アイリーンの使徒誕生
温泉の話で盛り上がったので、自分の大陸でも温泉湧かないかなーと山沿い中心に情報を拾っていくが
特にめぼしいものはなく、温泉もわかなそうだった・・・残念。そういえば火山は噴火とか怖いし設置しなかったんだったわ・・・と思い出し、温泉の事をその時考えて休火山でも設置しておかなかった迂闊な当時の自分にガッカリ。
そんないつものアイリーンの日常。
(かあさま・・・、かあさま・・・・)
ふと、呼ばれた気がしてシエルの寝ている方を振り返る。目は閉じたままだ、寝ている・・・よね?
と、立ち上がりそちらに歩いていく。相変わらず可愛い寝姿に癒される。
「ああ~かわいい・・・ほんとかわいい」
語彙力が消失しているのはいつもの事だ、シエルを前にすればアイリーンの語彙力など無に等しい。
かわいい以外の言葉が出てこないのだからしょうがない。親バカにも程がある・・・。ネルが目覚めるまでちょいちょい頭を撫でたり話しかけたりしていたアイリーンだが、今はそれよりも酷い状態である。
(いま・・・おそばに・・・・)
フワフワの髪の毛を手で梳いて、うっとりとシエルを眺めていると、目元がピクリと動いた気がした。
「ん?・・・・今、目が・・・・?」
撫でる手を止め、動いたかもしれない目元をじっと見つめてみる、ピクピクッと動いた!目覚めは近いのかもしれない!とシエルの手を握り、その瞬間を待ち構える。一瞬たりとも目を逸らせないという気合全開で、多分他から見たらドン引き対象にもなりえる姿をしている事をアイリーンは全く気付いていない。親バカだから仕方ない。
「シエル・・・?」
アイリーンがそう呼びかけると、もう2,3回目元を動かしてそして薄っすらと目が開いていく。
まるでスローモーションで再生されているのを見守るように、その瞳が開かれていく様子を見る。
やがて、その瞳の色が確認できるほどに目が開かれたところで、その眼の色の綺麗な青色に目を奪われる。
(・・・綺麗な目・・・まるで宝石みたいだわ・・・)
使徒の入れ物を作るときにイメージした天使のような姿、フランス人形のようなふわふわとした髪の毛、
そして南の国の海のような澄んだ青い瞳。どれを取ってもこの世の美を集結させたような、完全なる美だと感じた。まるで絵画の世界に迷い込んだかのよう。
などと、詩的な賛美の言葉が頭を駆け巡っている間にもその瞳はどんどん開かれていく。
「・・・」
完全に覚醒したであろうその瞳をアイリーンへと向けたまま、シエルは何か言葉を発しようとしているが、ぱくぱくと口を開けたり閉じたりするだけだった。ずっと寝たままだったし、発声がうまくいかないのかもしれない。
「シエル・・・おはよう、シエル」
優しく頭を一撫でして、感動で泣きそうになるのを堪えながらその名を呼ぶ。
「・・お・・はよう・・・ございま・・・す、かあ・・・さま」
鈴の音のような声とはこの事だろうか、少女の可愛らしい声にノックアウトされそうになるのを必死で耐えつつ、言われた言葉を頭の中で反芻する。
(待って、今かあさまって言ったよね?かあさまって母様?・・・私ママン?)
脳内でかあさまを辞書検索して出てきたお母さん、ママ、母親、母上などの言葉が脳内で踊り狂う。恋人がいた事は一応あるが、結婚もしないままこちらにきたし、そもそもそういう行為も知識としてしかない、いやいや今は神様だから大陸の住人は全員我が子のようなものだしシエルがおかあさんって認識してても別に異常はないとおも
ちょっと落ち着こうか、私。
そう自分に言い聞かせると、何回か深呼吸をして頭を冷やす。
「・・・私の可愛いシエル、目覚めた気分はいかが?」
娘でいいよ、かわいいもん!
手遅れだった。
******
「使徒としての命を与えてくださり、ありがとうございます、アイリーン様」
改めて、ベッドに腰かけ、アイリーンに向かってシエルはお辞儀をした。ベッドに腰かけたままなのは
目覚めた直後でフラつくかもしれないというアイリーンの心配のせいである。親バカなので!
今度は母様とは言わなかった、ちょっと残念。
「あの・・・さっきかあさまって・・・」
非常に聞きにくいが、使徒に遠慮していてはいけないかなと意を決して聞いてみる。
「私に命を吹き込んでくださったのもありますが、名前を下さったので・・・目覚めるまでの意識の中ではずっと母様とお呼びしておりました・・・それでつい・・・ご迷惑なら申し訳ありません」
恥じらうように顔を少し俯かせて、伏目がちに謝るシエルに身悶えしそうなほど萌えたアイリーンであったが、脳内でお祭りが開催されていることを表に出さないように必死に堪え、なんとか言葉を絞り出す。
「謝る事は無いわ、私はラプールに生まれた魂全ての母であると思ってるから、間違いというわけでもないと思うの。それに、こんなに可愛らしい子に母様だなんて言われて嫌な人はいません」
よく天使とかが父なる神とか言ってた気がするし、全然オッケーだと思うのよ!という持論を脳内で展開しつつ、母呼び公認することにした。可愛いから仕方ない。
そうしてここに、お互いに大好きすぎる神と使徒が爆誕したのであった。




