物は貴方にしか開くことはできませんが、貴方が再びその書物に導かれる時、その者と使命を共に。それが女神の望みです」


 女神の望みを自分が実行できる喜び、ガルクは暫く涙を流し使命を全うする事を誓った。そして、この文字を使って、今起こった事を詳細に記し、女神が文字をラプールに齎したことを後世に残す事、それを人生の目標に掲げたのであった。


 「それでは皆様、ごきげんよう。働き者の皆様を、女神は愛しておられますよ。」


 そう言い残し、少女はまた光に包まれ、そして消えていった。

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